春の穂先

上村ジョニー

文字の大きさ
2 / 10

第9話

しおりを挟む
放課後を知らせるチャイムが鳴る。先生の長い話を聞き流しながら、僕は考えていた。
「朝の彼は一体何なんだ、春に好意を寄せているのは明白だけど、こう、なんと言うか、うーん。 」もどかしい気持ちと不安な気持ちが一度に襲ってくる。不愉快極まりないこの気持ちの正体は一体何なんだ。

 結局、答えは出ずじまいで、いつの間にかクラスの騒々しい雰囲気から一変して、静かになっていた。辺りを見渡すと、ちらほらとクラスメイトたちが残っていた。
「あれ、皆んなはどこ行ったんだろ」ポツリと漏らした独り言ーーのつもりだったけど、どうやらそうではないらしい。残っているクラスメイト達が僕の方へと視線向けながら互いに顔を見合わせている。いわゆるチラ見というやつだ。今までの僕なら、慌てふためき居ても立っても居られないだろう。だけど今の僕は違う。色々な経験を積み、自己分析に事欠かなかったからだ。毅然とした態度を見せなければと思いたった僕は何もなかったかのように、その場を後にした。途中、カバンを忘れたのに気がつき戻ってみると、さっきまで、僕を小馬鹿にしていた彼らはいなくて、教室には誰も居なかった。騒がしかったり、ひそひそ話に花が咲いてみたり、色々と忙しい教室だと僕は思った。けれど、その静寂はいとも容易く打ち砕かれる事になる。今の状況はこうだ。僕が教室へ入り自分の机に腰掛けながら、外を見ている。そこへ何人かが少なくとも此方の方向へと向かってきているし、運が悪ければクラスメイトだろう。「まいったな、さっきの独り言に続いて、次は誰もいない教室で黄昏ていたなんて広まったら明日からどんな顔して学校へ来ればいいんだろうか」焦りながら、冷静に、冷静に思考を巡らせる。しかし答えはない。厳密に言えば答えに近いものはある。それは、いっそのこと教室を勢いよく飛び出して、顔を見られない様にカバンで覆い隠して立ち去る。これは一見すれば勇気のみが必要な材料なわけだけど、当然クラスメイトだった場合には僕のカバンが机のサイドに引っかかったままであること、先ほど……いや、予てより挙動不審な僕に見えている彼らから言わせればこういったこともそのイメージに拍車をかける恐れが多分にある。僕は脳内で普段から自問自答に苛まれる自分が実を言うと嫌いではない。だけど今日の今、この瞬間だけは嫌というより、もはや絶望すら感じている。「八方塞りだ、諦めよう、今更だ。 」若干の、自己嫌悪に陥りながら僕は文字通り座して時を待つことを選んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...