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もとから好きでした
しおりを挟む「付き合ってもらえませんか?」
「ごめんね、それは無理かな」
三度目の告白も、盛大な空振りに終わった。
・・・
俺が大柏高校に入学して初めて話したのが君、「宮下 結美」だった。
どちらかと言えば目立たない結美に声を掛ける男子は少なく、教室では女友達3人くらいの少数グループを作っているような女子で、席が隣になりでもしなかったら話す事をも無かっただろうし、結美との関係がこんなにも複雑にはならなかったかもしれない。
「海斗~ 黄色の絵具取ってきて」
「あーーーーーい」
こんな主従に見えるだろう関係が俺達の友情なのだ。
文化祭が一週間後に迫り、そこらじゅうで準備をしている姿が見られるなか俺と結美は、クラスアピールのポスター作りのために美術室で談笑をはさみながら作業を進めていた。
端から見ると結構親しく見えるらしく、付き合ってるのかと聞かれることが多いが断じてそうではなく、むしろ絶対に恋人同士にはなれないのが俺たちで、その境界線がはっきりしている分だけ踏み込んだ関係に見えるのだと思う。
と言うのも、つい先日俺は結美に三度目の告白をしたのだが望む答えは聞けず、二度あることは三度あると言う言葉の餌食になったばかりだっが、それでもなぜか俺達の関係は変わらず続いている。
まぁ、ここまで来るとネタだと思われている可能性はあるが、それを否定しきれないのは日頃の俺のキャラのせいだろうか。
そんな事考えながら、短パンから生える魅惑の太ももを横目に見ていると
「ばれてるよ 性犯罪者の海斗くん」
との指摘を受け、容赦ない罵倒のフルコースを頂いた。
何で俺がドMキャラになってしまったのか分からないが、あいつの罵倒には自然とさっきのような反応が出てしまうが、もうこれは、俺にではなくあいつに女王様的な才能があるとしか言いようがない。
その後は、好きなアニメや、あいつの好きな声優の話しと作業だけの時間が淡々と過ぎ、外が暗くなり始めると作業を切り上げた。
下駄箱の前まで行き下足に履き替えようとした時、後ろから引っ張られその機会を失った俺が文句を言おうと振り替えると、なぜか結美が不満そうな表情をしている。
「引っ張りづらい鞄ね 首輪はないの?」
「そんなもの無いし、言葉で言ってくれよ」
「あっそ まぁ良いけど図書館行くから」
「…はい」
乗ろうとしていた電車は乗り過ごすし、さっきの会話も人に聞かれていたし、完全に「終わった」状況に絶望していると結美がお茶を持ってきた。
そうそう、まさにこの行動なんだよな。
あいつは大抵のときは、女王様モード全開のくせに変なとこで甘やかす事が時よりあって、これが飴と鞭だとは分かるのだが、それ以外の態度をとることもあって、その時はやたらと触ってくる。
今だってお茶を飲んでいると。
「海斗、手 出して」
「ん」
「…………… 」
「絵具でもついてた?」
「いいからあんたは黙ってお茶飲んでて!」
今みたいな事がしばしばあって、以前の俺はツンデレなのだと勘違いして告白した結果、そうではないのだと学んだ。
こんな時は、思うようにさせておくのが一番良いのだと分かり、左手を捕らえられたまま携帯を眺めていた。
・・・
図書館に一時間ほど監禁されやっとのことで帰り道にたどり着いた頃には、既に日は沈み道の所々を電灯が照らし出すなかを歩くのは俺達だけのようだ。
昼間との温度差で生じた風が結美の髪の毛とスカートをなびかせ、優しい香りのする風となり俺へと届ける。電灯があるとは言え、その周辺でなければ暗闇と同じで、視覚よりも他の感覚が過敏に反応する。
「結美さ、トリートメントとか変えた?」
「…気付いたの 海斗だけだったけどね」
「まじ!?」
「喜ぶな 変態」
調度そのタイミングで電灯の明かりに照らし出された結美は、慌てて口元を隠しながら睨んでくるが、そんな即席の意地をはっても手遅れだと言うと、珍しく素直に聞き入れた。
それから駅までは、俺の斜め後ろで何かをぼやきながらくっついていた。
翌日からは相変わらずの女王様モードで、これまた代わり映えしない日々を過ごした。
それから一週間ほどたった日の授業間の休みに、結美は俺の机の前に来くると俺の手をさんざん弄んだ後に、指に指を絡めて真剣な顔をした。
そして、空いた手を俺の前に出し小指を立てると、小さく口を動かした。
「… 私にも出来たよ」
夏休みを二日間ほど前に控えた日のことだった。
・・・
失ったものはあまりに大きく、夏休みあけから俺は完全に空気となって学校生活を送ったが、そんな苦行も明日の卒業式で終わる。
その日の帰り道に、前の方を歩いている女子の塊の中に結美を見かけたが三年のクラス変え以来会うこともなく、髪型なども変わり雰囲気が違ったので気付くのはそれから数分後だった。
今年は例年よりも暖かく卒業式の最中に凍えることもなく終わり、皆が写真を撮ったり、会話に興じたりと思い思いの行動ししている。その晴れやかな空気の中にいるのは少しばかり退屈で、どうせ最後になるならと学校の中を見て回り最後に二年時の教室へと足を運んだ。
閑散としたそこは一年前の面影を残したままで、窓の外には中庭の桜が見える。
「まぁ、それなりに充実してたのかもな」
そんな自分でも笑ってしまうような似合わない台詞を残し、教室に背を向けた時。
「…ふふっ」
背後から聞こえた笑い声に足をとめた時、なんだかとても懐かしい香りが漂ってくる。
振り返った俺の目は、そこにいる女子を捉えてはなさない。
立ち尽くす俺の口から溢れた言葉
「この香りって…」
「そうだよ あの時君だけ気付いてくれたね」
俺の言葉に答えたのはあいつだった。
「…宮下 結美」
「ここに来ると思ったよ 海斗」
そして由奈は目の前で深々と頭を下げた。
「ごめんね 彼氏なんて本当はいなかったの」
「それは、どういう…」
「悪戯でネタバレもするつもりだったんだけど、夏休みの後半で入院することになっちゃって…」
そんな話を今更聞かされても、どうにもならないし何と言って良いのかも分からない。今でも好きという気持ちは変わってないけど、彼氏が居ないからと言って付き合える訳ではないし、俺は三回もフラれている。
これまでの事は、お互い水に流した方が気楽にいられるだろうと持ち出すと、はっきり断られてしまった。
そして、困り果て黙っていると結美が笑顔で俺を見つめる。
「伊藤 海斗くん」
「はい」
「私を彼女にしてください」
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