騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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7章

52話「託した想いと残される希望」

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 イルスールトと剣を合わせていたフェランドは気付くのが遅れた、四天王が2組に別れている本当の狙い。それが自分の身体である事に気付いたのはイルスールトの剣を受け止めた時にオベロナスの魔法陣が足元に浮かんだ時だった。
「これは!?」
「イルスールト、よく意識を逸らせてくれました。これで確実に捕えれます」
「フェランド!」
「逃げて!」
「無駄だ。オベロナスの魔法陣の強さはお前達よりもこの男が一番に理解しているだろうからな。これでアガルダ様の完全体への手土産になったわ。行くぞオベロナス」
「はい」
 オベロナスが魔法でジェイドとルプスを壁に吹き飛ばすと同時に魔法陣が2人を包み込み、フェランドと共にその場から消えて行った。ジェイドとルプスはダメージが入っている身体で立ち上がりガイア達と合流をするべくフラフラになりながらも通路を進んでいく。
 キャロドゼとガイエリットも魔法陣が来たのに気付き、計画の最終部分が整ったのを知ると戦闘を切り上げる動きを見せる。ガイアとヴォルグはそれに気付いて逃がさない様にしようとした矢先、城内に甲高い悲鳴が聞こえてくる。
 ガイアとヴォルグはその甲高い声に意識を逸らしてしまう。キャロドゼとガイエリットはクスリと笑って魔法陣に乗り込みその場から撤退していく。
「なんだこの声は……」
「まるで断末魔じゃないか」
「ガイアっ! ヴォルグっ!」
「姉さん! ジェイド!」
 通路の端から姿を見せた手負いのジェイドとルプスにヴォルグとガイアが駆け寄る。フェランドの姿がないのを確認したガイアが眉を寄せたまま2人の言葉に意識を傾ける。
「それじゃ四天王が狙っていたのはフェランドの身体……」
「それもアガルダの完全体には必要的な言葉を残している……急がないと」
「まずは確実に四天王を撃破出来る様に戦略を練らないと危ない。俺達も1対1で戦うのは危ない」
「ルシス達の方は大丈夫かね。嫌な予感がヒシヒシしている」
 ヴォルグの尻尾の毛が逆立って危機感を知らせている。それはルプスも同じだった。
 その頃のフェランドは強靭なイルスールトの腕に捕らえられて裸にされていた。また抱かれるのかと思っていたフェランドは歯を食い縛って耐えようとしているが、その顔に絶望が広がる。
 目の前に眠りに落ちている筈のアガルダが立っていたのである。その瞳には有無を言わさぬ強者の威圧感を感じてしまう。
「この男が間違いなく鍵かと」
「さぁ、アガルダ様。どうぞ」
「な、何を!?」
『私の力を注いでくれるわ。喜べ、私の依代に選ばれし世界樹の騎士よ』
 アガルダの右手が裸にされたフェランドの心臓部分に触れると同時に膨大なマナがフェランドの体内に流し込まれる。自分の意思とは関係ない状態で流し込まれるマナの力が強いせいでフェランドの自我と精神は一気に膨大な知識の流れに飲み込まれていく。
 次第に精神と自我はマナの奥底に封じられてフェランドの身体にアガルダの意識が流し込まれた。そして、フェランドの瞳には闇の力を示す漆黒の炎が浮かび上がってアガルダである事を示す。
『これで私はついに完全体になった。もはや私には敵などいない!』
「見事な完全体への覚醒、お見事でございました。これでこのオルガスタン大陸は支配出来たものと考えてよろしいかと」
『まだだ。まだこの男の仲間達を殺し終えておらん。世界樹の力を受け取っている者達を残らず始末するのだ。そして、完璧なる支配の訪れをこのオルガスタン大陸に知らしめるのだ』
「「「「御意」」」」
 四天王達がガイア達殲滅の為に動き始める中、玉座の間ではヴェレネットの身体が八つ裂きにされていた。その傍にイシュとルシスも八つ裂きにされている。
 アガルダが覚醒したと同時にルシスにもその力が流れ込み、その力が3人の身体を八つ裂きにしたのである。だが、辛うじてルシスは命を繋ぎ止めていた。
 痛む身体を動かし魔法を唱えてイシュとヴェレネットの身体を癒す。自分は死んでもいい、だが、この2人はまだ生きててほしいとの願いを込めて力を振り絞る。
「しな、せない……しなせ、ない……」
 マナを集めて回復魔法を掛けているとルシスの脳裏に声が聞こえてくる。アガルダの声ではない、女性の声。
 ルシスはその声に泣きそうな表情を浮かべて必死にイシュとヴェレネットの回復を願った。女性の声はルシスの身体を包み込み、優しい光を放ってルシスすらも癒していく。
 フェランドがアガルダの依代となった事をルシスは知らない、だが、そう時間は掛からないで知るだろう。そして、ガイア達はルシス達の事を破壊竜バルシスから聞いている所だった。
「それじゃルシスが取り込まれていたらアガルダの完全体は成さなかったという事か?」
『そうだ。それを理解していたキャロドゼが四天王の者達を上手く動かして御子を手に入れた。御子の身体ならばアガルダの完全体を移し替える事が可能だと判断したのだろう」
「フェランド……すぐに助けに……」
『まだ希望はある。お前だ、運命の騎士』
「俺、か?」
『お前と御子の絆を持ってすればアガルダを御子の体内に封じる事は出来るだろう。そして、封じたアガルダを世界樹の少女の元に持って行けば永遠に復活は出来ぬ』
「……」
『お前達が御子を救い出さなければ、御子の魂は永遠にアガルダの手の内にある。そして、それは同時に御子の命は続かないという事だ』
 バルシスの言葉にガイアは何かが引っ掛かっていた。キャロドゼはまるでアガルダはこのオルガスタン大陸には永遠の命を与えようとする存在の様だと話をしていた事も引っ掛かっている。
 バルシスは何かを知っているのだろうか、とガイアは思って顔を上げる。バルシスはガイアの視線に気付き顔を下げて視線を合わせてくる。
『何か聞きたそうだな。私で良ければ答えてやろう』
「アガルダはこのオルガスタン大陸に永遠の命を与えようとしている、とキャロドゼは言っていた。それについては別に何も思わない。だが、どうして永遠にこだわるんだろうかと思ってな」
『……永遠の命があれば死なぬと考えているのはどの生命も同じよ』
「それだけじゃない。キャロドゼは俺にこう言った。この自体を招いたのは世界樹本人だってな」
『……お前達が真実を知るのはアガルダを倒した後になる。今知ってしまえばお前達は力を使う事が出来なくなる。それでは御子を助け出す事も叶うまい』
 バルシスの言葉にガイアは確信を持つ。世界樹とアガルダは密接な関係状態である事が分かってしまった。
 そして、アガルダはその世界樹の世界を破壊して自分だけの世界を築こうとしているんじゃない、永遠の命を得て何かを成そうとしている訳でもない。ただ生きていたいのだと。
 バルシスはガイアの様子を見つめていたがある言葉を口にする。それはアガルダの根本的存在理由と言ってもいいだろう。
『転生と死を繰り返す存在はいつからか自由を求める。それが果てには世界の理をも覆す強大な力になって世界を変えて行く。だが、その変化は生命の理を脅かす。世界の理、それは誰でもない生きる全ての者達の理』
 バルシスの言葉にジェイドやルプス、ヴォルグは言葉を失う。アガルダの存在はその言葉に宛がうならば理を乱す強大な存在になる。
 ガイアはバルシスに向かって一言告げる。運命の騎士の前に1人の男としてこれだけは揺るがない決意でもあった。
「俺はどんな強大な相手だろうと、一度守ると誓った相手を犠牲にしてまで得れる平和なんてものに興味はない。俺は俺の手で守り抜いた未来をフェランドと共に生きる。それだけだ」
『その決意を揺らがす事のない様にな。お前が揺らげば御子は永遠の闇の世界を彷徨うだけの魂と成り果てる』
「仮に彷徨う事になっても必ずその手を掴んでやるさ。俺にはあいつの、フェランドの事を捕まえるだけの自信はあるからな。周りが思っている以上に俺とフェランドは固い絆があるんでね」
 ガイアの言葉にバルシスは小さく喉の奥で笑う。昔、ガイア達の前世であるコーネルド達をバルシスは知っている。
 あの若者達も今のガイア達と同じ強い絆があった。だからこそアガルダに利用されて依代として今世では活かされて手に入れられてしまったのだから。
 だが、とバルシスは考える。この者達が真実を知った上で何かしらの事実を覆すだけの力を求めたとしたら……。
『運命の者達よ、全ての真実がお前達には優しく無かったとしてもこの戦いの果てにある真実を受け入れるか?』
「そんなの決まっている。僕達は僕達の判断で真実を見極めるまでだ」
「私も皆も、どんな真実だとしても私達は受け止めるだけの覚悟はある」
「どんな未来でも、切り開くのはその時代の者達だ。俺達だけの問題じゃないからな。俺も皆もそれは知っている」
「バルシス、俺達は運命がどんな過酷でも、重くても、前に進むだけだ。それが俺達に出来る一番の方法だ」
 ガイアとルプスは手当ての済んだヴォルグとジェイドを確認して立ち上がる。ジェイドとヴォルグも身体の動きに影響がないのを確認して立ち上がる。
 四天王が迫っているだろう事も踏まえて4人は四天王との再戦に備える。バルシスは翼を身体に巻き光を発生させてみるみるうちに身体が小さくなっていく。
 その様子を見ていたガイア達は一瞬言葉を失くす。光が無くなった後にいたのは人間の姿をしたバルシスの姿だったからだ。
『これならば私も四天王と渡り合える』
「なんでもありの破壊竜かよ」
「でも、これで戦力は大きく上がるよ」
「バルシス、武器は?」
『この爪で大丈夫だろう。私もお前達の切り開く未来と、お前達が真実を知った後の事を見届ける事をしたいなと思ってな。なぁに、竜の気紛れだと思ってくれればいい』
「長い時を生きる竜だから見届ける義務でもあるのか?」
『さぁな。私もこれは初めて故に勝手が分からない。だが、お前達の事を見届けたいと思うのは本当に竜の気紛れよ』
 バルシスの言葉にガイアもキョトンとする。だが、殺意の気配が迫り始めているのに気付き5人はマナの泉を飛び出る。
 四天王の4人がガイア達の前に勢揃いして出待ちしていた。四天王との再戦が今ここで始まろうとしている――――。
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