騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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8章(ラスト)

60話「世界樹から知らされた魔神の生まれた理由」

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 フェインはアベルゾ達を前にしてもただ、静かに立っているだけで世界樹とは思わせない独特の雰囲気の女性だと思わせていた。しかし、フェランドにはフェインがこれから話す内容が自分とガイアの運命を定めると思うと気は抜けなかったのである。
「それではお話しましょう。まず世界樹が生まれた理由からお話します。世界樹はその名の通り世界の樹です……生きとし生ける全ての母となる為に神々に生み出された存在」
『世界樹から殆どの命が生まれた。例外もあるが、今のオルガスタン大陸の殆どの生命は世界樹から生まれている。私もその1つだ』
「エルフも人狼も、人間も、全てが世界樹から生まれ落ちた存在だと言う事なんですね」
「そして、世界樹はその全ての命の願いと死を受け止めてきました。そして、気付くのです。命ある全ての者達の願いと死の恐怖から救う方法がある事を」
 フェインがそこまで話すとバルシスは腕を組んで静かに瞳を閉じる。フェランドにもその一呼吸の間に息を整える。
 その間を動かすのはフェインだと誰もが理解している。そして、フェインはアガルダの生まれる最大の理由になる言葉を告げる。
「何者かによる支配の果てに、希望を願って死を迎える事が何よりも世界樹の心を動かす願いではありました。そう、だから故にアガルダを生み出す事になったのです」
「……それじゃまるで世界樹の願いからアガルダは生まれた、って聞こえるんだがよ」
「生まれたんだよ実際に。世界樹の願いは死んでいく人々がどれだけ死に対する恐怖が穏やかになるか、で願っていた筈だよ」
「そして、アガルダと言う魔神を生み出す事で恐怖による支配において死を迎えた人々は、その恐怖から解放されると言う意味で穏やかな死を迎える事が出来る……違いますでしょうか?」
 アベルゾとジェイドの言葉にバルシスとフェインは小さく頷く。だが、とフェランドは思ってしまう。
 それならば何故アガルダは永遠の命を求める事になった? それはまるでアガルダが死を恐れて、永遠の死を知っているかの様な悲しみを持って求めていた事をフェランドは知っている。そして、それはフェランドには不思議とアガルダは望まれて生まれた来たのではない様に感じられていた。
「あの……、どうしてアガルダは永遠の命を求める様になったんですか? その人々を穏やかな死へと導く為の恐怖の対象として生まれたのであれば、いつかは死を与えられる存在になる事も分かっていたでしょうから」
「アガルダは……この世界が生まれてすぐにその当時の人間達に倒されてしまいました。結果、命の願いはまた恐怖に怯えて生きていく事になります。それを私はアガルダを転生させる事で再度の支配をさせていたのです」
「それじゃ……アガルダは望まなくても死ぬ事が出来なかった、って事……?」
『そうだ。そして、それが何百年と繰り返される事でアガルダの心は永遠の命を手に入れて、永遠の支配をする事を望む様になった。だが、運命はそう許してはくれない。必ず時代の節目にアガルダは倒されてしまうという運命が仕込まれていたのだ』
「それじゃ、アガルダはいい様に使われただけの魔神って事かよ!?」
「それが結果としてこのオルガスタン大陸の未来を繋ぐ為の生贄だったって事だね……後味悪いけれど」
 真実が明かされていく中でフェランドもルプスもヴォルグもジェイドもやるせなくなる。自分達の未来を考えて世界樹が魔神を生み出したのは分かる、分かるが、その魔神の未来にはなに一つの希望もない事が辛いと感じれたのである。
 だが、バルシスはそんな4人に救いでもある話をし始める。それはアガルダの母であるフェインの目覚めが近付いた事から、運命が変わる事が近かった事。
『フェインは世界樹が生まれてからずっとあの水晶の中で全ての生命の声を聞き届けて来た。そして、神々はフェインが目覚めて水晶から出てくる時が運命の選択を生命達に与えるべき刻だと告げていたのだ』
「生命達に運命の選択を与えるべき刻……それが俺とガイアの運命に定まる選択肢って事だね?」
「はい。アガルダが今後の世界樹の水晶にて永遠の眠りに就きました。そして、人々は暗黒期の長い支配から解き放たれた。死への恐怖も穏やかになる事でしょう。ですが、運命は本当の意味でここから始まります」
 フェインは両手を合わせ、その中心から小さな球体を生み出す。その球体は透明で、中には2つの光が入っているのが分かる。
 フェランドは直感的に片方はコーネルドの魂だと気付く。そして、もう片方はきっと……エヴァの魂である事も。
 バルシスは腕を解いてフェランドに近寄り肩を叩く。そして、静かな声で告げた。
『この光はコーネルドとエヴァと言う男の魂が入っている。世界樹がフェインの時に見定めた次の転生者の魂たちだ。お前とガイアはこの魂たちの器を探しに行かないといけない。だが、この転生者達を自由にするかはお前とガイアが決める事になる』
「エヴァ様の魂が何故転生者に選ばれたのですか? あの方は世界樹、貴女の騎士として命を全うされた名誉ある騎士ですよ」
「だからです。新たな転生者としてその魂の気高さ、清らかさ、強さは基準を満たしていました。そして、何よりも使命感に溢れていた騎士であるのは私も一番理解しています」
「……転生者が生まれるって事はまた別の魔神が生まれるって事ですか?」
『生まれるのではない。生まれているのだ』
 ルプスも、ジェイドも、ヴォルグも、それには初耳だった事もあって驚きで表情が固くなる。だが、フェランドにはどこか納得した様な表情を浮かべており、フェインとバルシスはアガルダの魂がどこまでこのフェランドに知らせていたのかが気になった。
 だが、フェランドはフェインとバルシスにハッキリと告げる。それは同じ時にガイアもルシスに告げていた。
「それでは……エヴァ様とコーネルド様の魂を自由にする、のですね?」
「あぁ。その魔神に対しての転生者にするのは俺は、俺達は拒む。ならその魔神すらも俺達が倒せばいい。俺達が生きている間に魔神が何度生まれても俺達が倒す。それが出来る立場に俺達は生きている」
 ガイアはそこまで話をしてハッキリと未来を変える戦いをする事を宣言する。だが、ルシスは更にガイアには決めなくてはならない選択肢を話す。
「ガイア様のご決断はきっとフェランド様のご決断と同じだと思います。では、最期にガイア様。貴方様には一番重要な選択肢を与えます」
「何だろうと聞かせてくれ。多分、俺の中の予想と同じ内容なら答えは決まっている」
「……フェランド様がその身体を以って魔神と化したら、貴方が殺せますか?」
「……それは俺にしか出来ない選択肢だろ。俺の手でフェランドを止めるさ」
「殺す事になっても、貴方様はフェランド様を止めれますか?」
「それがあいつの、フェランドの願いであるなら俺は叶えるまでだ。それが結果として俺とフェランドの運命であるのは薄々気付きはしていたからさ」
 ガイアはフェランドが何度もアガルダの手に落ちても光に導かれていた事を思い出す。だが、それは結果としてガイアの中に確信を持たせるだけの要素に成り果てていた。
 フェランドの肉体は魔神アガルダの依代になり得るだけの肉体である。それは即ちいつかその肉体を完全に魔神の依代として利用されて魔神化した時に、ガイアはフェランドを止める為に殺せるか? その選択肢をルシスはしていたのである。
 ガイアだって出来ればフェランドを自分の手で殺す、なんてしたいとは思わない。だが、それがフェランドの願いであるのであればいつかはガイアはその手でフェランドを殺す事になっても厭わないと考えるだろう。
「ルシス、フェランドはこの事を?」
「薄々は気付かれているかと思います。フェインがそう話すでしょうし……。その決意があるのであれば私達に出来るのは貴方達に道を示す事だけ。このオルガスタン大陸の外にあるルベロ大陸に行かれるとよろしいでしょう。その大陸の魔神を倒す事が次なる貴方達の運命となります」
「ルベロ大陸か。これはまた厳しい旅になりそうだ」
 クスクス笑うガイアはルシス達がまた償いの旅に出て行くのを見送りユリウスに説明をしにいく。自分達はオルガスタン大陸の未来を繋いだが、悲しみの連鎖を断ち切る為の旅に出なくてはならない事になったのを知らせに。
「そうですか……。ガイア様とフェランド様のお2人の運命がそんな厳しい運命であるのを私達は何も出来ずに見送るしか出来ないのですね」
「そうでもありませんよ。このオルガスタン大陸のスジエルとオルターナがある事で、俺達は心の故郷を持つ事が出来る。それは厳しい旅の中でも安らぎを与えてくれる存在だと思います。だから俺達がいない間はスジエルをお願いしたいんです」
「えぇ、ルーベリドと共にこのオルガスタン大陸の平和を守り通して行きます。それがこのオルガスタン大陸の未来を守ってくれた運命の者達への恩返しになると信じて」
「俺は恐らくこのオルターナの復興に目途が経ったらスジエルに戻ってルベロ大陸に行く準備に入ります。恐らくフェランドと2人だけの旅になるでしょうから」
 ユリウスにそう告げるガイアの瞳は同じ空の下のフェランドに向けられているかの様な、そんな優しさの色を滲ませていた。そして、フェランドもまたフェイン達から聞かされた新しい旅立ちの事を考える。
 ジェイドやヴォルグは行けるかも知れない。だが、ルプスにはアベルゾのサポートとして残ってもらいたいと考えていた。
 なんだかんだでルプスの存在がアベルゾの心にいい影響を与えているのは見ていて分かるから。フェランドなりにルプスにはアベルゾの存在がいい刺激になっている様にも伺えていたのである。
 同じ空の下でガイアと同じ気持ちでいるだろう事はフェランドには嬉しい、と感じられていた。この先の旅も人生もガイアと2人で分かち合って、そして、乗り越えて行かないといけない事は事実、そして、自分達の運命はこの世界の未来を揺るがす事も。
 運命の者達の次なる運命がこうして始まろうとしている。そして、それは新たなる幕開けの鐘を鳴らすのであった――――。
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