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第十二話〜元カノと黒歴史①・咲音side〜
しおりを挟む昼メシを済ませた後、澄依達は三限の講義に向かい、俺達は空きコマだった為学食に残っていた。
お昼のピークを過ぎ、だいぶ人はまばらになっている。
「前田、余計な事すんなって」
「何が?」なんて澄ました顔でとぼけてるけど、コイツ絶対分かってるよな。
いつもは見逃すそのとぼけ顔だけど、今日は見逃してやる気は微塵も起きない。
「小澤とその友達だよ。何で花火に誘った?」
「何でって……俺が可愛い女の子二人と行きたいからだよ。文句ある?」
「あるよ、女子なら他にいくらでもいるだろ。何で小澤……あの二人なんだよ」
「そんなにムキになって、あの子が来たら何か困る事でもあるわけ?」
「……元カノなんだよ。中学の時の」
なんとも言えぬ気まずさに、後頭部を掻きながら視線を逸らした。
「だから何? 咲音、お前あの子だろ?」
「何が?」
「お前の事蹴り飛ばした子」
「お、おまっ……なん、それっ……」
動揺し過ぎて舌が空回りする。
何を喋っているのか自分でもよく分からない。
でも何で誰にも話してない事を、コイツが知っているんだよ!?
「高三の夏ウチに泊まってさ、その時に咲音、間違えて兄ちゃんの酒飲んじゃったの覚えてる?」
「まさか」
「うん、そのまさか。ぜーんぶ喋ってたよ。中学の時大好きな子襲って、ち◯こ蹴られたって。咲音って酒弱いのな」
前田すげー笑うじゃん。
歯医者の息子の綺麗な歯並びを、これでもかと見せつけるなよ。
それに何だそれ……恥ずかし過ぎるだろ。
好きな子に大事なところ蹴られただけでも黒歴史なのに、よりによってコイツの家で話してたなんて。
「それ誰か他の奴には」
「言ってないから安心しろよ」
「それならいい、頼むからその話は忘れて」
コイツはノリは軽いけど口は堅い人間だったんだ。
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間――コイツの次の言葉に、脇腹にツゥーと汗が伝った。
「あと、今日澄依ちゃんが縛ってた髪の毛のゴムあるやん? あれ、俺前にどっかで見た事あるんだよなー? 勘違いかなぁ?」
「気のせいだろ。あんなのどこにでも売ってるよ」
「へぇー。あれさぁ、お前のベッドの上に転がってなかった? 枕元のティッシュの横あたり? 一体何に使ったん――」
「分かった! 分かったからもうやめて。頼むから」
何で今日のコイツは傷口に塩を塗り込むような真似をするんだ。
今までいい奴だと思ってだけど、今後の付き合い方を考えよう。
「まだ好きなんだろ? 素直になれば?」
「俺は嫌われてるから。頼むからこれ以上余計な事はしないで」
「嫌いだったら花火来るって言うかなぁ。だって、本当に嫌な時は嫌って言える子だろ? お前のち◯こ蹴り飛ばすくらいなんだし。ブハッ」
いやだからめっちゃ笑うじゃん。
「うるせーそろそろ黙れ」
「ピアノが弾けてバスケも上手い、おまけに顔も良いモテ男をこれだけ自信喪失させるとはあの子すごいね」
「もういい、自分で何とかする」
その日の夜、俺は澄依に連絡する事にした。
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