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9.このままいけば大丈夫なんじゃ?

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 あの時の感情は何だったのだろうか?
 周りを見渡しても特に何も感じない。初めても見る部屋だ。懐かしさなんて感じるわけがない。本に視線を移しても見慣れない異国の字が沢山並んでいるだけだ。
 ジッと見ると中々に真面目な本ばかりらしい。
 この地の歴史や経済学、皇族の繁栄など書かれたものばかりで違う意味で頭が痛くなりそうなものばかりだった。
(勉強家だったのかな)
 アルカは王族との繋がりはあったらしい。らしい、と曖昧なのはゲーム内では王族の特権でアフェクが属する軍を死地と呼ばれる魔物被害多い地域に派遣させた事をアフェクルートで記載されていたはず。
(あれ・・・・)
 自分はあまり深追いしないタイプだ。シナリオが面白ければ問題なし!と思う為考察するタイプの人間は尊敬する。それよりだ。
 アフェクは軍人。第五隊小隊の隊員だ。第五隊は魔術が扱える人間で形成されており、魔獣討伐が中心の隊だ。
 その他の隊は出番が殆ど無いからサラッとした説明しかないが。
 第一隊は、王族中心にお守りする貴族で形成されている。非常に華やかな隊だ。
 第二隊は、王城の周りや中を警備している。
 第三隊は、民間の見回りなど何かあった際に駆け付ける隊。警察のような物だろう。
 第四隊は、剣術で成り上がった隊。魔術は扱えないが第五隊と似ていて他の地域に赴き、解決する事が目的だ。こちらは対人間相手ではある。
 外見もカッコいい推しは剣術、魔術の腕もいい。父親の押しもあり、最初第一隊に所属になりそうだったところを自分の意思で第五隊に希望した。憧れる隊長もいる隊に入りたい、という願いも魔獣の被害を減らしたい、なんて心もイケメンな推しは第五隊に所属した結果アルカの嫌がらせを受ける事になるのだが。
(アルカはどう王族と繋がりがあったんだ?)
 考察厨の動画をもっと真剣に見ていればよかった、と今更後悔してしまうがどうしようもない。スマホはないし、動画サイトも永遠に見れない。悲しい。
 アルカは聖魔法に特化しており、その魔術を買われて神殿入りする。その魔術で人を癒し、時には戦場で傷ついてた兵士の傷を癒していく。綺麗な外見もあり、彼は聖人など女神の生まれ変わりなど囃し立てられていた。それをアルカがどう受け取ったかは不明である。
 アルカが神殿で人に説く時のスチルがない為、絵で確認は出来てないが文ではこう記載があったはずだ。
『優しく微笑んでいる姿は、まるで女神である。透き通る声は歌姫のように人々心に焼き付く――――』と書かれている。前半と後半でアルカに対しての描写は正反対になる。主にアフェクルートでだが。
 聖魔法は傷を癒す他に防御魔法にも特化している。後方支援タイプだ。
 それだけなら問題のない人物だが、治癒は過剰に体に流すと細胞が破壊され、機能しなくなる。皮膚は剥がれ落ち、臓器の機能も低下し、穴から血液などが流れ出し、死に至る。脳へ直接流す事で人格をも変えられる。とあったが詳しくは書かれていない為、妄想の範囲で補うしか出来ない。 
 ゲーム内でアルカがどうやって王族と繋がったのか記載がない。神殿と王族の癒着によるものだろうか?
 それならアルカである必要はない気もする。家柄でならアフェクにも通じてしまう。
 アルカだけが王族を楯に出来、権力を振るえる立場。考えられるのは、聖魔法を使った洗脳だろうか?それならアルカだけが使えて、尚且つアフェクにはない要素だ。

(洗脳ならもう少し引っ張る気もするんだけどな・・・)
 今、思いつく可能性はこれくらいだ。これ以上考えてもしょうがない。
 それに今の自分は魔力が無い状態らしい。聖魔法を見込まれて神殿入りしたなら今の自分には出来ない。アルカと王族の関係性は不明だがこのまま神殿入もせず、魔術も扱えないままなら王族との繋がり自体なくなってしまうのではないのだろうか。
(あれ?このままだと普通に過ごしてもゲームのようにいかないんじゃ?)
 権力を盾にする事も出来ない上にアフェクを殺したい、とは思わない。
 推しを近くで見ていたい欲はある為、仲良くする作戦は実行するが。
 そう思うと心が軽くなった気がする。 

 ドカッと椅子に座ってのんびりと見渡して机の上の紙を見ると鮮明に見えた文字は擦れ、時間が経っているような見た目だった。
「・・・見間違い?」
 首を傾げて、紙を手に取って見えにくい文章を読み取ろうと頑張るが擦れてしまって上に読み解く能力が乏しいせいか読み解くよりも先に文字酔いを起こし、気持ち悪くなってきてしまった。
 紙を適当なところに置き、ぼんやりと天井を眺めてから簡単に出来事をまとめてみるか、と思い付きで何も書かれていない紙を探し、手を合わせて心の中で人の机の中身を覗く事に対して謝りながら開けると万年筆があった。
 アルカが使っていたなら今は自分の物だろうか少し罪悪感が生まれる。
 軽く頭を振り、初めて握った万年筆は、やけに手に馴染んでいる。白い紙に万年筆を下ろし、いざ書き始めようとするが中々字が出てこない。出てこない、というよりもわかるが分からない。読めるが書けない漢字のような気持ち悪さだ。
 適当な本の題名を見ながら字を書いていく。一度見ればさらさらと手が動く。
「・・・・これは不味い気がする」
 まず何かを見ながらじゃないと字が書けない。こんな広い屋敷に住んでいるような人物が教養が無い訳がない。それにこの部屋を見る限り真面目に学業には励んでいただろう。
 深く息を吐き出す。記憶喪失で字も忘れたと言い張るか。
 まとめようにもこの世界の字で長々と書くのは難しそうだ、と今まで使ってきた日本語は書けるだろうか、と万年筆を滑らす。
 手の動きが少し違うのか手の甲が少し突っ張るような気がするが書ける。
 この世界の文章が難なく書けるまで日本語で書こう。多分、他の人に読めないのも都合が良い。疲れやすい手を時々バタバタと空中で振りながらリュグナーが来るまで書き続けた。
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