初恋の香りに誘われて

雪白ぐみ

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第二十六話〜意思表示②〜

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 はい、という訳でやって参りました。
 休日の土曜日、サキ君のアパートに来ています。
 今日はのんびりまったりお家デートの日。
 今の私達になんてピッタリのデートだろう。

 頑張るぞ!!


『澄依ちゃんいい? 青山君の場合は、澄依ちゃんからハッキリ意思表示しないと伝わらないと思うの。だからね――』

 はい華奈ちゃん、今日こそ本当の恋人同士になります。
 小澤澄依十九歳、大人になります。
 その為には、アドバイスを一つずつ実践していこうと思ってます!


 華奈ちゃんからのアドバイス其の一。
『素肌を見せるべし!』


「サキ君、この漫画面白いね!」

 ベッドに寝そべりながら、サキ君の大好きなバスケ漫画を読む私。
 そして、さりげなく生脚、見せちゃってます!
 なぜなら今日私は、ショートパンツを履いてきたから。
 華奈ちゃんのアドバイスの元選んだ服装――ゆるっとしたざっくり編みのニットに合わせたショートパンツ。
 サキ君、これでどうだ?
 ドキッとする?
 思わず触りたくなっちゃうでしょ?

「そんなに気に入ったなら、こっちの車椅子バスケもおすすめ」

 ベッドの縁に腰掛けて同じバスケ漫画を読んでいたサキ君は、本棚に手を伸ばし次から次へと別の漫画を、布団の上に高く積み上げていく。

 あ、あれ?
 生脚に食いつくどころか、漫画に食いついちゃってる!?

 こうなれば、気を取り直して次の作戦に行くしかない。
 本棚の上に飾られひょっこり顔を出すチンアナゴ、私達を見守っていてね!
 

 アドバイス其の二。
『スキンシップをするべし!』

「どれから読むのがおすすめなの?」

 サキ君の男の子らしい腕に抱きつくように両腕を絡ませてみる。

 ど、どうだ?
 華奈ちゃんには到底敵わないけど、少しは私だって胸あるんだからね。
 無駄なお肉を、ありとあらゆるところから寄せ集めて形成したCカップ。
 あの頃よりも成長してるんだから!
 ほら、にょっきり出てる太腿にサキ君の熱い視線を感じる。


「なんか今日のスイは寒そう。もう十一月なのにそんなに脚出して風邪ひくよ?」

 そんな風にお父さんみたいな事を言ったサキ君は、クローゼットの扉を開け中の透明ケースの中からグレーのスウェットを取り出した。
 行き場のなくなった腕に虚しさを感じる。

「ほらこれ履きなよ。女の子は冷やすと良くないでしょ?」

「あ、ありがとう……」

 ほら、と言われて大人しく受け取る私。
 確かに木々が葉落ちし始めて朝夕はかなり冷え込む季節にはなったけど、この部屋エアコンついているし、今ここでスウェットを履くほどは寒くない。
 むむぅ、敵はなかなか手強いな。
 ええい、まだまだ!

「でも、大丈夫だよ! 夜寒くなったら借りようかな? それとも、今日お泊まりした時に借りようかな?」


 アドバイス其の三。
『ハッキリと意思表示をするべし!』

 言っちゃった!
『お泊まり』って。
 サキ君何て言ってくれるかな?
 
 吸って吐いて、吸って吐いて。
 ゆっくり肺に空気を送り込む。
 そのうち、ゴクリと生唾まで飲み込んだ。

「暗くならないうちに駅まで送るよ。夕方一気に冷え込むから」

 また……まただ。
 今日も昼間だけのデート。

 何度この家で過ごしても、必ず夜になる前に帰されてしまう。
 サキ君は、私とはもうそういう事したくならないの?
 朝までずっと一緒にいたくないの?
 あの柔らかそうな髪に、唇に、勇気を出して指先で触れてみたい。
 あの頃よりも大きくて逞しくなった胸の熱を直に感じたい。
 もっとたくさん触れ合って、お互いの気持ちを確かめ合いたいのに、そう思ってるのは私だけ?

 そう考えると、あまりの居た堪れなさに涙がじんわり視界の隅に滲んだ。

「わたしっ帰る!!」

「ちょ、何!? いきなりどうしたんだよ!?」

 ベッドから飛び降りる勢いで立ち上がる私、慌ててニットを掴む彼の大きな手。




「だって……」

 立ったまま言い淀む私を、サキ君はベッドに腰掛けるように優しく促す。

「スイ、ちゃんと言ってくれないと分からない。俺何か気に触る事した?」

 小さな子をあやす様な優しい声のサキ君は、不安そうに瞳が揺らいで見える。

「だって……せっかくムダ毛の処理して可愛い下着付けて来たのに。シャワーだって浴びてきたのに。それなのに、サキ君……」

「え? 可愛い下着……? シャワー? って、え!?」

「あっ!!」

 狭い部屋に流れる沈黙と、何とも言えない気まずい空気。

 穴があったら埋まりたいほどの微妙な空気感に包まれている。

「もうやだ。帰りたい」

 羞恥のあまり、涙が眦を潤ませる。
 再び立ちあがろうとした時。

「ダメ、帰さない」

 サキ君の腕の中に閉じ込められた。
 心臓がドクドク早鐘を打っているのは、私とサキ君の一体どちらなのだろうか。

「スイマジで? なんだよもう……マジかよ……なんだよ……」

 耳元に響いたのは、安堵のため息と、泣きそうなくらいに震えた声だった。
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