【完結】クビになった転生神子♂、仕様がないので元護衛の伴侶探しを手伝ってやる

夏ノ宮萄玄

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7.衝撃

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「……ラトゥエル、様。貴方様は……」
「敬称をつける必要も、もうございません。ラトゥエルとお呼びください」

 眉がわずかに顰められた。そして逡巡しているのか少しの沈黙ののちヴェルが口を開く。

「貴方様は――死ぬ、おつもりだったんですか」

 降ってくる強い視線に、俺はそっと顔を逸らした。

「僭越ながら。貴方様の旅の行き先が。具体的にはわたくし共に知らされていなかったこともありまして、気に掛かっておりました」

 教会に、行き先なんて言うはずもない。特に予定は決めていないが旅に出るかもということだけを伝えていた。

「置手紙を拝読いたしましたが、かどわされた可能性も否めなく。隊長はとりあえず上の指示を仰ぐ、と申しておりました。けれどもわたくしは衝動的に飛び出てきてしまい……。勝手をして申し訳ございません。――ですが」

 意外だった。今まで仕事上ヴェルと言葉を交わした経験から、公私をきっちり分ける性質だと思い込んでいた。こんな場面で私的感情を吐露されるとは。
 感情を押し殺すように語られる言葉。それは真実なのか、それとも油断させる為の嘘なのか。

「ですが。やはり。ラトゥエル様は……もう、この世界から……」
「――ヴェル、とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「……はい」
「わたくしの心配をしてくれてありがとう。でも、その懸念はヴェルの気のせいです。先程はただ海に入っていただけ。海というものが珍しくて、ついはしゃいでしまったのかもしれません」

 年甲斐もなくね。何て苦笑してみせ、余計な心配をさせてしまいましたねと謝意も伝えた。

 ヴェルが本当に俺の身を案じてくれていたとしても。それと任務は区別して、命令が下されていたならば俺の捕縛などを遂行するだろうし。まずいことにさっきの俺の行動で自殺されるよりはと、不要な正義感を引きずりだしてしまった可能性もある。俺の身柄を誰かに預けることには正当性があると。

 誰からも命令など下されていない、ただの親切心からの行動だというのなら。もうこれで騙されてくれないだろうか。――見て見ぬ振りでもいい。

 虚しくも慣れた“神子の顔”でのやり取り。表情の変化が分かりづらい彼の、しかしわずかに引き結ばれた唇から納得させられなかったことが伺えた。

 俯いて細く長い溜息を吐く。気持ちに区切りをつけるように。
 面倒くさいな。この世界で気を張って、頑張って生きていく意味はもうない。風になびく髪を両耳に掛けて、顔を上げた。

「もう……、いいかなって思ってね。やることも、ないし」

 何といってももう疲れた。

「でもヴェルが……、心配して追いかけてきてくれたのは本当にありがたいことだと思ってるから」
「……はい」

 返事をしたヴェルはどことなく沈んで見える。もしかしたら本当に俺の何かしらを慕ってくれていたのかもしれない、が。どうしたものか。
 重たい空気が流れ気まずさが俺を苛む。いいかげん、もう直球に誰かの命令で来たのかと聞いてみるか?

「――――いで、ください」
「……うん?」

 ふいに小さく呟かれた言葉は、寄せては返す波の音と溶けあい不明瞭だった。

「お願い、ですから。オレから、――離れていかないでくださいっ! 貴方はようやく見つけられた、この世界での希望なんですっ!」

 唐突にそう訴えかけてきたヴェル。なぜか表情からは深刻さを感じるが、意味がよく分からない。俺が希望? もう大層な役目は終わったはずだ。

「落ち着いてくれ、ヴェル。突然どうしたんだ?」

『オレだって……』

 そして、俺は耳を疑った。なぜだかヴェルは先程までとは違う言語でしゃべりだしていた、のだが――なんで。

『オレだって、この世界でやりたいことはあまりないですしっ。やりたいことっていったら、ゲームしたいとか続きが気になってる漫画が見たいとか。カレーとか美味しいご飯も、スナック菓子も食べたい。無理なら贅沢言わないからもうお米炊いただけの物でもいい。でもできればおにぎりにして海苔と母の漬けた梅干しと大根のお漬物も添えてほしい……。今世孤児だし、正直前世の家族が恋しくて辛いし会いたい、とか。……そんなんばっかで絶対叶わないですし!!』

 怒涛の勢いで繰り出される言葉に、俺はただただ唖然としたのだった。
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