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青銅騎士は花冠の美女を救う〜王女は恋に堕ちない〜
11)王弟クルドは隠密する
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アストラルの王弟クルドが滞在する離宮は、初めから賓客をもてなす事を目的として建立され、外観も内装も広々として装飾から備品に至るまで贅を凝らして煌びやかだった。
だが、そんな豪華な離宮のやたらと広い部屋にいるのは、王弟クルドと従者のシャザール二人だけだ。
「しかし、こうも広い部屋だと持て余すな」
愚痴にも聞こえるクルドの呟きに、傍に控えるシャザールが応じる。
「王族のクセして何を仰しゃいますやら、供を大勢連れた他国の王族なら”狭い”と文句の一つも言いそうですけどね」
…つまり、供の数が少ないから部屋が広く感じるのだと言いたいのか…
解りにくい嫌味だが、付き合いの長いクルドはその真意を正しく受け取る。
「私がお前以外の供を連れてこなかったのが不満なのか?、シャザール」
「当たり前です貴方は王弟ですよ、他国を訪問するのに従者が一人とか、何処の世界にそんな王族がいるのですか?、ええ、ええ、此処にいますね、この変人が!、そんな人に仕える私がどれだけ大変か理解してますか?」
サラサラした長い金髪を背中で揺らしながらシャザールが一気に幕し立てる、途中不敬発言もあったが、口が悪いのはいつもの事なのでクルドは聞き流す。
「そう文句を言うな、そもそも私に供は必要ないし、優秀なお前がいれば十分事足りる」
王弟からの褒め言葉にシャザールの水色の瞳が満足気に光る、細身だがしなやかな身体は武に秀で、アストラルでの彼の評価は智勇共に高い。
「まあ、そうですね、余程の事が無ければ殿下の身を害するのは難しいでしょう」
気を良くしたのかシャザールがお茶をサーブしてクルドに差し出し、ふざけた話題を振った。
「所で『素敵な恋人』を見つけられたそうですね?、まさか出不精の殿下がジュールに来たのは婚活の為ですか?」
「ヴグッ!!」
お茶を口に含んだ時に話を振られてクルドが咽せる、クルドの焦る様子を見てシャザールがくつくつ笑う。
「シャザール、何処からその話を聞いた?」
離宮に待機していたシャザールの口から、知る筈のない昨日の騒動を問われてクルドは驚く。
「離宮の使用人達も噂してましたが、教えてくれたのは精霊達です」
「クソッ、あいつらは昨日から悪戯が過ぎる」
「精霊達は殿下のお嫁さんを見つけたと大喜びしてるのに、当の殿下がその態度とは酷くないですか?」
「そんなつもりも無いのに勝手に私の嫁を探されても困る、昨日は精霊達のせいで大変な目に遭ったんだ」
「でも、リリーベル王女は素敵な方だったのでしょう?、殿下の態度を見れば分かります」
従者でもあり友人でもあるシャザールは、クルド自身も気が付かない気持ちを代弁する。
「素敵と言うか…そうだな……綺麗だった」
ジュール王国の王族はドラゴンの血を引いた美男美女として名高い一族だが、紋章族のクルドは外見の美しさに惑わされたりはしない。
「殿下がそう感じるのであれば、精霊達もそう感じたのでしょう」
精霊は外見の美しさよりも心の美しさや澄んだ気に魅かれやすい、王女の内面から発する清廉なオーラが精霊達に好まれたのだろう。
「彼女のオーラは幾重にも花弁が重なった大輪の花に見えて、美しくて一瞬見惚れたんだ」
…そう見惚れた、それが拙かった、直後に私と彼女をくっつけようと精霊達が騒ぎ出した…
「そうしたら精霊達が噴水に虹を作って花風を起こし、花びらを撒き散らして勝手にロマンティックな雰囲気を作り上げたんだ」
精霊達が大騒ぎして飛び回っていた姿を思い出し、クルドは苦々しさに舌打ちしそうになる。
「何と!、語らずとも精霊達が勝手に動いて婚活を助けるとは、流石は多くの精霊に愛されるクルド殿下です」
精霊の行動を聞いたシャザールは片手を胸に当てて感動に浸るが、クルドは面白くない。
「迷惑な話だ、目の前で薔薇の花をクルクル回されたんだぞ、怪しまれるから手に取らない訳にもいかず、手にしたなら渡すしかないだろ」
…王女の瞳と同じ色合いの薔薇だ、渡さなかったら精霊達が何を仕出かすか…
衆目が集まる中で精霊を止める事は難しく、クルドは舌打ちしつつも精霊達の思惑通りに行動するしか無かった。
「全く、あの時のリリーベル王女が私を見る目付きは、奇術師を見るのと同じだったよ」
周囲から熱視線を浴びて悪目立ちをした私は、居た堪れずにあの後直ぐに城へ戻ったのだ。
「紋章族の殿下なら奇術もお手の物でしょうし、あながち間違っていないのでは?」
紋章族とは精霊と契約を結んで精霊魔法を行使する魔法使いの総称で、契約した精霊の力量にもよるが奇跡に近い現象も起こせる。
「精霊魔法と奇術を一緒するな」
精霊達を大切に思うクルドが苦言を呈すると、シャザールが話題を変える。
「ふふふ、この際『素敵な恋人』の王女と本当に結婚されたらどうですか?」
リリーベル王女がじゃじゃ馬なのは有名で、それ故かどうか婚姻の話はないらしい、年齢や立場も釣り合う此方から申し込めば、断られる事はほぼ無いだろう。
「花嫁探しの為にこの国に来たのではない、まずは当初の目的を果たしてからだ」
クルドが浮ついた話をバッサリ切ると、シャザールも気を引き締める。
「では本日のご予定は如何なさいますか?」
「魔塔のリヒャルトと会う予定だったが、向こうの都合でキャンセルになった、だから昨日途中で切り上げた視察の続きをしようと考えている」
魔術師のリヒャルトとクルドは魔導具の関係で以前から交流が有り、彼に会う事も当初の目的の一つだった。
予期せずポッカリと空いた時間は、望まない展開で中止した視察の穴埋めに使い、別の目的の為に動くつもりだ。
「殿下お一人で行かれるのですか?」
「ああ、言っただろう、私に供は必要ない」
数々の精霊を従える王弟クルドなら禍いの方が逃げていく、ならシャザールのする事は彼が不在の離宮に調整役として残る事だ。
「どうぞ、お気をつけて」
部屋の中で一部の空間が揺らぐ、その中へ姿を消す主人をシャザールは低頭して見送った。
だが、そんな豪華な離宮のやたらと広い部屋にいるのは、王弟クルドと従者のシャザール二人だけだ。
「しかし、こうも広い部屋だと持て余すな」
愚痴にも聞こえるクルドの呟きに、傍に控えるシャザールが応じる。
「王族のクセして何を仰しゃいますやら、供を大勢連れた他国の王族なら”狭い”と文句の一つも言いそうですけどね」
…つまり、供の数が少ないから部屋が広く感じるのだと言いたいのか…
解りにくい嫌味だが、付き合いの長いクルドはその真意を正しく受け取る。
「私がお前以外の供を連れてこなかったのが不満なのか?、シャザール」
「当たり前です貴方は王弟ですよ、他国を訪問するのに従者が一人とか、何処の世界にそんな王族がいるのですか?、ええ、ええ、此処にいますね、この変人が!、そんな人に仕える私がどれだけ大変か理解してますか?」
サラサラした長い金髪を背中で揺らしながらシャザールが一気に幕し立てる、途中不敬発言もあったが、口が悪いのはいつもの事なのでクルドは聞き流す。
「そう文句を言うな、そもそも私に供は必要ないし、優秀なお前がいれば十分事足りる」
王弟からの褒め言葉にシャザールの水色の瞳が満足気に光る、細身だがしなやかな身体は武に秀で、アストラルでの彼の評価は智勇共に高い。
「まあ、そうですね、余程の事が無ければ殿下の身を害するのは難しいでしょう」
気を良くしたのかシャザールがお茶をサーブしてクルドに差し出し、ふざけた話題を振った。
「所で『素敵な恋人』を見つけられたそうですね?、まさか出不精の殿下がジュールに来たのは婚活の為ですか?」
「ヴグッ!!」
お茶を口に含んだ時に話を振られてクルドが咽せる、クルドの焦る様子を見てシャザールがくつくつ笑う。
「シャザール、何処からその話を聞いた?」
離宮に待機していたシャザールの口から、知る筈のない昨日の騒動を問われてクルドは驚く。
「離宮の使用人達も噂してましたが、教えてくれたのは精霊達です」
「クソッ、あいつらは昨日から悪戯が過ぎる」
「精霊達は殿下のお嫁さんを見つけたと大喜びしてるのに、当の殿下がその態度とは酷くないですか?」
「そんなつもりも無いのに勝手に私の嫁を探されても困る、昨日は精霊達のせいで大変な目に遭ったんだ」
「でも、リリーベル王女は素敵な方だったのでしょう?、殿下の態度を見れば分かります」
従者でもあり友人でもあるシャザールは、クルド自身も気が付かない気持ちを代弁する。
「素敵と言うか…そうだな……綺麗だった」
ジュール王国の王族はドラゴンの血を引いた美男美女として名高い一族だが、紋章族のクルドは外見の美しさに惑わされたりはしない。
「殿下がそう感じるのであれば、精霊達もそう感じたのでしょう」
精霊は外見の美しさよりも心の美しさや澄んだ気に魅かれやすい、王女の内面から発する清廉なオーラが精霊達に好まれたのだろう。
「彼女のオーラは幾重にも花弁が重なった大輪の花に見えて、美しくて一瞬見惚れたんだ」
…そう見惚れた、それが拙かった、直後に私と彼女をくっつけようと精霊達が騒ぎ出した…
「そうしたら精霊達が噴水に虹を作って花風を起こし、花びらを撒き散らして勝手にロマンティックな雰囲気を作り上げたんだ」
精霊達が大騒ぎして飛び回っていた姿を思い出し、クルドは苦々しさに舌打ちしそうになる。
「何と!、語らずとも精霊達が勝手に動いて婚活を助けるとは、流石は多くの精霊に愛されるクルド殿下です」
精霊の行動を聞いたシャザールは片手を胸に当てて感動に浸るが、クルドは面白くない。
「迷惑な話だ、目の前で薔薇の花をクルクル回されたんだぞ、怪しまれるから手に取らない訳にもいかず、手にしたなら渡すしかないだろ」
…王女の瞳と同じ色合いの薔薇だ、渡さなかったら精霊達が何を仕出かすか…
衆目が集まる中で精霊を止める事は難しく、クルドは舌打ちしつつも精霊達の思惑通りに行動するしか無かった。
「全く、あの時のリリーベル王女が私を見る目付きは、奇術師を見るのと同じだったよ」
周囲から熱視線を浴びて悪目立ちをした私は、居た堪れずにあの後直ぐに城へ戻ったのだ。
「紋章族の殿下なら奇術もお手の物でしょうし、あながち間違っていないのでは?」
紋章族とは精霊と契約を結んで精霊魔法を行使する魔法使いの総称で、契約した精霊の力量にもよるが奇跡に近い現象も起こせる。
「精霊魔法と奇術を一緒するな」
精霊達を大切に思うクルドが苦言を呈すると、シャザールが話題を変える。
「ふふふ、この際『素敵な恋人』の王女と本当に結婚されたらどうですか?」
リリーベル王女がじゃじゃ馬なのは有名で、それ故かどうか婚姻の話はないらしい、年齢や立場も釣り合う此方から申し込めば、断られる事はほぼ無いだろう。
「花嫁探しの為にこの国に来たのではない、まずは当初の目的を果たしてからだ」
クルドが浮ついた話をバッサリ切ると、シャザールも気を引き締める。
「では本日のご予定は如何なさいますか?」
「魔塔のリヒャルトと会う予定だったが、向こうの都合でキャンセルになった、だから昨日途中で切り上げた視察の続きをしようと考えている」
魔術師のリヒャルトとクルドは魔導具の関係で以前から交流が有り、彼に会う事も当初の目的の一つだった。
予期せずポッカリと空いた時間は、望まない展開で中止した視察の穴埋めに使い、別の目的の為に動くつもりだ。
「殿下お一人で行かれるのですか?」
「ああ、言っただろう、私に供は必要ない」
数々の精霊を従える王弟クルドなら禍いの方が逃げていく、ならシャザールのする事は彼が不在の離宮に調整役として残る事だ。
「どうぞ、お気をつけて」
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