異世界サウナ。ととのえばととのうほど強くなる勇者がサウナの力で無双する。~能力を恐れた魔王軍が全裸の時に攻めてくるので、全力でもてなします~

倉紙たかみ

文字の大きさ
59 / 66

第59話 さ・メシや!

しおりを挟む
 ――温度計は100度。

 広大なフロアは、俺たちのバトルフィールド。

 熱を感じやすい上段へと、俺たちは腰掛ける。

 ちら、と、ヴァルディスを見やるが、以前とは別格のオーラを放っていた。あぐらを掻いているのだが、ズッシリと重心が低い。まるで根を張った大樹の如き威圧感を纏っている。

「ふぅぅぅぅぅん……」

 そして静かなる呼吸。魔人ならば、この程度の熱など意にも介さないはずなのに、十分心拍数が上がってきている。ありとあらゆる環境に適応できるというのは、どうやら本当のようだ。

「……どうした、ベイルよ。サウナに集中できぬか?」

 目を閉じたまま、ヴァルディスが問うた。

「違えよ。サウナの先輩として見てやってただけだ。……随分と、サマになってきてんじゃねえか」

「おまえのおかげだ」

「あ?」

「おまえに会えたおかげで、サウナを知ることができた。こうして武の境地を極めることもできた。礼を言うぞ、ベイルよ」

「その恩人を、これから殺そうってワケだ」

「ククッ、そうなるな。貴様を倒し、俺は強者の頂へと登り詰める。」

「つまらねえ目標だ。俺からすりゃ、仲間と一緒に楽しくサウナには入れたら、それで十分幸せなのによ――」

 言っても、ヴァルディスには通じないだろう。強くなることこそが、奴の信念。かつての主すらも屠る一念に、いまさら言葉を挟んだところで揺らぐまい。

 奴の発汗状態。呼吸。この環境で、十分に心拍数を上げている。無駄な動きが一切ない。

 ――魔王軍にも面白い奴がいたものだ。

 この状態なら、いつだって俺を殺すことができるだろう。なのに、わざわざととのった俺との決闘を希望している。

 いや、変わっているのは俺も同じか――。

 身体は十分熱された。

 俺たちは冷水にて、さらに肉体を追い込み、サマーベッドへと背中を預けた。それを繰り返し、ようやく天下分け目の3セット目。

 サウナに入り、冷水を浴び、俺たちはサマーベッドへと寝転び、最後の外気浴をする。

 これから始まる死闘に、ギャラリーのアスティナたちは固唾をのんで見守っていた。

 ――さあ、そろそろだ。
 もうすぐ、ととのうぞ――。
 ジワと、脳汁が滲み出る。

 ――きた!

 多幸感に包まれ、全身に魔力がみなぎり活性化する。聖なるサウナさんくちゅありによって、いつもよりも激しくととのった。

 さあ、最後の戦いだ。

 俺は、ゆっくりと双眸を開く。すると、そこには拳を振り上げるヴァルディスの姿があった。

 ――なッ!?

 まさか、俺よりも早くととのったというのかッ?

 コンマ数秒の差だが、ヴァルディスはすでに臨戦態勢。先制攻撃を開始しようとしていた。奴のパンチが振り下ろされる。俺は、転がるようにして回避。ヴァルディスの拳が、サマーベッドを粉々に砕く。

「遅いぞ、ベイル」

「くッ!」

 間髪入れず、ヴァルディスが間合いを詰めてくる。

 凄まじい威力の蹴りが繰り出された。かろうじてガードするが、その威力は凄まじく、俺を派手に吹っ飛ばす。

 まるで大砲の弾になったかのようだった。遙か遠く、城壁にまで蹴り飛ばされた。叩きつけられる寸前に、体躯を捻って態勢を変える。両脚で壁へと着地、そのまま壁を駆け上がる。

 跳躍するように、城壁へと降り立つ。ふたつ、みっつと呼吸を整える。そのうちに、ヴァルディスがジャンプして飛んできた。床へとめりこむかのような着地。

 対峙する勇者と魔人。

「どうした、ベイル。ととのうのに随分と時間がかかっているではないか」

「余韻を楽しんでいたんだよ」

 強がりではない。俺のととのい時間は、ヴァルディスとそう変わりはない。だが、あまりの気持ちよさに、目を開けるのが遅れたのは慢心だった。

 ヴァルディスを侮っていた。
 まさか、俺のととのい速度についてくるとは思わなかった。

「とりあえず、服を着ようぜ。フルチンで殺し合うってのも……なぁ?」

 そう言って、俺は城壁の下へと指を向けた。派手な戦闘のせいで、民たちが集まってきてしまっている。

「……うむ、よかろう」
 すぐに、メリアとトーレスが、それぞれの服を持ってきてくれる。それらを纏うと、俺たちの戦いが始まった。

「ゆくぞ、ベイルッ!」

「こい、ヴァルディス!」

 初撃。拳と拳がぶつかった。
 余波で、城壁にヒビが入る。

 なるほど、以前とは比べものにならないほどととのっているらしい。

 ヴァルディスの腹部に蹴りを入れる。奴は弾丸のように吹っ飛んで、城壁の遙か外にあるホーリーヘッドの岩盤へと叩きつけられた。すぐさま、俺は追撃をかける。床を蹴って、弾丸のように接近。

 ヴァルディスは漆黒の炎をレーザーのように射出して応戦。数多のレーザーを縫うように回避しながら、俺はさらに距離を詰める。

「ぬぅんッ! フレアトルネイド!」

 奴を中心に黒炎の竜巻。
 バリアか。

 俺は、それを強引にぶちぬいた。すかさず背中の剣を抜いて斬りかかる。ヴァルディスは、それを真剣白刃取りで止めた。

「やるな、ベイルッ!」

「これぐらいで『やる』なんて思われたら心外だぜ」

 剣を使って雷撃を送り込む。雷魔法サウザンドスパーク。周囲一帯に強烈な雷撃が発生。ヴァルディスの全身が稲光に包まれる。

「無駄だッ! 言っただろう! 俺は、ありとあらゆる環境に適応する肉体を手に入れたのだと! こんなもの、雷雲に包まれた天空城の電気風呂に比べたら、静電気にすぎん! 肩コリもとれんわッ!」

「そうかよッ!」

 俺は後方に飛んだ。同時に、剣を振り下ろして斬撃を飛ばす。ヴァルディスは、威嚇するアライグマのように両手を広げると、それを真正面から受け止めた。
「むうんッ!」

 そして、斬撃を抱き潰してしまったではないか。

「弱く感じるぞ。サウナを怠ったか、勇者ベイルよ」

「バーカ、誇れよ。おまえは、明らかに強くなってる」

「この程度で、強い……だと? ならば、おまえは絶望することになる」

 ヴァルディスが右腕を掲げた。すると、上空に小規模な太陽が浮かび上がる。

「消滅魔法ラスト・ザ・サン。コレひとつで城が消し飛ぶぞ」

 ――凄まじい魔力だ。

 ヴァルディスの言っていることは嘘ではない。アレを食らえば、城どころか周囲一帯が荒野と化すだろう。

「やってみろよ」

 俺は剣に魔力を込めて構えた。かつての勇者ヘルキスより受け継いだサウナの剣。持ち主のととのい度に応じて、威力が増すとされる勇者専用兵器だ。

 太陽のひとつやふたつ切り伏せてみせる。

「ゆくぞっ! ベイルッ!」

     ☆

 ホーリーマウンテン温泉街。

 城門の内側では、アスティナやメリア、プリメーラやウルフィ、トーレスや騎士団、世界の行く末が気になる民たちも固唾を飲んで待っていた。

 遙か遠く、荒野の向こうにまで戦闘の場を広げた両雄を見ることは出来ず、もはや、こうして勝者の帰還を待つことしかできなかった。

 城門が開いた時、戻ってくるのはベイルかヴァルディスか。

 数十分後。

 重き扉がゆっくりと開かれる。
 勝者の帰還――。

 現れたのは勇者ベイル。

 そして、魔人ヴァルディスの両者であった。

「ベイルくん……?」
 メリアがつぶやいた。

「ヴァルディスさん……?」
 トーレスもつぶやいた。

 ベイルが一言で状況を説明する。
「時間切れだ」
 どうやら、長き戦いを経ても決着は付かないようであった。お互いのととのった状態が終焉を迎え、一時休戦。勝負は第2ラウンドへと持ち越されることになるようだ。

「じゃあ、もう一度サウナに入り直すんですか?」

 トーレスが、引き気味に尋ねる。あれだけの死闘を再度繰り広げるのかと、ゾッとしているようであった。

「そうなるな。だが――」

 ヴァルディスが、そう言い淀むと、ふたりは同時に声を大にして言う。

「「その前にメシだ!」」

 2人の強者はサ飯を望むのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...