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第二十話〜金木犀の想い出①〜
しおりを挟む久々に通された部屋の中は、強い日差しを遮る為なのかカーテンがピッチリと閉まっていて薄暗かった。
その上ノースリーブの私には、肌寒いくらい中はヒンヤリとしている。
青山君は熱のせいで身体が火照っているのだろうか。
それにしても、外気温との差が激しい。
私がラグの上に座ると、背後でベランダのカーテンをシャっと勢いよく開ける音がする。
「眩しいな」と言った彼は、着古したTシャツにハーフパンツ姿。
今までに見た事ないラフな姿と髪の毛は、さっきまで身体を休めていた事を容易に想像させる。
そんな時に、私は彼の部屋に突撃してしまったのだ。
「何飲む? 今冷蔵庫の中空っぽで何もなくてさ、持ってきてくれたやつでも良い?」
「それは青山君の為に買ったものだから私は大丈夫。バッグにお茶入ってるから気にしないで。それに、熱あるんだから座るかベッドで寝ていて」
「もう熱は下がったから大丈夫だよ」
「そうなの? 良かった。でも前田君は、青山君が死にそうだって……あれ?」
「多分だけど、前田に嵌められたんだと思うよ俺達」
「ハメラレタ? 何が?」
「小澤は分からなくていいよ」
あ、また苗字呼びに戻ってる。
さっきだけだったか、名前で呼んでくれたのは。
ちょっと、いや、だいぶガッカリ。
「つうか、ちょっと洗面所行ってくるからそれ飲んで待ってて」
麦茶のペットボトルをテーブルにポンと置くと、彼は洗面所へと姿を消した。
ブオォォォーとドライヤーの風の音がこちらにまで聞こえてくるけど、具合悪いのにわざわざ髪の毛のセットでもしているのだろうか。
静かになったと思ったら、今度はうがいする音まで聞こえた。
もしかして次は歯磨き?
前田君から言われて何も考えずに来てしまったけど、さっきまで熱出してた人に急いで身支度させるなんて、私の浅はか過ぎる行動には自分でも呆れる。
待たせてごめんと言って戻って来た彼の髪の毛は、いつもよりもサラサラで幼く見えた。
テーブルを挟んで私とは反対側に彼は腰を下ろす。
「なんか、そうしてると中学の頃思い出すね」
「そう? 寝癖すごいからとりあえず濡らしてドライヤーかけた」
「いつもちゃんとセットしてるからかな。久々に見た、その感じ」
中学の時の彼はバスケ部らしい短めの爽やかな髪型だったけど、色素が薄くて柔らかそうな髪なのがすごく印象的で、いつも触りたくてウズウズしていた。
結局、恥ずかしさに負けて一度も触る事は出来なかったけど。
今はその時よりも更に髪色は明るくなって耳朶にはお洒落なピアス、たった三年で顔も身体付きもだいぶ大人ぽくなったと思う。
パッチリお目めと柔らかそうな唇が可愛らしい雰囲気を醸し出していた中学時代、今はそれプラスどこか男らしさと色気まで兼ね備えちゃって……眉毛まで綺麗に整ってるし。
そんな事考えてたら、今この狭い部屋に二人きりでいる状況が途端に恥ずかしくなってきた。
この前来た時はもう少し平気だったのに。
「小澤は逆に、いつもより大人ぽいね。もしかして何か用事があったんじゃないの?」
「うん、ちょっと買い物に行って来たの」
いつもと違うの気がついてくれた、嬉しい。
「そうか。なんかごめんな、前田が……てゆーか、俺か」
「ううん大丈夫。もう用は済んでいたし、と……友達が具合悪いって言うならそっちのが大事だから!」
『友達』ちゃんと言えたよね。
声も裏返っていないし、変に強く発音もしてないし、大丈夫おかしくなかった……筈。
「友達……」
ポツリと呟いた彼の表情は、どこか浮かない顔だった。
見方によっては、嫌そうに強張っているようにも見える。
まさか、友達すらも迷惑だったんじゃ。
やだもう、彼の優しさに甘えてズケズケと部屋までお邪魔して……やっぱり丁重にお断りして帰るべきだったんだ。
また間違えた。
青山君といると私は間違えてばかりだ。
「わ、私帰るね! せっ生存確認も無事に済んだし! ご馳走様でした!」
素早く立ち上がり、足早に彼を横切って廊下へ向かう。
「待って!」
強い口調と共に、後ろから腕を掴まれた。
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