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学生編
皆月さんの悩み
しおりを挟む高校の時の制服を3、4年ぶりくらいに着た時、渚ちゃんの反応がいつにも増して良かった。
大学の講義を受けながら、ぼんやり考える。
今の自分の服装を見下ろせば、淡い緑のロングフレアスカートに、白のハイネックノースリーブ…そんなに変ではないはず。サンダルだって安物だけど…それなりに大人っぽくてかわいいのを選んでる。
…アクセサリーが足りないかな。
普段ネックレスとかつけないから、物足りなく見えるのはそれかも。一応いつも細めの腕時計は着けてるけど…これはオシャレというより時間を確認するためのものだしなぁ。
あんまりに落ち着いた服装すぎて、渚ちゃんは好みじゃないのかな。もっと短いスカートとか履いた方が喜ぶ?足はあんまり見せたくないけど、制服はけっこうスカート短かったから…足を見せてた方が良いのかも?すごい喜んでたもんね、あの時。
幸い最近は親の仕事も給料も安定してきていて、家に入れるお金も減った。紅葉のために貯金は欠かさずしてるものの、普段そんなに自分に使うこともないから服を買うためのお金は一応、余ってはいる。
「……買いに行こうかな…」
「なにを?」
講義が終わってもまだ席について悶々と悩んで出たわたしの独り言を、大学の同級生のひとりが拾った。
「新しい服。買いたいなって」
「珍しいねぇー、なに。彼氏でもできた?」
「そういうんじゃないけど…」
でも、喜ばせたい人はいる。
というか…褒められたい。たまに毒舌な渚ちゃんがわたしのことを「おばさんみたい」って言うから、見返したいの方が正しいかも。
「一緒に…来てくれない?」
珍しく自分から友人のひとりを誘ったら、彼女は快く承諾してくれた。
「どういう系の服がいいの?」
「うぅん…よく分かってないんだけど、できるだけ短いスカートで、あんまり大人びすぎてないやつがいいな」
「……ほんっと珍しいね。趣味変わったの?」
「変わったわけじゃ…いつも同じような格好だから変えたいなって思っただけだよ」
「やっぱ彼氏?」
「もう~…なんですぐそうなるの」
みんなしてなんでもかんでも彼氏とか結婚とか男とかって…ほんとに恋愛好きだよね。わたしにはその気持ちがまるで分からないや。
男の人と過ごすよりも紅葉とか…最近は渚ちゃんと過ごしてるのが一番楽しい。彼女はわたしの変なところもすんなり受け止めてくれたのもあって、心開いてるし話しやすい。
「こことかオススメだよ」
「わ…かわいい」
「でもちょっと高いよ?」
「へいき。今日は多めに卸してきたから」
数万円…わたしにとっては大きな金額だけど、渚ちゃんにはどうしても「おばさん」から「お姉さん」くらいには思われててほしい。せめておばさんの印象は変えたい。
改めて見返したい気持ちを心に溜めて、わたしはオシャレそうな店内へと入り込んだ。
「ほんとなんでも似合うね~!」
「そ、そう?」
店内に入ったわたしはとりあえず、片っ端から色んな服を着てみることにした。
パンツスタイル…は今日の趣旨には合ってないから、主にスカートメインで。自分が思ってたより服の種類や形が多くて戸惑った。
「で?相手の人には、どんな風に思ってもらいたいの?」
「うぅ~ん……いつもおばさんって言われるから、せめてお姉さん…欲を言えばかわいい~って反応されたいかなぁ」
「………やっぱり相手いるんじゃん」
「え。あ……えっとでも、別に付き合ってるとかじゃなくて、お互いそういうんじゃないっていうか、その」
「年下?年上?それによって感じる印象も変わるよ」
「……こ、高校生」
「は!?え…年下が好みだったの?」
「好み…っていうか、妹とか弟みたいでかわいいなって、はは…」
「意外すぎる…でも、そっか。年下かぁ」
友人は顎に手を置いて悩んだあとで、
「それなら逆に、大人の色気ゴリ押しでもイケるかもよ」
タイトな黒いスカートを手に取った。
「高校生ならきっとエロい妄想しかしてないだろうし…家庭教師のお姉さんとかに憧れる時期でしょ」
「あ…もう家庭教師したことある」
「それなら決まり!エロい家庭教師のお姉さんになれば、きっと相手めちゃくちゃ喜ぶよ~!」
「ほ、ほんと?」
「うん!勢いでそのまま…襲われちゃうかもね」
「襲われ…?や…そ、それはないかな」
渚ちゃん女の子だもん。
わたしのこと、そんな目で見るわけない。真面目な子だし。
なにやら盛大に勘違いしてるらしい友人の提案に乗っかって、わたしは普段着ないような服をとりあえず買ってみた。
それを両腕に抱えて、るんるん気分で帰路につく。
渚ちゃん、喜んでくれるといいな。
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