騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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1章

1話「始まりの騎士誕生、その騎士に託されし願いとは」

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 スジエルは着々とオルガスタン大陸の状況を変化させていく。希望国としての使命を胸に騎士達となった者達、騎士として活躍する者達、そして……新人騎士として戦地に赴く事を告げる鐘を聞く2人の若い青年達がいた。
 先の新人選抜でトップ通過した期待の新人騎士であるガイアとフェランドの両名。2人は先輩騎士であるスノーゾルと共に少し離れた位置に魔人アガルダの勢力に飲まれた小さな国であるオルガ国の救出作戦に組み込まれていた。
「ガイア」
「どうした?」
「これ。いつもの食事を作ってきた」
「サンキュ。あと2時間後にはスジエルを発つんだっけ?」
「あぁ、スノーゾル先輩と第4期団の騎士達でオルガ国救出作戦だよ」
「俺達の初陣だけれど、普段通りにしてりゃ行ける。俺とフェランドなら出来る」
「自信家だな相変わらずガイアは。俺も負けていられない」
 ガイアはフェランドが作ってきてくれたラム肉のシチューとパンを手にして腹を満たしていく。隣に座ったフェランドも同じ食事を取りながら2人並んでこうして食べる食事を楽しんで色々な話題で食事の時間を穏やかに過ごしていた。
 食事も終わり片付けようとフェランドが腰を浮かせた時、遠くからスノーゾルがガイアとフェランドの事を呼んでいる声が聞こえてくるのに気付いた2人は顔を見合わせる。片付けも後回しにした2人はスノーゾルの元に駆け足で近付いた。
「お呼びですか?」
「あぁ、探していたんだ。騎士団長のアルフォード総団長がお呼びだ」
「総団長が? 俺達何かお叱り受ける様な事でもしたんでしょうか?」
「いや、今度の任務について話をしておきたいとの事だ。これは前例のない事ではない。気楽に話を聞いてこい」
「「はい」」
 スノーゾルから言われた言葉に従って2人はスジエル騎士団の施設内にある団長室へと駆けて行く。スノーゾルはその2人の背を見送ると顎下に生えている髭を撫でながら眩しそうに見つめていた。
 団長室まで来た2人は息を整えて重厚な扉の前に立って入室を知らせるノックを数回する。中から少しして「入れ」との声が聞こえて2人は声を出して中へと入って行った。
「失礼します」
「失礼します。総団長がお呼びだとお伺いして来ました。ガイア・シューリングとフェランド・デューリングです」
「君達が新人選抜のトップ通過の新人騎士か。よく来たな。俺はこのスジエル騎士団の総団長を勤めているアルフォード・ガイダンという。君達の命を預かる司令塔だ」
「お初にお目に掛かります。それで俺達にお話とは何でしょうか?」
「俺達はこの後オルガ国救出作戦に向かいますが何かご命令でもありましたでしょうか?」
「うむ。君達の実力は選抜で担当していた騎士から聞いている。そこで君達には特別任務をお願いしたい。オルガ国を今回救出する理由は知っているかな?」
「オルガ国の位置に関係するのは知っています。物流と移動の利便性を取り戻すのに重要な国である事は理解しております」
「それと同時にオルガ国にはまだ捕らわれて奴隷の様に扱われている人々がいる事も聞いてます。その人々の救出が最大の目的である事は理解しているつもりです」
「そうだ。そして、その国にはある王族がまだ隠れ生きている。その王族のルーベリド王女を見つけ出し保護して欲しいのだ」
「ルーベリド王女……このスジエルの初代国王のご息女でしたよね? そのお方がオルガ国にどうして?」
「魔神アガルダの猛攻を受けたスジエルの陥落も時間の問題だった時に国王の判断で王女だけは魔神アガルダの勢力の弱いオルガ国に逃がされたと聞いている。かの王女をスジエルに迎える事でスジエルの希望国としての輝きと士気は大いに高まる。君達とそう歳は変わらないと聞いているので王女の警戒心を解くのにも一役買う事が出来るだろう。頼まれてはくれないか?」
「了解しました。ルーベリド王女様保護とスジエルへの護衛は全力で果たしてみせます!!」
「俺達の剣でスジエルと王女を守ります!」
「うむ、若き騎士である君達に希望を託す。行ってこい」
「「はいっ!!」」
 アルフォードから受けた特別任務を胸にした2人は一礼して団長室を後にする。アルフォードは退室していった2人を見送って少しグレーの瞳を細くする。
 まるで2人は若かりし頃のアルフォードとエヴァを彷彿させる希望に満ち溢れた騎士であるように感じれたのだ。実際2人は希望を胸に抱いて今回の任務に参戦していると思うとアルフォードには不思議と安心感が生まれていた。
 側近の騎士がアルフォードが微笑んでいる姿を見て2人の新人騎士に何かを見出しているのを察した。救出作戦開始まであと30分まで迫っている時、フェランドは同じ作戦に参加する騎士の1人アルゼンと馬小屋に来ていた。
「ここの馬を好きに選ぶといい。ガイアの方はルクゼンが手配しているから作戦開始までには準備が整うだろうって話だ。フェランドはどんな馬がお好みだい?」
「俺は……この足が白で身体が茶色の、ハイクをお願いします」
「へぇ、暴れ馬ハイクを選ぶんだね? そう言えば君とハイクは相性がいいんだっけ」
「はい。練習の時にハイクを走らせてあげたら懐いてくれて。他の馬にはない凛々しさを感じて好きになりました。ハイクも俺でいいだろ?」
「ブルルルッ!」
「ははっ、あの暴れ馬ハイクがこんなにも懐くなんて凄いね。うん、それじゃハイクを専用の愛馬に出来る様に手配しておくよ。ハイクに鞍を乗せて連れて行きなさい」
「はい! ありがとうございます。ハイク、行こう」
 足毛が白く、身体が茶色の暴れ馬で有名なハイクに鞍を乗せて馬小屋から出て行く。ハイクはフェランドの愛馬になれた事に嬉しそうに尻尾を揺らして隣を歩いている。
 ガイアと愛馬のディークが第4期団の後方に陣取って待っている場所にハイクを連れて行くと、ガイアはハイクを見て微笑んだ。ハイクもまたガイアには懐いているのか鼻先をガイアの頬に押し当てて甘えている。
 ガイアのディークも暴れ馬で有名でハイクのパートナーとしても申し分のないポテンシャルを秘めている。2頭の暴れ馬を従えている新人騎士の2人に先輩である第4期団の騎士達も一目置いているようだった。
「オルガ国まではどんなに急いでも2日は掛かる予定だ」
「でも、2日の距離で攻め込まれないのはそれだけスジエルが強いって事だよね。俺も立派に騎士として使命を果たさないと」
「俺とフェランドならきっと果たせる。その為に俺達は絶望を乗り越えてこのスジエルに辿り着いたんだ。大丈夫、俺達には世界樹の加護があるんだ」
「うん。俺とガイアの夢であるオルガスタン奪還も夢じゃないんだ。俺達が頑張ればきっと平和を取り戻せる。頑張ろうなガイア!」
「あぁ!」
「若いな。彼らを見ていると若い頃の団長とエヴァ様を思い出す」
「本当にな。若いだけじゃない、彼らにはきっと俺達には見えない強い絆があるんだろう。その絆がきっとこの暗黒期のオルガスタンの未来を切り開くだろう。俺達も負けてはいられないな」
 ガイアとフェランドの強い意気込みを聞いていた先輩第4期団の騎士達は微笑みながらも、その意気込みに触発されて強い意気込みを持ち始めていた。ガイア達がこの第4期団に追従が認められたのも実力だけじゃない、持っている希望の強さを周囲に伝染させて士気を上げる事が認められていたからでもある。
 オルガスタンの未来を切り開くにはガイア達の様な若い騎士達の力が必要であるのを騎士団は悟っている。だが、老騎士達やベテランと呼ばれている騎士達だって負けてはいない。
 オルガ国救出作戦開始のラッパが鳴り響く、馬に乗って進軍する準備を終えた騎士達がスジエルの騎士団本部を後にし始める。ガイアとフェランドもディークとハイクに跨って後方の位置から進軍していく。
「新人!」
「はいっ」
「お前達なら心配はいらんとは思うが、急なアクシデントに見舞われたら冷静さを失うな。お前達ならそこの心配は然程していないがな」
「分かりました。先輩、少し気になっているんですが聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「魔神アガルダはオルガ国を抑えても重要視していない様に感じます。それはつまり奪い返されても構わないという事なんでしょうか?」
「魔神アガルダの考えは分からんが、オルガ国を奪われても痛くないんだろう。だからこそ今の内に取り返す事が大事だと総団長がお決めになったんだと思うぞ」
 先輩騎士にガイアが質問してフェランドはその答えに納得する様に頷く。オルガ国を取り返されても今の魔神アガルダの支配国は軽く30を超えているので小さなハエの様に感じているんだろうと先輩の判断に2人も納得する。
 オルガ国までの進軍中、モンスターとのバトルも何度かあったが危険な被害が出る事もなくオルガ国の近くにまで第4騎士団は辿り着く事が出来た。オルガ国全体に黒くて濃い闇の瘴気が漂っているが戦況を判断し指示を出す軍師役の騎士が状況を分析する。
 ガイアとフェランドは作戦会議に招集されて顔を出すと軍師役の騎士、アベルゾが2人にモノクルを押し上げて視線を向けた。その視線に畏怖するでもない2人は堂々とした態度で作戦会議の中に参加していた。
「これまでに判明している情報ですが、闇の瘴気を生み出すクリスタルを破壊。そして、その後にモンスター達のリーダー的存在の魔族を倒す事でオルガ国の解放が成しえます。同時にオルガ国内の収容所を解放して捕らわれている人々の保護も行います。クリスタル破壊部隊、保護部隊、突破部隊の3部隊に振り分ける事にします。……新人の騎士の2人は総団長からルーベリド王女の保護を言い渡されていると伺っているので2人には数名の騎士達を付けますので王女の保護を迅速に行なって下さい。王女の無事が分かれば捕らわれていた人々も勇気を持って逃げ出すのに気力をふり絞るでしょう」
「分かりました」
「お前達だって危ないとは思うが、くれぐれも無茶はするな。何かあれば周囲の騎士に頼れ」
「はい。俺達だけじゃまだ成しえない事もあるかとは思いますから、最低でも足を引っ張らない様に与えられた役目を果たします」
「それでは魔族が力を弱める明日の朝に第4騎士団はオルガ国に突入。それぞれの部隊は各団長の指示に従って目標を撃破・破壊・保護を行います。新人達は突入と同時に別行動、王女は事前情報ではオルガ国中心地の教会に身を潜めているとの事です」
「俺達に世界樹の加護があらんことを」
 作戦会議を終えた騎士達がぞろぞろ出て行く中でアベルゾはガイアとフェランドの情報が書かれた資料に目を通していた。新人選抜ではトップで通過と聞いているが能力的にどうなんだろうかと確認していたのだ。
 だが、アベルゾは資料を読んでいて気付く。ガイアもフェランドも普通の能力を有していない事に。
 ガイアとフェランドは一体どんな人物なのだろうかと思案するアベルゾはこのオルガ国救出が終わったら徹底的に調べてみようと考える。ガイアとフェランドは付き添ってくれる騎士達に挨拶をしながら時間を待ち侘びていた。
 運命の始まりの騎士達に託されし願いは果たされるのか? そしてオルガ国救出が上手く行くのか。運命は少しずつ動き始める音が響き始める。
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