異世界サウナ。ととのえばととのうほど強くなる勇者がサウナの力で無双する。~能力を恐れた魔王軍が全裸の時に攻めてくるので、全力でもてなします~

倉紙たかみ

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第28話 隙を与えぬデスサウナ

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 デスサウナ開始から10分経過。

 だが、ベイルの顔は余裕そうである。プリメーラはというと、すでに限界が近かった。

「ククク、そ、そろそろ限界ではないのか?」と、余裕ぶってみせるプリメーラ。

 強がっているけど、汗も滝のように流れている。纏っていたシャツも透け始め、中の水着が輪郭をあらわにしていた。

「――2時間41分」

 ベイルが、ポツリとつぶやいた。

「なんだ、それは?」

「2時間41分。それが俺の最高記録だ」

「なッ――ば、バカなのか! サウナはそういう記録に挑戦するものではないだろう!」

「好きで入ってたんじゃねえよ。……ある日、サウナに入っていたら、地震が起こったんだ」

 大きな地震だった。ファイヤウォールという古い銭湯で、つくりが甘かったせいか、ドアが歪んでしまい、ベイルは出られなくなったのだという。

 店主は、嫁さんと一緒に一目散に逃げてしまい、助けてくれる人がいなかった。

 ベイルは耐え続けた。他に客がいなかったのがせめてもの救いだろう。

 いつかくるであろう救助を待ち続け、彼は灼熱の空間でひとり寂しく絶望を味わっていった。少しずつ焼かれていく時間は、まさに拷問。

 けど、いつかきっと助けがくることを信じて耐えた。抜けていく水分。乾いていく髪。血液が煮えていくようだった。

 脱水を防ぐために、彼はタオルで自らの汗を拭いて、絞って飲んだという。また、ロウリュウ用に置いてあった水をすすって生きながらえた。

 そして待つこと2時間。店主が戻ってきて、扉を破壊してくれるかと思いきや、修理代がもったいないとかで、凄い躊躇っていた。

 なので、近くの工務店に赴き、値切り交渉をして、その41分後。ついに、ベイルが救出されたのである。

 その後。当然。ベイルと店主は口論になったのだが『そんなに、うちのやり方に文句言うんだったら、二度とくるんじゃねえ、バッキャロウが!』と、罵られたらしい。

 さらに『あーあー、ロウリュウの水なんて置いとかなけりゃ、てめえみたいな面倒くさい客は、あの世に行ってくれたのによぉ』とか、言われたらしい。

 この一件以来、そのファイヤウォールという銭湯は、面倒くさい客を地震で皆殺しにするため、ロウリュウをやらなくなったそうだ。ああ、その店なら知っている。プリメーラが働いている店である。

 ベイルの新記録2時間41分。これは恐ろしい数字だ。10分ですら厳しいのに、それが延々と続くとなると、さすがに怖くなる。――が。

「そ、そんなものはハッタリだろう?」

 プリメーラを追い詰めるための虚言に違いない。

「どうだろうな」

 そう言って、ベイルは軽く桶を蹴った。入っていた水がバシャリとこぼれ落ちる。

「ああっ! 貴重な水がッ!」

「もったいないと思うのならすすれよ」

 ――なんというドS!
 これが勇者のやることか!

 プライドの高いプリメーラは、そのようなことなど不可能。奥歯を噛みしめて恨めしそうに流れゆく水を眺めることしかできなかった。

 ――ん? 待てよ?

「……よくよく考えれば、貴様の土俵に付き合う必要もないな」

 プリメーラは魔法を詠唱。目の前に魔方陣を発生させる。

 すると、そこから氷柱がジャキンと生えてきた。笑みを浮かべながら、なでなでする。

 ――ああ、超つめたい!
 気持ちいい!
 頬ずりしちゃう!

「フフ……。魔法は禁止ではないだろう?」

「たしかに、禁止じゃあねえが……ここのサウナは冷気を嫌う」

 突如として警報。ファーオ! ファーオ! という凄まじいサイレンの音が部屋を満たしていく。

「な、なんだッ!?」

「冷気を感知シマシタ。室内の温度低下。コレヨリ調整ヲ行イマス」

 謎の声があったかと思うと、室内の急激な温度上昇が始まる。景色が歪んでいくかのようであった。凄まじい温度。おそらく110……いや、それ以上だ。

「くっ! 負けるかぁッ!」

 目の前の氷柱が溶けそうだったので、追加で出現させる。

「サラナル温度低下ヲ感知。ヨリ強力ニ調整シマス」

 氷を溶かさんと、さらに温度が急上昇する。

「ぐあぁぁあぁぁぁぁぁぁッ!」

 まるでキャンプファイヤーに放りこまれたかのようだ。このままではマズい。氷結魔法を解除しなければ、確実に殺される。

「くっ!」

 魔方陣を消し去るプリメーラ。

「はぁ……はぁ……」

「温度ガ正常ニ戻リマシタ。調整ヲ終了シマス」

 加熱が終わって、温度が元に戻っていく。どうやら、助かったようだ。

「どうした、暗略のプリメーラさんよ。小細工はお仕舞いかい?」

「おのれ、ベイル!」

 なんという技術の粋だろう。
 これは魔石か科学か。

 ラングリードは、なぜ、このようなアホなシステムの開発力だけ発達しているのだろうか。軍事力に使えばもっとクレバーな戦い方ができるのに! 天才なのにバカの発想だ。死ねばいいのに。クソッ!

「番号を言えよ、プリメーラ。そしたら楽になるぜ」

「言ったら……生きては帰られん……死ぬのはおまえだ――うっ――」

 目眩が起こった。思わず、膝を突いてしまうプリメーラ。

「大丈夫か? 無理をするな」

「ふん、足を滑らせただけ……はっ!?」

 プリメーラは気づいた。

 ――床の方は、そんなに暑くない?

 そういえば、我が師アスティナから聞いたことがある。

『アウフグースの基本は、室内の温度を均一にすること。特に、床の辺りは温度が低くなっているの』

 熱は、高いところへ移動する性質がある。風呂でも同じだ。入った時に、お尻の方だけ冷たい時がある。これは、空気でも同じ事が言えるのだ。

 ――ありがとう、師アスティナ。これで、私はもう少しだけ戦える。

 膝を突いたままの姿勢で耐えるフリをする。この有利な状況を悟られてはいけない。

「はは、床は涼しいだろ?」

 ――なっ! バレているのか?

 ベイルがタオルを手にした。そして、勢いよく一周させる。すると、室内の空気が循環し、温度が一定になってしまう。

「ぐっ!」

「おまえの魂胆はバレバレだ。悪いが楽はさせないぜ」

「だったら、おまえも姿勢を低くすれば良いだけだろう!」

 もう嫌だ!
 我慢比べなんかしたくない!

「そういうわけにもいかねえよ。せっかくのサウナなんだ。温度を満喫しなけりゃ、サウナ勇者の名が廃る」

「廃れ! バーカ!」

 ダメだ。意識が朦朧としてきて、ボキャブラリーも低下してきている。
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