女子高生ですが、アイドルになるためヤクザと徹底抗戦することにしました。お嬢様学校の炎上王子が忍者やサイコパスと一緒にアイドルを目指す。

倉紙たかみ

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第2話 怪奇! ちんちんのない女子高生!

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 高道屋商店街は、三重県麻思馬市の駅から、徒歩五分の古いショッピングアーケード。

 一度はシャッター商店街化しかけたのだが、不動産屋がコンサルタントに入り、若者たちの憩いの場として盛り返した、地元民のホットスポットである。

「たしか、この辺りだよな……榊原芸能事務所……」

 馴染みのある商店街だが、店のひとつひとつが小さいので、印象に残らない店舗が多い。昨日拾ったチラシを眺めながら、和奏はぶらぶらと歩を進める。すると、穏やかではない声が聞こえてくる。

「わけわかんないし! 偉っそーに! クソヤクザが! 死んじゃえ!」「潰れろ! こんな事務所! ツイッターで晒してやる! 超絶ブラックだって!」

 こぢんまりとしたビルから、ケバい女子高生たちが飛び出してくる。それらを見送ると、和奏はビルの方に視線をやった。建物のガラス張りの扉にはこう書かれている。

 ――榊原芸能事務所。

 和奏は、チラシを見る。さらに扉の文字を二度見。そして感想をポツリ。

「……大丈夫か、ここ……」

 どうやらこのビルが目的地らしい。和奏は胃の奥から不安が込み上げてくる。しかし、他に選択肢はない。意を決して足を踏み入れることにした。

 ガラスのドアの向こうには廊下。いくつかの部屋があって、そのひとつに『面接会場』の張り紙があった。ノックして返事を待つ。

「入れ」

 ドアノブを回し「失礼します」と、入室する和奏。そこにいたのは昨日の抹茶頭の青年。ソファに腰掛け、テーブルに足を置いてふんぞり返っていた。ノートパソコンを弄っている。

「あの……このチラシを見て、きたんだけど――」

 ――アイドル募集中。

 ここは、できたばかりの芸能事務所だ。まだ、アイドルも候補生もいない状況らしい。和奏としては渡りに船。生活圏内に芸能事務所があるなど、この上ない好条件であった。

 部屋へと入るなり、京史郎は和奏を一瞥。そしてこう言った。

「不合格だ。失せろ」

「へ?」と、素っ頓狂な声を漏らす和奏。

「耳が悪いのか? それとも日本語がわからないのか? 帰れって言ったんだ」

「ま、待て! アイドルを募集してるんだろ!」

「おまえみたいなノッポを好きになるドルオタがいるか。需要がねえんだよ」

 ――秋野和奏。現役バリバリの女子高生である。

 ただし、身長171cm。女子生徒の中ではトップクラスの高身長。ルックスもスタイルも良い。顔も綺麗で整っている。誰がどう見ても美形。だが、アイドルというよりも、モデルと言った方がしっくりくるだろう。

 ぶっちゃけるとモテる。女子校なので女の子にモテる。去年のバレンタインデーは、下駄箱にも机の中にも、入りきらないほどのチョコレートが詰め込まれていたほどだ。

「金髪に黒のメッシュ? どこの暴走族だよ。アニメの世界から抜け出してきたのか? 面も凜々しいし、背筋もシャンとしてる。格闘技でもやってんだろ?」

「お、おす……」

「乙女華の制服着てなきゃ性別も分からねえってのに、よくもまあ、アイドルになりたいなんて言えたもんだよな。もしかして罰ゲームか? ああ、だから乙女華の制服着てるのか。本当はちんちんついてんだろ」

「ついてねえよ! セクハラだぞ!」

 なんて嫌な奴なんだ! さっきのギャルっぽい女子の憤りもわかる。このような態度で応対されたら罵声のひとつも浴びせたくなる。

「面接は終わりだ。ご足労ありがとうございマシタ。……足代(交通費のこと)は出ねえからな」

 だが、ここで引き下がれる和奏ではなかった。深呼吸をひとつ。気分と態度を切り替え、落ち着いて言葉を向ける。

「……秋野和奏あきのわかな。乙女華高校二年生。アイドルになりたくてきた。頼む」

「それが目上の者に対する口の利き方か? 言葉遣いもなってねえんだな」

「ぐ……ッ。あ、秋野和奏です。アイドルになりたくてきました! よろしくお願いします!」

「いらねえ」

「女の子らしいことをしたいんです」

「女の子なら、普通に生活するだけで、女の子らしく生きてけるだろうが。……ん? それとも、やっぱちんちんがついてるのか……?」

「ちんちんから離れろや! このレタス頭!」

 ちんちんちんちん連呼しているような大人に、敬語を使うのもバカバカしくなってきた。

「……家が空手の道場なんすよ。あたしは跡継ぎとして育てられたんす」

 秋野道場。オリンピック選手も輩出したことのある、国内でも有名な空手道場だ。父は昔気質の人間で、自分の子供を跡継ぎとして育てることを使命のように感じている。

 しかし、生まれた子供は女の子。母は身体が弱かったので、二度目の出産は断念。和奏を跡継ぎにするしかなかった。幼稚園に入る頃から道着を纏い、毎日のように稽古をさせられた。身体を作るために栄養のあるモノを食べさせられた。

 結果、身長は伸びてスタイルはよくなり、精悍な顔立ちも手に入れた。手に入れてしまったのだ。

「義務教育が終わったところで、親父と道場に嫌気が差したんす」

 だから、対極となるお嬢様学校の乙女華に入学することにした。学校名を伏せて、保護者のサインをもらった。

 入学後はグレた。グレたといっても、根は真面目な秋野和奏。髪の毛を金髪黒メッシュにすることが精一杯だった。

 もちろん、タダでは済まなかった。父には半殺しにされたあげく、両腕の関節を外され、二日ほど道場に放置された。それでも髪色を戻さなかったのは、和奏の意地だった。

「クソガキだな。親に飯食わしてもらっている立場で、何様のつもりだ。そこらのクズラッパーでも、常に親にはカンシャしてるぜ」

「さっきから酷くないっすか?」

「おまえがしつこいから、こっちは嫌われるのに必死だ」

 これは圧迫面接か? ――そうか! アイドルの世界は厳しい。他人を蹴落とすために手段を選ばないライバル。立場を利用してセクハラ染みたことをしてくる悪徳プロデューサー。それらと渡り合うだけのメンタルがあるのか、試しているに違いない。ここで怯んではダメだ。

「あたしの歌を聞いてくださいよ。そしたら、気が変わりますよ」

 ニィと、笑みを浮かべる和奏。

「よその事務所に行け。国道一号線を六百キロほど歩いて行けば東京に着く。新宿二丁目辺りを歩いていたら、怪しいプロダクションから声をかけてもらえるぞ」

「東京の大手は惨敗だったんすよ」

 身長かルックスか。あるいは、水準に達していても、上京させるほどのレベルではないと判断されたのか。書類選考でアウト。ゆえに、新進気鋭の三流事務所の門を叩くしかなかったのである。

 アイドルという女らしさの極み。世界で、もっとも自己主張のできる夢の職業。その夢をあきらめ、進路はどうしようかと迷っていた矢先に差し出された、最後のチャンス。クソッタレ道場から抜け出すいい機会だ。意地でもオーディションは受けさせてもらう。

「勝手に歌わせてもらいますよ」

 和奏はスマートフォンを操作。メロディを流す。メジャーアイドル『クランボワネット』のセカンドシングル。あなたの心にラスティネイル。去年の紅白でも歌われた曲である。

「営業妨害で警察にしょっぴいてもらうぞ?」

「警察、苦手じゃないんすか? 昨日、この商店街で派手に暴れてたでしょ?」

「ん? あれを見ても、ウチでアイドルやりたいってのか。へぇ……なかなか根性が座ってんな」

 和奏は目を閉じた。流れるメロディを耳へと染みこませる。そして、音楽と自分を溶け合わせるように、心の奥から声を奏でるのだ。

 ――歌は気持ち。

 歌詞の情景を思い浮かべ、気持ちを乗せる。優秀な音楽家は己の世界へとダイブする。和奏も、その域へと入るのである。

 ――さあ、あたしの歌を聞け。

 さえずること三分四十五秒。渾然一体となった音と声の調和。最後の一小節を歌いきると、和奏は満足げに、吐息をこぼすという残心を終わらせる。

 ほのかな笑みを浮かべ、得意気に京史郎を見やる。すると彼は、耳を塞ぎながらこう言ったんだ。

「……終わったか? 失せろ、このクソ音痴」

「ふぇええぇっ?」
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