騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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5章

39話「仲間と騎士達の決意」

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 フェランドがアガルダの手に落ちたのは明白で、目の前で連れて行かれた事実に全員が衝撃で固まる中でガイアが気丈に自分を取り戻して指示を出す。このままだとアガルダの手に落ちたフェランドを救うどころじゃなくなる現実に気付いたからだ。
「取り敢えずスジエルに急いで戻るぞ。レジェースの戦力も率いてオジナルに進軍するしかフェランドを救出する事が出来ない」
「でも、オジナルがそう簡単に攻めれるのかい? どう考えても難攻不落じゃないのかな……?」
「でもよ、アガルダさえぶっ倒せばオジナルだって普通の国になんだろ? 狙いはそこじゃないか?」
「つべこべ言わないで早く馬に乗る! ガイア、先導お願い。着いていくから」
「あぁ……」
 ルプスの言葉にい全員が従ってスジエルまでの道のりを急いで進みだす。一方、渦に飲み込まれたフェランドの身体はオジナルの地下にあるマナ貯蔵庫の泉に浮かんでいた。
 意識はないのか、だらんと身体から力が抜けているがマナの泉がフェランドを守る様に漂っている。そこにアガルダとヴェレネットが姿を見せてフェランドの身体にマナの泉たちが反応している事を確認していた。
「間違いないようだな」
「はい、この者こそがアガルダ様の計画に最も必要であり、最も邪魔な存在になり得る者でございます」
「その体内に宿る世界樹の加護、そして、私が転生させた際に仕込んだ闇の御子としての力の破片……面白いな。ヴェレネット、この者をどんな方法でもいい、屈服させてみよ。この者の絶望は最上級のワインと化す」
「御意」
 アガルダは隣のヴェレネットを抱き寄せ唇を奪いニタリとその口内に闇の力を注ぐ。素直に受け取り飲み下すヴェレネットの瞳にはアガルダの忠実なる女としての証、アガルダの刻印が瞳に刻まれていた。
 フェランドがアガルダの手に落ちた、そうスジエルに戻ってきたガイアに言われた言葉にアベルゾは険しい表情を浮かべざるおえなかった。運命の騎士であり、世界樹の最後の加護を受けた希望の騎士がアガルダの手に落ちたとなれば、それはあまり考えたくない状況になっていると言ってもいいからだ。
「オジナルへの進軍を……」
「今のスジエルの守りもしながらだとそう多くは出せません。ガイア君には以前お話した事がありますよね? ラーデルス国に精鋭の騎士達が潜入している話を」
「はい。それが……?」
「壊滅したと報告が入りました。これがどんな意味を持つか分かりますね?」
「……っ」
 精鋭部隊であっても命を落とす。それはオジナルに向かうのであれば多くの犠牲者が出るのは否めないと言う事でもある。
 ガイアだってアベルゾが期待する軍師騎士としての才能を見せている騎士である。その程度の事が分からない騎士ではないとアベルゾは考えていた。
 だから、次の1手には理解を示してもらえるだろう事も頭の片隅には入れていた。そう、オジナルのアガルダを封印するだけでは終わらない戦いを終わらせる為の1手を。
「なので、我々は動きます。魔神アガルダをこの手で打ち滅ぼす為に」
「それじゃ……」
「スジエルの両陛下を守る戦力は白の騎士団が担ってくれます。君が以前フェランド君の父親に会いに行っていたお陰で、彼の父親が最重要責任者となってこのスジテルを守りたいと申し出てくれました」
「あの人が。フェランドが知ったら喜ぶな……」
「知らせる為にも我々の手にフェランド君を奪還せねばなりません。これはスジエルだけの戦いではありません。オルガスタン大陸全土の希望を、光を取り戻す為の最後の戦いとなります。生きて帰って来れる保証はありませんけれどね」
 アベルゾはサラサラとルーベリド王女に出立の意思を伝える手紙を書いて、側近の騎士に持って行かせた。それを見たガイアは気付く。
 目の前にいるアベルゾが自ら戦場に出るという事に。それは危険な賭けでもあるとガイアは知っている。
「アベルゾ団長も出る気ですか?」
「当然でしょう。団長である私が自ら指揮を執ってアガルダ討伐を打ち果たす。それがスジエルを守る為の力にもなります。アガルダを打ち倒した後のスジエルを希望国としても固める為にも私は出ないといけないのですから」
「でも、アベルゾ団長になにかあればレジェースもスジエルもっ」
「ガイア君、アルフォード様の様に私には世界樹の加護はありませんし、力と言っても平均的な魔法力しか持ち合わせていない。勿論騎士としての腕前で言えば貴方よりも上だ。だからと言って後方でぬくぬく椅子を温めておくなんて、性に合わないんですよ」
 アベルゾは右目のオラクルを外すと義眼の右目に触れて小さく微笑む。初めて見るアベルゾの右目の義眼にはレジェースの模様が刻まれているのが伺えた。
 そして、強い決意と覚悟がアベルゾにはある。それをガイアは知ってしまえば言葉をそれ以上は出せないでいた。
「全軍、すぐに出発の為の編成部隊を執りなさい! 目指すは魔神アガルダの本拠地であるオジナル! 一国の底力を見せますよ!」
「「「おぉー!!」」」
「ガイア、あの人は誰?」
「あの人はこのレジェースを新しく纏めているアベルゾ団長だ。俺とフェランドの良き兄貴役の人だけど、今回前線に出て指揮を執ってくれるんだって」
「……浮かない顔しているガイア。心配、なのね?」
「あぁ……アガルダの手に落ちたフェランドの事を報告した時にも思ったが……アベルゾさんやルーデリッシュさんを巻き込むのは嫌だったのは事実だ」
 ルプスの隣で進軍の準備を整えていくアベルゾの姿を見ていたガイア。ジェイドとヴォルグもそんなガイアの横顔に何とも言えない。
 自分達もフェランドを守れなかった事を考えれば、アベルゾの心配をするガイアの気持ちも分からない訳じゃないからだ。そして、それは同時に色々とガイアの中に不安を生み出す事に繋がっているのも仲間達は気付いていた。
 ミリーアとジェイドは後方の魔法部隊に組み込まれ、ガイアとヴォルグは先頭に加えてもらった。ルプスは1人で中央のアベルゾの隊に組み込まれたが、これはルプスの強い希望で入れてもらっている。
「貴女がガイア君達の運命の仲間のルプスさんですね? 初めまして。私はアベルゾと申します。今回は私の護衛を兼ねているとガイア君からお伺いしています」
「初めまして。貴方の存在はガイアの為にも大事だから私が守れるかは分からないけれど、出来る限り全力が出せる様にサポートしたいから。貴方の事は私が守る」
 ルプスの赤色の瞳が優し気に細められて見つめられている事にアベルゾは不思議と鼓動が高鳴るのを感じた。ルプスを傍に置いてアベルゾは軍の進軍を命じる為に先頭に出る。
 剣を引き抜き、空高く掲げて全員の前で断言する。自分達の負けはこのオルガスタン大陸の希望を潰す事に繋がると自覚させる為に。
「この戦いが最後になるとは限らないでしょう。ですが、今こそ我々は希望を担う者として剣を握り、そして人々の希望となるべく立ち上がります。この戦いで魔神アガルダを打ち倒しオルガスタン大陸に希望を! そして我々の手で平和を!」
「おー!!」
「フェランドも取り返してやろうぜ!」
「あぁ、俺達がやれる事はやるんだ」
 ガイアとヴォルグが合図と共に進軍を始める。ルプスが隣に来たアベルゾは共に中腹の位置に戻り進軍し始める。
 スジエルとオジナルの戦いが始まる、それは市民には最後の希望とも言える。この戦いでレジェースが負ければスジエルもいずれ魔神アガルダに支配されて、永遠にこのオルガスタン大陸では希望も何も無くなるという事に繋がると知っているからだ。
 進軍をしていくレジェースをスジエル王城から見守るルーベリド王女とユリウスは、お互いの顔を見合わせて頷く。そして、ユリウスはルーベリド王女に膝を着いて頭を下げるとルーベリド王女にこう告げる。
「俺が行く事で力になれるかは分かりません。ですが、このスジエルの人々はオルターナの者達を受け入れてくれた俺達の第2の故郷。その国を守りたいと願う事をお許し下さい」
「ユリウス様、どうか……ご無理だけはなさらないで下さい。私はいつだって貴方様の事を信じております」
「ルーベリド王女に必ず再会を。それでは行って参ります」
 ユリウスは一度顔を上げてルーベリド王女に微笑みを向ける。その瞳に映るルーベリド王女に悲しい顔をさせまいと笑っていたが、ルーベリド王女にもそれが伝わり2人は笑顔で別れを告げる。
 ユリウスも反乱軍のメンバーを率いて他の国の義勇軍を率いて、最終決戦の地へと赴く為にスジエルを発った。こうして運命は大きく動き始める。
 アガルダの手に落ちたフェランドの方にも動きが見られた。意識を取り戻したフェランドの身体には重厚な鎖と手枷、足枷が付けられてある場所に繋がれていたのである。
「ここは……」
「目が覚めたようですね」
「貴女は……?」
「私はオジナル第1王女ヴェレネット。偉大なる魔神アガルダ様の巫女です。貴方は世界樹の加護を受けてなおも魔神アガルダ様の力による転生者でありますね?」
「それがどうしたって言うんだ!」
「その魂を傷付けたらさぞ美味しい苦しい声が聞けそうですわね?」
「なに、を……っ!?」
「貴方の中にある光をまずは奪わせてもらいましょう。この地において光は邪魔な存在。貴方には魔神アガルダ様のお力の器になってもらわないといけないのですから」
「やめ、止めろっ!!」
「ふふっ、闇こそ正義だとその身を持って味わいなさい。光など所詮甘い考えの弱き存在ですわ」
 ヴェレネットの右手に持たれている水晶には、フェランドの今までの人生で培ってきた光の力を具現化した映像が映し出されている。それを眺めながらフェランドの魂に傷痕を残すべく記憶をも探っていく。
 フェランドの身体には無数の手が這って身体中から光の力を奪い尽くしていく。そして、着ていたアーマー類を奪い取りインナー姿にした手たちは闇の力を手に集め、その力をフェランドの身体に滲み込ませていく。
 激痛と化すその侵食を味わうフェランドの口からは言葉にならない悲鳴が上がる。それをヴェレネットの瞳が捉えてニヤリと微笑む。
「いいですわ……その声にならぬ悲鳴を耐える精神を粉々にしてさしあげます。貴方の身体に残る光を少しも残らない様に……闇に染まってしまいなさい」
「うぁぁぁ!!」
 闇に侵食されて魂に傷痕を残されそうになるフェランドを守ろうとしているのは誰でもない、世界樹の加護だった。だが、その加護の力すらもアガルダの力の前には成す術もないのだろうか――――?
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