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第58話 愛はすべてを受け入れるんだなぁ
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翌日。ホーリーヘッド温泉街。
サウナの聖地さんくちゅあり。
王家の命令によっての貸し切り。
異端な要望は、それだけで町中の噂となった。理由を隠すことなどできず、騎士団は事情を説明。世界の命運を握る対決が世間へと知られることになる。
ホーリーヘッド温泉街は、緊張と日常の混濁した様相へと変わった。サウナという密閉空間のできごとなど、国民は見ることも応援することも不可能。
ならばと、祈るしかないのだが、そういった場所もないので、とりあえず誰もが温泉街にある他の大浴場などに浸かりながら、心の片隅で勇者の勝利を願う。
露天エリアで佇むのはふたりの英雄。
勇者ベイル。
魔王を屠りしヴァルディス。
腰にタオルを巻いた状態で、両雄睨み合う。
「サウナの聖地か……ククッ、勇者の墓標を立てるのに相応しいではないか」
「ほざいてろ。サウナを知って数ヶ月の奴が、俺に勝てると思ってんのか?」
牽制するかのような言葉をぶつけるふたり。それを囲むのは、アスティナ、メリア、プリメーラ。
フランシェとウルフィには、施設の外で騎士団と共に待機してもらっている。万が一、戦いが激化した場合、町の人たちを避難させる手筈だ。
ヴァルディスもお供を連れてきたようだ。ちょこんと佇むのは変幻のトーレス。戦いの邪魔をするとは思わないが、奴とて五大魔将のひとり。警戒は必要だろう。
「ベイル、絶対に負けるんじゃないわよ。アンタが死んだら、世界が終わるんだから」
アスティナが、真剣なまなざしで俺を見つめる。当然、この一戦の重圧はわかってる。
「当然だ。勝算があるから殺りあうんだ」
「ベイルくん、無理しないでくださいね」
メリアも心配しているようだ。そんな彼女の頭を撫でて、俺は「ああ、心配するな」と安心させてやる。
トーレスも、ヴァルディスのことを気遣っているようだ。
「ヴァルディスさん、あなたこそ魔物の希望……負けたら許しません」
「安心しろ、トーレス。俺は、この日のために世界中のサウナを渡り歩いてきた。昔の俺とは違う」
そう言って、ヴァルディスは俺を睨んだ。俺も視線をぶつける。火花を散らす。
「魔王様を倒した時よりも、俺は遙かに強くなっている。侮るなよ、ベイル」
「言ってろ。サウナを武力と勘違いしているバカに、本質を思い知らせてやる」
闘気を纏う俺たち。そこへ、プリメーラが司会進行をする。
「それでは、これよりサウナ対決を始める……が、これは戦争だ。別にルールもない。貴様らふたりが、この聖地で、好きなようにととのい、好きなように戦え」
「プリメーラ、準備は抜かりないな?」
俺が尋ねると、プリメーラは胸を張って言う。
「無論だ。サウナの温度も水風呂も、いつだって入ることができる。途中で故障するような雑な点検はしていない」
「ふむ」と、訝しげにヴァルディスが水風呂に近づいた。そして、確かめるように腕を突っ込んでみる。
そして腕を引き抜くと、鋭い視線をプリメーラに向けた。
「……なるほどな。ベイルにとって絶妙の調整というわけか」
「どういうことだ?」
「昨日、入った時は14度だった。だが、この感じではせいぜい12度と言ったところだ。これは、ベイル好みにおまえが調整したのではないか?」
「なんのことだ? 温度に不満なら、スタッフに言うのだな」
しらばっくれるプリメーラ。
俺も、水風呂に手を入れてみる。なるほど、感覚値ではあるが12度。要するに、もっとも俺好みの温度帯――。
「プリメーラ、正直に言ってくれ。これは、俺とヴァルディスの真剣勝負だ。気遣いは必要ない」
「……」
沈黙するプリメーラ。しばし、張り詰めた空気が流れたかと思うと、彼女は毅然とした態度で応対する。
「点検に不備があったのかもしれないな。早急に、温度を戻すとしよう」
認めずも、温度に関しては再調整を行ってくれるようだった。だが――。
「かまわぬ」
ヴァルディスが、軽く一蹴する。
「俺は世界中のサウナを渡り歩くことで、究極の体質を手に入れた。もはや、温度など些末なことよ」
「なんだと?」
「極寒、マグマ、真空、深海。ありとあらゆる環境を乗り越えた俺の身体は、どんな状況でも適応することができるようになったのだ」
例え1000度を超えるマグマであろうが、絶対零度の永久凍土であろうが、ヴァルディスはそれらすべてを自然の恵みだと愛し、感謝し、尊んできた。どんな環境でも受け入れようと、博愛の精神で旅を続けてきた。
すると、どうしたことか。肉体が、それらすべてと溶け合うように一体化したそうだ。
「すべては、愛ゆえに」
「愛……?」
「そうだ。サウナを愛するあまり、いまの俺はどんな場所でもととのうことができる」
マグマでもととのうことのできるヴァルディスにとって、数度の差などないに等しい。プリメーラが小細工をしたところで、気持ちよく浸かることができるという。
「温度調整などいらん。ベイルよ、すぐにでも戦いを始めようではないか」
「いいのかよ」
「無論だ。むしろ、ベストなおまえとの死闘を望む――」
俺たちは、仲間たちに背中を向けて神殿の如きサウナへと足を踏み入れる。上質な熱に酔いしれながら、戦いに火蓋が切って落とされるのだった。
サウナの聖地さんくちゅあり。
王家の命令によっての貸し切り。
異端な要望は、それだけで町中の噂となった。理由を隠すことなどできず、騎士団は事情を説明。世界の命運を握る対決が世間へと知られることになる。
ホーリーヘッド温泉街は、緊張と日常の混濁した様相へと変わった。サウナという密閉空間のできごとなど、国民は見ることも応援することも不可能。
ならばと、祈るしかないのだが、そういった場所もないので、とりあえず誰もが温泉街にある他の大浴場などに浸かりながら、心の片隅で勇者の勝利を願う。
露天エリアで佇むのはふたりの英雄。
勇者ベイル。
魔王を屠りしヴァルディス。
腰にタオルを巻いた状態で、両雄睨み合う。
「サウナの聖地か……ククッ、勇者の墓標を立てるのに相応しいではないか」
「ほざいてろ。サウナを知って数ヶ月の奴が、俺に勝てると思ってんのか?」
牽制するかのような言葉をぶつけるふたり。それを囲むのは、アスティナ、メリア、プリメーラ。
フランシェとウルフィには、施設の外で騎士団と共に待機してもらっている。万が一、戦いが激化した場合、町の人たちを避難させる手筈だ。
ヴァルディスもお供を連れてきたようだ。ちょこんと佇むのは変幻のトーレス。戦いの邪魔をするとは思わないが、奴とて五大魔将のひとり。警戒は必要だろう。
「ベイル、絶対に負けるんじゃないわよ。アンタが死んだら、世界が終わるんだから」
アスティナが、真剣なまなざしで俺を見つめる。当然、この一戦の重圧はわかってる。
「当然だ。勝算があるから殺りあうんだ」
「ベイルくん、無理しないでくださいね」
メリアも心配しているようだ。そんな彼女の頭を撫でて、俺は「ああ、心配するな」と安心させてやる。
トーレスも、ヴァルディスのことを気遣っているようだ。
「ヴァルディスさん、あなたこそ魔物の希望……負けたら許しません」
「安心しろ、トーレス。俺は、この日のために世界中のサウナを渡り歩いてきた。昔の俺とは違う」
そう言って、ヴァルディスは俺を睨んだ。俺も視線をぶつける。火花を散らす。
「魔王様を倒した時よりも、俺は遙かに強くなっている。侮るなよ、ベイル」
「言ってろ。サウナを武力と勘違いしているバカに、本質を思い知らせてやる」
闘気を纏う俺たち。そこへ、プリメーラが司会進行をする。
「それでは、これよりサウナ対決を始める……が、これは戦争だ。別にルールもない。貴様らふたりが、この聖地で、好きなようにととのい、好きなように戦え」
「プリメーラ、準備は抜かりないな?」
俺が尋ねると、プリメーラは胸を張って言う。
「無論だ。サウナの温度も水風呂も、いつだって入ることができる。途中で故障するような雑な点検はしていない」
「ふむ」と、訝しげにヴァルディスが水風呂に近づいた。そして、確かめるように腕を突っ込んでみる。
そして腕を引き抜くと、鋭い視線をプリメーラに向けた。
「……なるほどな。ベイルにとって絶妙の調整というわけか」
「どういうことだ?」
「昨日、入った時は14度だった。だが、この感じではせいぜい12度と言ったところだ。これは、ベイル好みにおまえが調整したのではないか?」
「なんのことだ? 温度に不満なら、スタッフに言うのだな」
しらばっくれるプリメーラ。
俺も、水風呂に手を入れてみる。なるほど、感覚値ではあるが12度。要するに、もっとも俺好みの温度帯――。
「プリメーラ、正直に言ってくれ。これは、俺とヴァルディスの真剣勝負だ。気遣いは必要ない」
「……」
沈黙するプリメーラ。しばし、張り詰めた空気が流れたかと思うと、彼女は毅然とした態度で応対する。
「点検に不備があったのかもしれないな。早急に、温度を戻すとしよう」
認めずも、温度に関しては再調整を行ってくれるようだった。だが――。
「かまわぬ」
ヴァルディスが、軽く一蹴する。
「俺は世界中のサウナを渡り歩くことで、究極の体質を手に入れた。もはや、温度など些末なことよ」
「なんだと?」
「極寒、マグマ、真空、深海。ありとあらゆる環境を乗り越えた俺の身体は、どんな状況でも適応することができるようになったのだ」
例え1000度を超えるマグマであろうが、絶対零度の永久凍土であろうが、ヴァルディスはそれらすべてを自然の恵みだと愛し、感謝し、尊んできた。どんな環境でも受け入れようと、博愛の精神で旅を続けてきた。
すると、どうしたことか。肉体が、それらすべてと溶け合うように一体化したそうだ。
「すべては、愛ゆえに」
「愛……?」
「そうだ。サウナを愛するあまり、いまの俺はどんな場所でもととのうことができる」
マグマでもととのうことのできるヴァルディスにとって、数度の差などないに等しい。プリメーラが小細工をしたところで、気持ちよく浸かることができるという。
「温度調整などいらん。ベイルよ、すぐにでも戦いを始めようではないか」
「いいのかよ」
「無論だ。むしろ、ベストなおまえとの死闘を望む――」
俺たちは、仲間たちに背中を向けて神殿の如きサウナへと足を踏み入れる。上質な熱に酔いしれながら、戦いに火蓋が切って落とされるのだった。
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