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第2話
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ある日の、昼休み。春と輪が僕のクラスにやってきた。
輪は、春の姿を見つけるとすぐに、他の子には見せない笑顔で春に話す。やっぱ輪は春が好きなのかな。そんな不安がここの所いつも頭の中を巡っている。今の僕ら三人の関係も、二人がもし付き合う事になったら壊れてしまうかもしれない。そんな不安が頭をよぎって仕方ない。
カップルになったのに二人きりになれないなんて、意味ないもんな。
僕が、こんな風に思っているなんて二人は知らない。だから今の関係があるんだけど。「結局分からない。輪は春の事どう思ってるんだろうか」
「え?何が? 」
しまった、心の声が出てた。「い、いや何でもないよ?こっちの話」適当に対応をしたけど、輪は気にする様子はなくて、
「おう」ぶっきらぼうに言って、また春との話に戻っていく。「でさでさ新しく出来た駅前のケーキ屋マジで美味しいんだって! 」「そこまで言うなら放課後に行こうや!」「じゃあ決まり!放課後校門のとこ集合ね」
二人が仲良く話すのを聞いていると思う。変わりゆく日常にありがたさを覚えるのは最初の内だけで、今となって僕はどこかで変化に慣れて飽きてしまってるんだ。そして変わらないでいてくれとさえ思っている。僕が転校デビューを飾ろうと決心して、ボコボコにされたのはついこの間の事なのに
それすらも、もう随分前のように感じる。「ねぇ、人の話聞いてる? 」
「え、うん。校門のとこでしょ? 」
「そうだけど……最近、ぼっーとしてない?何だかうわの空って感じ」
春は僕の顔を覗き込むようにして聞いてくる。
最近、色々と成長してるからか、なんて事ない日常を過ごしているのに妙に退屈。
「してないって。ちゃんと話も聞いてるし」「ふーん」
春はどこか怪しいものを見るように僕を見ていた。
授業も終わって、二人と約束していた放課後になった。「そういえば、今日日直だったっけ」二人に伝えてない事に気付いた僕は、隣のクラスの春に輪にも伝えてもらおうと隣のクラスへ行く事にした。ガラッ「すいません、永田春さんいますか? 」春が僕のクラスへ来ることはあっても僕からは初めてだったので、少し緊張しながら訪ねるとクラスにいた数人が口を揃えて「春ちゃんなら、もう帰ったよ」「どうも」軽いお礼を言って、春は輪のクラスへ迎えに行ってるのかもと思った僕は少し駆け足で輪のクラスのあるフロアへ走った。「いると良いけど」踊り場から次の階段へ登る途中、ふと窓ガラスに目がいった。そこからは、校庭全体が見下ろせる。雨が少し降り始めているのだろう、傘を差した生徒が何人か見える。僕は見覚えのある傘を発見して、すぐにそれが春の傘だと分かった。正直、少し焦った。そこには、仲良く一つの傘を二人で使っている姿が見えたからだ。「なんで、なんで春と輪が相合傘してるんだよ! 」思わず焦りが声に出てしまいすれ違う生徒達に二度見されてしまった。「こうしちゃいられられない、早く二人のとこに行かなきゃ」何でこんなにも自分が焦っているのかもう分からなくなってきた。別に、二人は付き合っているわけでもないし、何より幼馴染なんだから相合傘くらいしたって全然おかしくないのに。冷静な自分と、焦ってどうしようもない自分が心の中で戦っていた。結局、勝ったのは焦った自分だった。駆け足でクラスに戻った僕は、日直をサボると適当な人を捕まえて伝えてから校門へ向かった。「ごめん、遅れて」そう僕が謝ると二人は相合傘をした状態でニッコリと笑ってハモり気味で言った。「遅いって、早よしてよ」ハァハァと肩で息をしている僕を労ってくれているのか、口では遅いと言ってても落ち着くまで何も言わずに待ってくれている。
ようやく、息が戻った僕は二人にそれとなく聞いてみることにした。「二人って、ホント仲良いよねカップルみたい」我ながら嫌味っぽい言い方だったとおもうけど、二人は気にする様子もなく冗談まじりで話し始めた。「春、俺らカップルってさ」「やめてよ、顔だけ良い男はダメだって、それにただの幼馴染みだし」ははは、と笑いながら話す二人はどこからどう見ても「カップル」だよ。仲良さげに話す二人だったけど、僕は気付いていた。輪が春に男としてみていない様なそんな感じに言われたときの輪の顔はどこか寂しげで、見ているこっちが悲しくなってくる。そんな顔をしていた。
ある日の昼休み、いつもの様に輪が僕の教室に来て喋っていると、春も隣のクラスからやって来た。内心、少し嬉しかったけど顔には出さずにいつも通りを装った僕だったけどそんな薄っぺらい取り繕いを見透かすかのような春の質問に飲んでいた缶コーヒーを吹き出しそうになった。
「ねぇねぇ、二人とも好きな人っておるん? 」
今思えば、この時からだった。僕らの関係がグラついたのは。
僕は慌てて首を振りながら自分に言い聞かせるようして答えた。「僕はいないかな。今はそんな事考えられないや」僕がそう言い終わると春はニッと笑って言った。「うちも!同感同感」ウンウンと頷きながら僕達は輪の方を見た。瞬間的に頭の中を何かが過ぎった。「春のことは好きとは違う、こうなんと言うか、安心するというか落ち着くというか。友達なんだから」いつからだろう。質問をあらかじめ予想して受け答えをするようになったのは。本当は春がクラスに来た時に薄々気づいていたじゃないか。こんな風に聞かれたらこう答える。まるでコンピューターみたいな自分の思考方法に自分で嫌になった。そんな僕をよそに
輪が少し笑いながら答える。「俺は…おるよ好きな子。ぶち可愛いんじゃ!」にんまり笑いながら誇らしげに語る輪を見て僕と春は、何度も顔を見合わせる。正直、意外だった。この手の質問は、何度か僕からだったり、春からだったりでし合っているが輪はいつも乗り気じゃなさそうな感じだったし何よりも輪はいつも「そんな子はおらん」そう言ってはぐらかしてばかりだったから、まともな返事が返ってきたのも意外だった。誰なんだろうか、輪の好きな人って。いや、予想というか大体分かってるんだ。だけど、それを輪の口から直接聞くまでは決めつけちゃいけない。不安と緊張の入り混じった感情を抱きながら輪と春の話に耳を傾けた。
「ねぇ、どんな子なん?珍しいね輪がそこまで言うなんて」「可愛いのは可愛いんじゃ」「教えてってば! 」「嫌じゃバーカ」「何よぉ、教えてくれてもええじゃん」二人は無邪気な子供のような笑顔でじゃれ合っていた。そんな二人を見ていると微笑ましくもあり同時に羨ましくて堪らなかった。
結局、輪の好きな人はやっぱりというか自然というべきか、春だった。
春の答えは僕にとって正直意外だった。春は二つ返事で受け入れるか、そうでないにせよ二、三日後にはめでたくカップルになっている、誰が見てもそう答えたくなるほど二人は仲が良かったから。
「ごめん好きな人がいる」
春はそう呟いて早足で教室を後にした。内心僕はホッとしていた。春は輪が好きなわけじゃなかったんだ。外野の入る余地の無い幼馴染みという関係性にばかり目を取られてたけど、僕にもまだ望みはあるんだ。自分のいわば思い通りに事が進んでいる事にいやらしさを覚えながらもホッとしている自分はもっと自分を嫌になっていた。
ふと、輪に目を向けるといつもの明るくてちょっとお喋りな輪には似合わない、暗くて寂しげな横顔で窓の外をボッーとしながら見ていた。見かねた僕は勇気を出して聞いてみる事にした。「り……ん」話しかけようと名前を口にした僕の声は、輪の悲しそうなそれでいて重苦しい声に遮られてしまった。「何も言うな!みじめなだけじゃこんなん。春には振られるし、お前には慰められそうになっとる。踏んだり蹴ったりってきっと今みたいな事を言うんじゃな」輪は涙目になりながら僕の目を見据えている。僕はなんて言葉をかければ良いのか悩んだ。小さく深呼吸をして返事を決める。「あ、あのさ。春なんてガサツだし、中身完全に男じゃん。気にしなくても輪ぐらい色々と整ってるならすぐにいい子が現れると思うよ。元気出して」
今でも一般的にはベストな慰め方だと思う。だって輪と僕とではあまりにもスペックが違う。背も高くないし、勉強だって良いとこ中の下。足だって早くない。そんな僕が無難なコメント以外の何ができるというのか。
「はっ?マジでなんなのお前バカにしてんのか! 」輪は勢いよく席から立ち僕を見下ろす。あまりの身長差に足がすくんでいる僕をよそに輪は言葉を続ける。「自分が何言ってるか分かってんのかって聞いてんだよっ! 」輪は勢いそのままに僕をすぐ後ろにあったロッカーに押し付けた。
僕は精一杯体の中から声を絞り出すようにして答えた。「り、輪の方こそ何が言いたいのか分かんないよ……春に振られたのは僕のせいじゃない、輪は僕に八つ当たりしてるだけじゃないか! 」
「ハァハァ」お互いに肩で息をしながら僕達は少し冷静になる。視界が明るくなり周りが見えてきた。クラス中が僕達の方を見ている。それは誰にでもわかるくらい当たり前の事だった。学校で一、二を争うくらい色々と整っていて女子人気も高い輪が失恋したというのを大声で叫んでいたのだから、注目されない訳がない。輪は僕には何も言わず、クラスのみんな少し苦笑いを浮かべながら春と同様に小走りで教室を出て行った。何故か輪の姿に春の背中が重なってしょうがない。「やっぱり、お似合いですよ。お二人さん」僕は一人そう呟くと憂鬱な気分のまま、机に座って窓の外を眺めながら
「さっきまでの輪はもしかしたら今の僕と同じような思いだったのかも知れないな」大切な何かを失ってしまうかもしれない恐怖心に背筋を汗ばませながら自分の下した決断に少しばかりの後悔を抱いていたりしていたんじゃないのかと。「はぁ。最近よくため息ばかりついてる気がするなぁ」僕は既に始まっている授業には気付いていたが知らんぷりを決め込んでいた。しかしもうそんな余裕はなくあれこれと物思いに耽っている他は何もやる気が起きない。そうして、机に突っ伏していると、さっきまで昼休み明けの授業中だったはずなのに何故か、時計は午後四時を指していた。結局、その日は二人の姿を見かけることは無かった。
輪は、春の姿を見つけるとすぐに、他の子には見せない笑顔で春に話す。やっぱ輪は春が好きなのかな。そんな不安がここの所いつも頭の中を巡っている。今の僕ら三人の関係も、二人がもし付き合う事になったら壊れてしまうかもしれない。そんな不安が頭をよぎって仕方ない。
カップルになったのに二人きりになれないなんて、意味ないもんな。
僕が、こんな風に思っているなんて二人は知らない。だから今の関係があるんだけど。「結局分からない。輪は春の事どう思ってるんだろうか」
「え?何が? 」
しまった、心の声が出てた。「い、いや何でもないよ?こっちの話」適当に対応をしたけど、輪は気にする様子はなくて、
「おう」ぶっきらぼうに言って、また春との話に戻っていく。「でさでさ新しく出来た駅前のケーキ屋マジで美味しいんだって! 」「そこまで言うなら放課後に行こうや!」「じゃあ決まり!放課後校門のとこ集合ね」
二人が仲良く話すのを聞いていると思う。変わりゆく日常にありがたさを覚えるのは最初の内だけで、今となって僕はどこかで変化に慣れて飽きてしまってるんだ。そして変わらないでいてくれとさえ思っている。僕が転校デビューを飾ろうと決心して、ボコボコにされたのはついこの間の事なのに
それすらも、もう随分前のように感じる。「ねぇ、人の話聞いてる? 」
「え、うん。校門のとこでしょ? 」
「そうだけど……最近、ぼっーとしてない?何だかうわの空って感じ」
春は僕の顔を覗き込むようにして聞いてくる。
最近、色々と成長してるからか、なんて事ない日常を過ごしているのに妙に退屈。
「してないって。ちゃんと話も聞いてるし」「ふーん」
春はどこか怪しいものを見るように僕を見ていた。
授業も終わって、二人と約束していた放課後になった。「そういえば、今日日直だったっけ」二人に伝えてない事に気付いた僕は、隣のクラスの春に輪にも伝えてもらおうと隣のクラスへ行く事にした。ガラッ「すいません、永田春さんいますか? 」春が僕のクラスへ来ることはあっても僕からは初めてだったので、少し緊張しながら訪ねるとクラスにいた数人が口を揃えて「春ちゃんなら、もう帰ったよ」「どうも」軽いお礼を言って、春は輪のクラスへ迎えに行ってるのかもと思った僕は少し駆け足で輪のクラスのあるフロアへ走った。「いると良いけど」踊り場から次の階段へ登る途中、ふと窓ガラスに目がいった。そこからは、校庭全体が見下ろせる。雨が少し降り始めているのだろう、傘を差した生徒が何人か見える。僕は見覚えのある傘を発見して、すぐにそれが春の傘だと分かった。正直、少し焦った。そこには、仲良く一つの傘を二人で使っている姿が見えたからだ。「なんで、なんで春と輪が相合傘してるんだよ! 」思わず焦りが声に出てしまいすれ違う生徒達に二度見されてしまった。「こうしちゃいられられない、早く二人のとこに行かなきゃ」何でこんなにも自分が焦っているのかもう分からなくなってきた。別に、二人は付き合っているわけでもないし、何より幼馴染なんだから相合傘くらいしたって全然おかしくないのに。冷静な自分と、焦ってどうしようもない自分が心の中で戦っていた。結局、勝ったのは焦った自分だった。駆け足でクラスに戻った僕は、日直をサボると適当な人を捕まえて伝えてから校門へ向かった。「ごめん、遅れて」そう僕が謝ると二人は相合傘をした状態でニッコリと笑ってハモり気味で言った。「遅いって、早よしてよ」ハァハァと肩で息をしている僕を労ってくれているのか、口では遅いと言ってても落ち着くまで何も言わずに待ってくれている。
ようやく、息が戻った僕は二人にそれとなく聞いてみることにした。「二人って、ホント仲良いよねカップルみたい」我ながら嫌味っぽい言い方だったとおもうけど、二人は気にする様子もなく冗談まじりで話し始めた。「春、俺らカップルってさ」「やめてよ、顔だけ良い男はダメだって、それにただの幼馴染みだし」ははは、と笑いながら話す二人はどこからどう見ても「カップル」だよ。仲良さげに話す二人だったけど、僕は気付いていた。輪が春に男としてみていない様なそんな感じに言われたときの輪の顔はどこか寂しげで、見ているこっちが悲しくなってくる。そんな顔をしていた。
ある日の昼休み、いつもの様に輪が僕の教室に来て喋っていると、春も隣のクラスからやって来た。内心、少し嬉しかったけど顔には出さずにいつも通りを装った僕だったけどそんな薄っぺらい取り繕いを見透かすかのような春の質問に飲んでいた缶コーヒーを吹き出しそうになった。
「ねぇねぇ、二人とも好きな人っておるん? 」
今思えば、この時からだった。僕らの関係がグラついたのは。
僕は慌てて首を振りながら自分に言い聞かせるようして答えた。「僕はいないかな。今はそんな事考えられないや」僕がそう言い終わると春はニッと笑って言った。「うちも!同感同感」ウンウンと頷きながら僕達は輪の方を見た。瞬間的に頭の中を何かが過ぎった。「春のことは好きとは違う、こうなんと言うか、安心するというか落ち着くというか。友達なんだから」いつからだろう。質問をあらかじめ予想して受け答えをするようになったのは。本当は春がクラスに来た時に薄々気づいていたじゃないか。こんな風に聞かれたらこう答える。まるでコンピューターみたいな自分の思考方法に自分で嫌になった。そんな僕をよそに
輪が少し笑いながら答える。「俺は…おるよ好きな子。ぶち可愛いんじゃ!」にんまり笑いながら誇らしげに語る輪を見て僕と春は、何度も顔を見合わせる。正直、意外だった。この手の質問は、何度か僕からだったり、春からだったりでし合っているが輪はいつも乗り気じゃなさそうな感じだったし何よりも輪はいつも「そんな子はおらん」そう言ってはぐらかしてばかりだったから、まともな返事が返ってきたのも意外だった。誰なんだろうか、輪の好きな人って。いや、予想というか大体分かってるんだ。だけど、それを輪の口から直接聞くまでは決めつけちゃいけない。不安と緊張の入り混じった感情を抱きながら輪と春の話に耳を傾けた。
「ねぇ、どんな子なん?珍しいね輪がそこまで言うなんて」「可愛いのは可愛いんじゃ」「教えてってば! 」「嫌じゃバーカ」「何よぉ、教えてくれてもええじゃん」二人は無邪気な子供のような笑顔でじゃれ合っていた。そんな二人を見ていると微笑ましくもあり同時に羨ましくて堪らなかった。
結局、輪の好きな人はやっぱりというか自然というべきか、春だった。
春の答えは僕にとって正直意外だった。春は二つ返事で受け入れるか、そうでないにせよ二、三日後にはめでたくカップルになっている、誰が見てもそう答えたくなるほど二人は仲が良かったから。
「ごめん好きな人がいる」
春はそう呟いて早足で教室を後にした。内心僕はホッとしていた。春は輪が好きなわけじゃなかったんだ。外野の入る余地の無い幼馴染みという関係性にばかり目を取られてたけど、僕にもまだ望みはあるんだ。自分のいわば思い通りに事が進んでいる事にいやらしさを覚えながらもホッとしている自分はもっと自分を嫌になっていた。
ふと、輪に目を向けるといつもの明るくてちょっとお喋りな輪には似合わない、暗くて寂しげな横顔で窓の外をボッーとしながら見ていた。見かねた僕は勇気を出して聞いてみる事にした。「り……ん」話しかけようと名前を口にした僕の声は、輪の悲しそうなそれでいて重苦しい声に遮られてしまった。「何も言うな!みじめなだけじゃこんなん。春には振られるし、お前には慰められそうになっとる。踏んだり蹴ったりってきっと今みたいな事を言うんじゃな」輪は涙目になりながら僕の目を見据えている。僕はなんて言葉をかければ良いのか悩んだ。小さく深呼吸をして返事を決める。「あ、あのさ。春なんてガサツだし、中身完全に男じゃん。気にしなくても輪ぐらい色々と整ってるならすぐにいい子が現れると思うよ。元気出して」
今でも一般的にはベストな慰め方だと思う。だって輪と僕とではあまりにもスペックが違う。背も高くないし、勉強だって良いとこ中の下。足だって早くない。そんな僕が無難なコメント以外の何ができるというのか。
「はっ?マジでなんなのお前バカにしてんのか! 」輪は勢いよく席から立ち僕を見下ろす。あまりの身長差に足がすくんでいる僕をよそに輪は言葉を続ける。「自分が何言ってるか分かってんのかって聞いてんだよっ! 」輪は勢いそのままに僕をすぐ後ろにあったロッカーに押し付けた。
僕は精一杯体の中から声を絞り出すようにして答えた。「り、輪の方こそ何が言いたいのか分かんないよ……春に振られたのは僕のせいじゃない、輪は僕に八つ当たりしてるだけじゃないか! 」
「ハァハァ」お互いに肩で息をしながら僕達は少し冷静になる。視界が明るくなり周りが見えてきた。クラス中が僕達の方を見ている。それは誰にでもわかるくらい当たり前の事だった。学校で一、二を争うくらい色々と整っていて女子人気も高い輪が失恋したというのを大声で叫んでいたのだから、注目されない訳がない。輪は僕には何も言わず、クラスのみんな少し苦笑いを浮かべながら春と同様に小走りで教室を出て行った。何故か輪の姿に春の背中が重なってしょうがない。「やっぱり、お似合いですよ。お二人さん」僕は一人そう呟くと憂鬱な気分のまま、机に座って窓の外を眺めながら
「さっきまでの輪はもしかしたら今の僕と同じような思いだったのかも知れないな」大切な何かを失ってしまうかもしれない恐怖心に背筋を汗ばませながら自分の下した決断に少しばかりの後悔を抱いていたりしていたんじゃないのかと。「はぁ。最近よくため息ばかりついてる気がするなぁ」僕は既に始まっている授業には気付いていたが知らんぷりを決め込んでいた。しかしもうそんな余裕はなくあれこれと物思いに耽っている他は何もやる気が起きない。そうして、机に突っ伏していると、さっきまで昼休み明けの授業中だったはずなのに何故か、時計は午後四時を指していた。結局、その日は二人の姿を見かけることは無かった。
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