初恋の香りに誘われて

雪白ぐみ

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第十四話〜浴衣と花火と恋心①〜

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「二人とも浴衣似合う! やっぱ女の子の浴衣は最高だわ~」

 花火大会当日。 
 待ち合わせ場所の駅でさっそく褒めてくれたのは、無表情の青山君ではなくてニコニコと上機嫌の前田君。


「でしょー! 二人で髪の毛も可愛くしてきたんだよ~!! ね、澄依ちゃん?」

「う、うん」

 そうなんです、今日の私は気合いが入ってます。
 だって、男の子と花火大会なんて初めて行くんだもの。
 華奈ちゃんの家に前日入りし、湯上がりには顔のパックをしながら、二人でお互いの脚を念入りにリンパマッサージまでしました。

 今日だって動画を見ながら髪の毛をまとめて、人気のメイク動画も参考にして、華奈ちゃんのお母さんに浴衣を着付けてもらって――私なりに最大限可愛くしてきたつもり。
 青山君はなんて言ってくれるかな。


「ほら、咲音も何か言えよ!」

「うん、浴衣だね」

 はい浴衣です。
 確かに浴衣なんですけど……それだけ?
『可愛い』は欲張り過ぎとして、『似合ってる』くらいは言ってくれると思ったんだけどな。

「コイツ照れてるだけだから! 澄依ちゃんが可愛い過ぎて直視出来ないだけだから!」

「お前、はしゃぎ過ぎ……飲んでんの?」

「んなわけねぇー」

「何で澄依ちゃんだけ? 青山君私は!?」

「もちろん二人とも最高に可愛い! 咲音の代わりに俺が何度でも言っちゃうよ!!」

「でしょ!!」

 一度アヒルみたいなツノ口になった華奈ちゃんだけど、前田君の言葉で一気にご機嫌のルンルンになった。
 私も前田君のフォローに助けられたよ。


 青山君の反応が薄かったのは残念だけど、みんなでわちゃわちゃするの楽しいかも。

 でも、さっきから青山君と目が合わないのは何で?
 やっぱり私と来るのが嫌だった?
 それとも、この朝顔柄の浴衣が変だったかな?

 これ、昨年の夏に買ったやつでお気に入りなんだけど……もっと大人ぽい紫陽花柄の方を買えば良かった。

 青山君は、いつも通りでシンプルな服装。
 だけど、今日はTシャツから覗く男の子らしい腕にいつもよりドキッとしてる。
 夕方で薄暗いからなのか、会う時間が違うだけで、仕草ひとつとっても印象が違って見える。

 気持ちが上がったり下がったりして今日の私は忙しい。


「じゃあちょっと早めに会場行こうか」

 前田君がその場を仕切ってくれるので、私達は後ろをついて行く。
 待ち合わせの駅の構内は、花火大会の為か想像以上に人でごった返していた。
 身体を横向きにして、人と人の隙間を縫うようにすり抜ける。
 今日は下駄を履こうか迷ったけど、やっぱり和風のサンダルを買っておいて正解だった。
 
 歩き易いし、前もって痛くなりそうな箇所に絆創膏を貼っておいたから、これなら足が痛くなって迷惑をかける可能性も少ないだろう。

 会場までは歩きでおよそ十五分。
 初めは私と華奈ちゃんが並んで歩いていた筈なのに、いつの間にか前田君と華奈ちゃん二人が先頭を歩き、そのすぐ後ろを青山君が、私はその更に後ろから、前を歩くみんなを見失わないように必死について行った。


「前田先行ってて。俺らゆっくり後から行くから」

「おう! じゃあ後で連絡して」

 え待って、もしかして私が遅いから?
 むしろ、みんなは何でそんなに早く歩けるの?
 脚の長さの違いかな。
 必死でついて行っても、どんどん先頭との間は広がるばかり。
 とうとう見かねた青山君にこんな風に言わせてしまったのだと思うと、居た堪れなくなった。


「ごめん、私だけ歩くの遅いよね。青山君も先に行って大丈夫だよ、後からすぐ行くから」

「小澤はすぐ迷子になりそうだから、一人にはさせられない」

「流石に子供じゃないから大丈夫だよ」

「どーだか」

 その顔はズルい。
 さっきまで視線すら合わなかったのに、どうしていきなりそんなに優しい顔で笑うの?
 そんな顔されたら女子は勘違いしちゃうよ。

「ほら」と言って差し出された手は、あの頃よりもずっと大きくてゴツゴツしていた。
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