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第27話 ベイルのベイル
しおりを挟む「言っとくが、ルールを破ったらこのサウナからは二度と出られないぜ?」
灼熱の密室で、勇者ベイルがとんでもないことを言い始めた。
プリメーラは部屋を観察する。この壁を覆っているのは、ラグナ鉱石か。魔法を吸収してしまう特殊な石だ。プリメーラの腕力では、物理的に破壊することもできないだろう。
「ふむ」
とりあえず、奴の言葉が真実だとしたら、ここで殺すのは早計。
閉じ込められたのは事実。とりあえず、デス・サウナシステムとやらの説明を聞いてみるしかない。
困惑気味だったが、プリメーラは言われたとおり、テーブルの上の腕時計のようなものを右手に装着する。ベイルも、残った方を腕に装着する。
「画面に触れて、魔力を流してみろ。そうすると5ケタの数字が出るはずだ」
言われたとおりにする。
一瞬だけ37564と表示された。
「ルールは簡単だ。お互いどちらかが死ぬ前に、相手から番号を聞き出す。そして、扉のところにあるパネルに、ふたりの番号を打ち込むことで脱出することができる。それだけだ」
「ほう、ならばすぐに貴様を殺し、数字を確認させてもらうことにしよう」
「おっと、そいつはどうかな? 数字を確認するには、ブレスレットを付けている本人が魔力を流さなくちゃならない。要するに、殺したらおしまいだ。二度と見ることはできないぜ?」
「つまり、拷問でもして、相手から聞き出せば良いということか」
有利だと思った。結局のところ、生殺与奪はプリメーラが握っている。デス・サウナシステム如きで、この絶望的な状況をベイルが覆せるわけがない。
「有利だ……とでも思ったか? プリメーラ」
勇者ベイルが、口の端を吊り上げる。彼の自信の笑みを見て、プリメーラはゾグと背筋が冷たくなった。
「俺は、どれだけ痛めつけられても、絶対に番号は言わない」
「ほう。だが、これは一方的な拷問だ。どれだけ時間をかけても、貴様の番号を聞き出してみせる」
「一方的? おいおい、すでに拷問は始まっているんだぜ? お互いにな」
「なん……だと……?」
ベイルが、腰に巻いていたタオルを掴み、ぶわりと風を巻き起こす。強烈な熱波が、プリメーラを襲った。
「くっ!」
「ここはサウナだ。人工的に肉体を追い詰める施設なんだぜ?」
勇者ベイルは語る。昔は、頭の悪い連中が『我慢比べだ! 負けたら牛乳を奢るんだぞ!』とか言って、いかに長く入っていられるかをサウナで競っていたという。
だが、それは寿命を削る行為。サウナ本来の楽しみから遠のいているばかりか、命を危険にさらしている。
デス・サウナシステムは、そんな拷問にも近い行為を強制させる死のシステム。
――命懸けの我慢大会。
「こいつは間違ったサウナの使い方だ。だから、なるべくなら使いたくなかったんだが……魔王軍が相手なら話は別だ。悪いが、地獄まで付き合ってもらうぜ」
「な、なるほど……しかし、我慢比べなら私とて負けんぞ。これでも伝説の熱波師のもとで修行してきたのだから」
――師アスティナ。
いまでは感謝している。
最初の頃は、サウナに入るコトなんてできなかった。それぐらい熱いのが嫌だった。けど、彼女のもとで修行していると、徐々に慣れてきた。勇者ベイルと戦うことができるのも、彼女のおかげだろう。
――ありがとう。
「さあ、勝負だ。プリメーラ」
「よかろう。相手をしてやろう、勇者ベイル!」
☆
我慢比べが始まった。
始めてから数分で『私、なにをやっているんだろう?』って思った。
――なんで、私はこいつを殺さないのだ。
プリメーラは、右手のナイフに視線を落とす。こいつを使えば、丸腰のベイルぐらい倒せるだろう。だが――。
「……へっ……。俺を殺したら、二度とここから出られないぜ」
プリメーラの思考を読んでいるかのように、ベイルが言った。彼の額からは、相当な汗が流れている。
「わかっている。しかし、例え私が勝ったところで、出られる保証がないだろう」
「見損なうなよ。これでもサウナーだ。誇りがある。この部屋どころか、城壁の向こう側まで安全に送り出してやるよ」
「……信用できるものか」
「頭のいいおまえなら、理解できるはずだ。俺が死んだ時点で、どのみち世界は魔王軍のものになる。足掻いたところでどうしようもないだろう」
たしかに、勇者ベイルさえいなければ魔王軍の勝利は間違いないだろう。前の戦で、騎士団がベイルに頼り切っているのは見えた。
「あんたが、俺と無理心中をしたければ、とっとと殺したらいい。言っとくが、抵抗はさせてもらうぜ?」
ゆらりと立ち上がり、タオルを構えるベイル。ベイルのベイルがあらわになる。
「前を隠せ。マナーだぞ!」
くッ! なんで、全裸の男と、密室でふたりきりにならねばならんのだ! 嫁入り前なのに、破廉恥すぎる!
――ベイルを殺すのは、番号を聞き出したあとだ。絶対に負けられない。絶対に、生きて魔王軍に戻ってみせる!
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