最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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嵐の前の静けさ編

82話「聖女と神の日々編」

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 エテルナはアルバーンの聖女衣装を見つめて1人で悩んでいた。聖女としてこの服を着るのは抵抗はない、ないのだがルーディス神の視線がやけに熱を帯びるのを感じて自分の身体なのに自分ではどうしようも出来ない程に熱くなる。
 ルーディス神の事を受け入れている身体が熱くなるのにはしっかりと自覚している、彼に、ルーディス神に欲情しているのだと。でも、聖女としてルーディス神の傍にいる事をするのであれば、欲情などあってはならないと自分を戒める事を考えていたエテルナの背後にルーディス神が静かに立ち腕をエテルナの細い腰に絡ませてくる。

「エテルナ」
「る、ルーディス神様! どうされたのですか?」
「お前こそ何を悩んでいる? 服を見て青くなったりしてどうしたのだ」
「あっ、いえ、その……なんでもございません……」
「私には言えぬか。ならば身体に聞くとするか」
「えっ!? あっ……んんっ……」

 エテルナの足を割り開き右手を秘所に差し込むルーディス神にエテルナはただ流されて身体を捧げていく。2人がベッドの上に倒れ込んで求め合うのは愛し合ってから頻度が上がっていたがエテルナには子は出来なかった。
 ルーディス神との間に出来たらそれはそれで新しい火種になり兼ねないとも考えていたが、女としては愛する相手の子を産みたい、そう願っていしまう生き物。それが聖女としてのエテルナを苦しめているのもエテルナは理解している。
 ベッドの上でルーディス神の腕に包まれて倦怠感を感じていたが、ルーディス神の優しい手につい身体を寄せてしまう。欲情する身体も、子を求める心も、全て無くさないといけない……それを言葉にする勇気をエテルナは欲した。

「聖女様」
「はい」
「こちらの準備が整いました。次にこちらの……」
「それでは部隊をこちらに。そして次の部隊を」
「……」
「あ、ルーディス神様。どうかされたのですか? こちらにいらっしゃるなんて」
「エテルナを少し借りるぞ」
「ルーディス神様?」
「来い」

 珍しく聖女の執務室に姿を見せたルーディス神にエテルナはキョトンとして言われるままルーディス神に尽き従って執務室から出て行く。歩く上で歩調が異なるのは普通だが、ルーディス神はエテルナの歩調に合わせて歩いてくれる。
 その何気ない気遣いと優しさに笑みを浮かべているエテルナを連れて向かったのは見張りにも使われる高台にある塔。そこの頂上に連れられてきたエテルナは見晴らしのいいこの塔に何故連れて来られたのか分からない。
 背中を向けているルーディス神に視線を向けていると、ルーディス神の右手に何かが握り締められているのに気付いた。そして、それに視線が行くのと同時にエテルナの右手首を掴んだルーディス神はエテルナを自分の腕に閉じ込める。

「ルーディス神様……?」
「お前に渡しておきたい。人間達の間では愛する者に贈るそうだな」
「これ、は……」
「私の愛をお前に、エテルナに捧げよう」
「ルーディス神様……っ、いいのですか……?」
「お前が不安になっている事を気付かない訳ではない。だが全てが終わるまではその不安の元になっている事を解消してやる事は叶うまい。だから、せめて不安を少しでも薄く出来る様にと私なりに考えた物だ」
「ルーディス……」
「エテルナ、必ず生きて帰る。帰りを信じて待っていろ」
「はいっ」

 ルーディス神の左手にも同じ物があるのに気付いてエテルナは涙を浮かべる。愛されていると自覚すれば強い想いを捧げたい。
 その夜はひたすらにルーディス神へ愛を捧げていた、彼の手を受け入れて、彼を受け入れて、何度果てようとも身体と心は彼を求める。ルーディス神もまた何度でも聖女であるエテルナを愛してその身体を突き上げていく。
 染め合う心を何度だって寄せ合い、そして、同時に魂の絆を刻んでいく。切れる事の無い様に、そしてその存在を失わぬ様に。
 真夜中まで身体を乱れさせたエテルナとルーディス神はベッドの上でお互いの心音に聞き入っていた。そして、ルーディス神はそっとエテルナに囁く。

「全てが終わったらエテルナを連れて神界へ戻るのもいいかもしれないな」
「でしたら私はルーディス神様のお傍にずっといれますね」
「そうなれば人としてではなく女神として私の傍にいるがいい。いや、いろ」
「はい、この身も魂も心も、全てルーディス神様の為だけに」
「エテルナ……愛している」
「私も愛していますルーディス……」

 重ね合う唇は息すらも飲み込むような情熱の籠った口付けだった。エテルナのシルバーの髪に、漆黒の髪を持つルーディス神の身体がまた重なり乱れ始める。
 夜が明けた頃、聖女としての役目を果たす為に聖女の服に着替えていたエテルナは不思議な感じを体内に感じていた。まるで身体全体がルーディス神の腕に包まれているかの様に温かい。
 なんだろうかと身体を映す鏡を見ても異変は見られない。とりあえず着替えを済ませたエテルナは聖女としての執務を始める為に城内を歩く。
 その頃のルーディス神は1人鏡の中の自分を見つめて笑っていた。鏡に1人言葉を漏らす。

「まさかエテルナにこんな方法を使う事になるなんてな。だが……離れている間にエテルナに何かがあるかも知れないと考えればこの方法が一番無難ではあるか」

 エテルナに何かしたのはルーディス神しか分からない。だがそれが分かるまでの間にエテルナはきっと気付かないのも確信していた。
 その様に仕向けているのも事実ではあるが、ルーディス神の強い愛情が形としてエテルナを守るのを誰が止めるだろうか。ルーディス神が覗き込む鏡の中にはエテルナの姿が映し出されていた。
 聖女としてアルバーンの騎士達やハンター達、竜騎士達と共に最終決戦に挑む為の準備に追われているエテルナを見守るルーディス神は心から彼女を愛した。聖女じゃなくてもきっと愛したのではなかろうかと自分に問うルーディス神は思う。
 彼女の婚約者が自分の為に死したのは運命であり、自分とエテルナが愛し合うのもまた運命だったのではないだろうかと。エテルナの心に付け入ったのはルーディス神だが、エテルナもそれに応えた。

「神が運命に従う、それもまた新しいと思える。人間を愛していた私が1人の娘に心奪われてこうして寵愛をするなど、昔の私では考えられなかっただろうな……」
「失礼します」
「なんだ?」
「例の魔法文書が見付かりましたので、お持ちしました」
「そうか。そこに置いててくれ。すぐに解読する」
「はい」

 部屋に訪れた学者の手に持たれていた古い書物が机に置かれて学者が立ち去った後、ルーディス神は魔法を唱えて書物を開き文字を召喚する。この魔法文書には神狩りに関しての魔法が残されている可能性があった。
 神でなくては解読できない神聖文字も使われており早急な解読も必要とされており、ルーディス神は学者達と共に色々な魔法文書を解読し続けていた。それもこの書物で終わりを見せる。

「ほぅ……よもやこの本にその様な魔法が封じられていたとはな」

 解読を済ませたルーディス神はそれを人間達にも読める文字に解読してまとめていく。神としてこれを人間達の歴史に残していくのは当たり前だと考えていた、それが神から人間へ出来る愛情だと。
 解読してまとめ上げた紙を整えて魔法を掛ける。聖戦の時に使えるだろうエテルナ宛ての封をして学者達の元へ飛ばす。
 少しでも聖戦の傷痕が少ない方が望ましい、それは神としてでもあるが君臨して触れ合って来た人間達を想う神の心がそうさせている。そして、同時にエテルナと共に見てきたこのアルガスト大陸を愛おしいと感じる。
 ルーディス神はこの短い時間の中で目覚めてから今に至るまでを思い返すと自然と微笑みが浮かぶ事に気付く。それだけの出逢いと思い入れがある事に嬉しくなった。

「……私も神としてではなく、生きる者としてこの世界を愛している、と言う事か」
「ルーディス神様」
「お帰りエテルナ」
「ただいま戻りました」

 戻ってきたエテルナは綺麗な微笑みを浮かべてルーディス神の胸に飛び込む。この愛おしい存在を産んだ世界も、愛した者が生きる世界も、ルーディス神の心に強く傷痕を残す。
 守りたい、その想いをエテルナは察してくれて傍にいながら支えてくれようとしている。それが人間が愛し合った者同士で行う行為だとエテルナに教わってからは大事な行為だとも認識している。

「エテルナ」
「はい?」
「私の妻になったら何がしたい?」
「そうですね、ルーディス神の傍でずっと愛を囁いていたいです」
「その様な事でいいのか?」
「愛を囁くのは立派な愛する者への愛情表現ですから」
「そうなのだな。ふむ……私も愛を囁くか」
「えっ……あっん」
「愛しているエテルナ。私の愛を受け入れろ」
「る、ーでぃす……あぁ……」

 エテルナを組み敷き抱き合うルーディス神は聖戦の時もきっと迷いは持たないのだろう。エテルナの愛した世界を、愛した者達が生み出した世界を取り戻す、その瞬間まで。
 人間を愛した神様は、人間を愛し、愛しみ、そして守る為に戦うのだった――――。
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