騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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6章

43話「半分を取り戻した今こそ好機!」

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 第2の関所を抜けたレジェース部隊はオジナル本国が見える高台に陣営を整える為にテントを張っていた。オジナルを取り込もうとしているかの様な闇の濃さに騎士達も一瞬だが怯んでしまう。
 だが、あそこには一途の希望が残されているという事実も騎士達には知られている。そして、レジェース部隊には追い風が吹き始めていた。
「それでは一部の支配が解けた、と考えていいのですね?」
「はい。スジエルを中心にオルガスタン大陸の一部であるアガルダ支配国が徐々に自力ではありますが支配から解放されて、立ち直りつつあるとのご報告が入っております。今ルーベリド女王陛下が中心になられて友軍を編成しながらこちらの援軍体制を整えている途中だと」
「ユリウス様にもその事をお知らせするのです。そして、各陣営に友軍が到着するまでの間の野営陣形を維持する様に伝えて下さい」
「はっ!」
 アベルゾは追い風になりつつあるこの現状に少し打開策が見え始めている事に気付く。だが、オジナルを囲む様に展開した所で闇の強さのせいで本来の力はあまり発揮出来る状態ではないのは確かである。
 どうするか? そう考えているとルプスがスープを持ってテントに入ってきた。ルプスはガイアの勧めもあってアベルゾの世話を自発的に焼いたりしている、それで人間社会の事を知る事が出来るという言葉を残しているのを考えれば、ルプスなりにアベルゾの事を支えていると思っていいのであろうと思われる。
 ルプスがアベルゾにカップを差し出すとアベルゾは短い言葉でお礼を告げるとカップを受け取る。ルプスは地図を見ながら今の自分達の現状を少し把握している様だった。
「オジナルを攻め落とすには戦力が足りない?」
「正直言えば足りません。今のままでは王城に攻め込む前にこちらの手勢が底尽きる感じになるでしょう。それではフェランド君を救出するのは無理な事になります。それにオジナルの王城までに行きたいと思っても、魔族達が普通に出歩いている可能性もありますし、アガルダの腹心が何もしてこない……考えられませんからね」
「人狼とエルフの里からも義勇軍来ると思う。今こそアガルダを討たないとオルガスタン大陸は終わってしまう事は皆が知っている。この戦いで長いアガルダの支配を終わらせなきゃいけない」
「そうですね。そして、その支配から解放された時にこそこのオルガスタン大陸は本当の意味での平和が始まる。そう私は考えています」
「うん。私もそう思う」
 アベルゾはルプスの横顔を見つめて不意に思う。この戦いが終わってしまったら彼女は人狼の里に戻ってしまうのだろうか? と。
 ルプスはアベルゾの視線に気付き顔をアベルゾに向けると真正面から視線を絡ませる。暫くの沈黙の果てにルプスはアベルゾにある質問をしてみた。
「アベルゾに聞きたい。人狼も外で生きていく事出来ると思う?」
「不可能ではないかと思います。それこそ、レジェースには色々な種族が集まります。エルフもいればドワーフ、竜人なども普通にいます。人狼だって1歩外に踏み出せば色々とチャレンジ出来ると思いますよ」
「なら、私はこの戦いが終わったらレジェースにお世話になろうかな。外の世界を持っと知って人狼の事も知らせたい」
「その時は私がお力になれるようにご助力します。約束しますよ」
「ありがとうアベルゾ」
 ルプスがそう言ってアベルゾの右頬に唇を押し当ててからすぐに離れてテントを出て行く。人狼なりのお礼の方法の1つなのはヴォルグの行動を見ていたアベルゾには分かっていたが、心臓がバクバクして煩いのはどういう事なのか。
 ジェイドはヴォルグと高台の丘の上に座って武器の手入れをしながら話し込んでいた。ジェイドもヴォルグもオジナルに今すぐ攻め込むのが正しい判断だとは思ってない。
 だが、あそこにはガイアのパートナーであり世界樹の加護を受けたフェランドがいるのも事実なのだ。焦る気持ちと逸る気持ちが入り乱れてヴォルグは大剣の刃を磨く手に力が入り過ぎて危うく指先を切りそうになる。
「だぁー! イライラする!」
「落ち着きなって。僕達が先走っても事態は良くならないんだから。今はタイミングを待つ時だよ」
「でもよ、このまま友軍を待つ間にバルシスが復活しちまったりフェランドの命が危ない目にあったりしたらどーすんだよ?」
「恐らくアガルダは僕達が力をしっかり保ったまま自分の元に来るのを待っている筈だ。アガルダはこのオルガスタン大陸の支配を完全にする為にも今は他の支配国が友軍を出す、それを見逃しているのがいい反応だ」
「それじゃ、わざと隙を見せているって事か? 俺達を完膚なきまでに殺す為に?」
「そうだろうと思う。僕がアガルダなら悲鳴を最後に味わって完璧な支配をするのが最高の勝利だと思うからね」
 ジェイドは弓の弦を張りながらしっかりと言葉を紡ぐ。ヴォルグも同じ様に武器の手入れを再開させて色々とブツブツと小声で呟いているが、結局のところヴォルグだって分かっているのである。
 今、自分達が自分勝手に突っ込んでしまえば最後の希望は簡単に潰されてしまう事を。だから、今は我慢の時でもあるのだとジェイドに言われて納得するしかないのである。
 そこにガイアが姿を見せる。2人の為に貰ってきたカップに入っているのは温かいスープ。
「ほら、こんな場所に長時間いたら冷えるだろう? 飲めよ」
「お、悪いガイア。……ガイアは落ち着いているな」
「そりゃ、ガイアだもん。落ち着いている様に見えて内心はヴォルグと同じだと思うよ?」
「お前達は俺の事をどんな風に考えている? そもそも、俺は次期軍師騎士の称号を受け継ぐ人材だと言われているんだぜ? 今の状況から下手に動けないのは承知の上だっていうの」
「けれどさ、フェランドがあのオジナルの国の中に捕らえられている。そして、助け出せる位置にいながら手出し出来ないもどかしさだってあるんじゃねーの?」
「そりゃあるさ。でも、俺達がもし突っ込んで自滅したらこのオルガスタン大陸の希望も終わるって事だ。なら確実に進めて行ける様にしっかりと土台を築かないと、フェランドの命を救う事も叶わないだろ?」
「……ガイアって意外にも冷静の様に見えてちゃっかり危ない橋を渡ろうとするタイプだよねー。まぁ、そんなバカな真似はしないだけいいけれどさ」
 ジェイドは少し不安に思っていた部分もあった。フェランドの事で自分の心の暴走を生んでも止めるキーパー的存在がガイアにはいない事を。
 だが、今の言葉を聞く限りまだガイアは冷静さが上回っている様で、簡単に自分の心の暴走には身を任せる事はしないのが分かった。だが、問題はアガルダにそれが通用するか? って部分でもある。
 どうにかフェランドだけでもこちらの陣営に取り戻せればまだ希望は強まる。マナの聖樹はそろそろ開花が始まる頃だ、その開花が済む頃に破壊竜「バルシス」復活は完全に完了してしまっている事だろう。
「俺達がどんなに頑張ろうと、今はタイミングが悪い。なら、最大の力が発揮出来る様に事前に打てる手は色々と使うのが定石だろう?」
「ガイアは、フェランドが命を奪われている可能性は考えないんだな」
「ヴォルグはその極端な考えはどうにかした方がいいよ。間違いなく人間社会では弾かれる考え方だと思うから」
「ははっ、なんだろうな……フェランドはまだ無事でいるのが分かるって感じなんだよ。だから今はまだそんなに焦っている訳じゃない。まずは自分の事もしっかり出来ないでフェランドを迎えには行けないからさ」
 ガイアの言葉にヴォルグもジェイドも不思議と安心してしまう。ガイアの魂とフェランドの魂は不思議な絆で結ばれているんだろうと2人は考えていた。
 そんなガイア達の背後に闇に包まれていたオジナルの王城内部で大きく動きがあった。オベリウスがフェランドを連れて逃げ出したのである。
 フェランドは散々下っ端の魔族達の性処理相手にされていたが、持ち前の体力でオベリウスと共に地下水路を駆け抜けていた。オベリウスはこのフェランドこそがアガルダを倒せる最後の希望だと信じて王城の1室から監視の目を潜り抜けて脱出させていたのである。
「こちらです。頑張って下さい」
「はぁ、はぁ、どうして、俺を?」
「このオジナルは本来とても神々に愛されていた国の1つでした。両親と私はそれこそ神々に毎日祈りを捧げて国の人々に幸せが届く様な政治を執り行ってきました。でも、ある日……姉のヴェレネットが闇の力に魅入られて……そして、両親を殺し、アガルダをこの国に召喚してしまった……その行為は決して許されるべきものではありません」
 オベリウスは水路を駆けながら自分の過去を口にする。その過去にフェランドも言葉を詰まらせる。
 姉が闇に染まり、実の両親を殺されて、それでも光を失わないでこうして自分と共にオジナルを脱出しようとしている目の前の女性はとても闇に染まる様な女性ではない。そう感じられてフェランドの中で失い掛けていた心を復活させる。
 騎士は主の為に剣を振るい、弱き者達の盾になる。その心に惹かれていた部分もあった筈であるとフェランドは自分の心に問い掛ける。
「フェランド様。貴方様はこのオジナルだけではない……オルガスタン大陸の希望なのだと思います。まだ貴方様には成さねばならぬ事がある筈です。その為にもオジナルから逃げる事は急務。アガルダもきっとこの逃亡は計画に入れていた事だとは思います。でも、人の心は誰でもない本人以外には掴めない存在だと思うのです」
「……それが仮に出来るのはきっと自分以外の信頼が出来る存在だけだと思います。そんな存在の元に俺は帰りたい。そして、一緒にアガルダを倒してオルガスタン大陸の希望を取り戻してみせたい」
「その為にも、今はオジナルを脱出する事を考えましょう。もうすぐで城下の城門近くに出ます。そこからは国外に逃げるのが最適かと」
「貴女は?」
「私は足止めに残ります。アガルダもきっと私が邪魔だと思いますから追手を差し向けている筈。少しでも貴方様を逃がせれるのであれば私の命はどうなっても構いません」
「そんな事を言わないで。貴女はまだ生きるべきだ。俺が……俺が護りますから」
「フェランド様……」
 水路の出口で立ち止まるオベリウスはフェランドを涙の張った瞳で見つめる。この女性は1人でこの場で死のうとしている。
 それは自分の命で救える存在があると知っているからだ。だが、フェランドも騎士としてそれは見て見ぬ振りは出来ない。
 出口からオベリウスの手を握り締めて飛び出したフェランドは剣を魔法で生み出して、国外へと走っていく。アンデット兵士に見付かり追っ掛けられているが諦めない。
 少しでも遠くへ、少しでも安全な場所へ、彼女を、オベリウスを連れて行く。それが騎士としての自分の使命だと言わないばかりに。
 そして、フェランドとオベリウスの姿をジェイドが気付いたのは奇跡だと言える。ジェイドが風の精霊に呼ばれて耳を傾けているとフェランドの声が聞こえたからだ。
「フェランド!?」
「なんだって?」
「どうしたジェイド?」
「フェランドが……フェランドがオジナル国内から逃げてきている!」
「「!!」」
「しかも1人じゃない! 誰かと一緒だ! 迎えに行かないと追われている!」
「ヴォルグ!」
「おうよ!」
「僕はアベルゾに知らせてくる!」
 ガイアとヴォルグは急いでフェランドが走っている方向に駆け出す。そして、運命の者達は再会を果たす――――。
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