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第十五話〜浴衣と花火と恋心②〜
しおりを挟む「今日迷惑じゃなかった?」
チラッと横目で青山君の顔色を伺う。
「何で? 誘ったのこっちだし、全然迷惑じゃないよ」
「だって、最初全然こっち見てくれなかったから……」
「あー。なんて言うか……小澤の浴衣姿なんて初めて見たからちょっと緊張してただけ」
「一緒に花火見に行くの初めてだもんね。地元のお祭りも誰かに会うの嫌で行かなかったし」
「ちょっと一緒にいるだけであの頃は騒がれたからな」
「みんな子供だったからね……。ねぇ、浴衣変じゃない?」
「似合ってる」
似合ってる、似合ってる、似合ってる――
何回も脳内再生しちゃう。
大・満・足!!
えへへ……勝手に顔がニヤけちゃった。
でもいいんだ。
薄暗いから思う存分ニヤけたって気づかれないもの。
人混みの中を、はぐれないように手を繋いで歩く。
彼とこうしてまた手を繋げる日が来るなんて思っていなかった。
興奮と緊張で手汗がヤバイかもしれない。
もしかしたら発熱してるかも。
うわぁ、かなりじっとりしてきてるけど、これ大丈夫かな。
これは私が迷子にならない為の親心みたいなものなんだから、緊張しない! 勘違いしない!
何度も言い聞かせたのに、心臓の音は不規則に跳ねてうるさかった。
空はすっかり夕闇に染まり、無数に灯る赤と白の提灯が目の前に広がる。
イカ焼きの良い匂いがこちらまでプンプン漂って、お腹がぐぅと小さく鳴った。
花火大会の今日は、出店が立ち並ぶ通りが歩行者天国になっている。
その入り口の前で青山君はポケットからスマホを取り出し前田君に連絡を入れた。
急に手が自由になって寂しくなったのは私だけかな?
「前田? 俺達も出店のところ着いたよ。ん? 分かった、土手の階段のところね」
「華奈ちゃん達今どこ?」
「前田達は屋台で適当に食べ物買って行くから、俺達は先に場所取りしておいてって」
「分かった!」
チームプレーだね!
任せて。
さっきの失態をカバーする為にも、俄然張り切る私。
「ねぇねぇ青山君ここは!?」
河川敷の土手でちょうど良さそうな階段状の場所を見つけ、あまりの嬉しさに子供のようにはしゃいだ。
「すっごい嬉しそう」
そんな私を見て頬が緩んだ青山君を私は決して見逃さない。
だって、その笑顔を私は好きになったんだよ。
「華奈ちゃんたち遅いね、もうすぐ始まるのに。私迎えに行こうかな」
「いや、下手に動くと身動き取れなくなるし、場所も無くなるから連絡来るの待とう」
「分かったそうする」
「小澤これ下に敷きなよ」
「ありがとう」
たまたまあったと言って、コンビニの袋を地面に敷いてくれた青山君の優しさに、とうとう心臓が爆発しそうになった。
胸がドキドキして、ギュウッと締め付けられて苦しい。
だって、隣からはまたいつもの甘い香り。
これは、浴衣の帯のせいで苦しいのとは違うと思う。
そうしてる内に会場のアナウンスが流れ、花火大会は幕を開けた。
ひゅうぅぅぅ、どぉぉぉーん、ばらばらばら――
お腹の中心に響く重い音。
色とりどりの色彩豊かな大輪の花。
打ち上がっては夜の闇に飲み込まれて行く、消え去る瞬間まで美しい夏の風物詩。
美しい夜空に目を輝かせ、感動の声を上げるのは、私の――
花火の導火線と一緒に、恋の導火線にも火が付いた。
私に火をつけた張本人は、今にも爆発しそうな私に気づかず隣で夜空を写している。
もうダメ。
もう我慢出来ない。
夏の雰囲気にだいぶ後押しされたのは否定しない。
それでも逸る気持ちをどうしても抑えきれなかった。
「サキ君好き」
花火が止んだ瞬間、勝手に口が開いていた。
「えっ?」
その後すぐに赤や黄色の光に照らされた彼の瞳は、驚きからなのかそれとも困惑なのか、まん丸に見開いていた。
*
「二人とも気をつけて帰ってね」
「バイバーイ」
乗り換えの駅で華奈ちゃんとホームに降りて、そのまま乗っている電車で帰る前田君達に手を振って別れる。
結局、花火大会は最後まで見なかった。
周辺と駅の混雑を予想して終演の三十分前には会場を後にしたから。
「華奈ちゃん、今日も泊まって良い?」
「いいよー! って澄依ちゃん!? どうしたの?」
「私、振られちゃった……ふぇぇん……」
華奈ちゃんと二人になった途端、張り詰めていた糸が切れたように、安堵の涙が止めどなくこぼれ落ちた。
『ごめん、俺小澤とは付き合えない』
分かってた。
振られる事なんて当たり前に分かっていたよ、そんな事。
私はあの時サキ君を深く傷つけた。
それなのにまた好きなんて言って、どの口が言ってるって思われても仕方ないよね。
もしあの時彼を受け入れていたら、今日の花火だって彼氏彼女として見に来てたのかな。
あの頃に戻って、何もかも全部やり直せたらいいのに。
それでも溢れる思いを止める事なんて出来なかった。
夜空に飲み込まれるように花火は消えていったのに、同じように盛大に打ち上がった私の恋心はまだ消えそうにない。
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