目黒くんの夏休み

二藤ぽっきぃ

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「きゃー!めっっちゃ美形じゃん!!しかも40代後半になればいい感じのおじさまになりそうな予感…ということは今は若かりし頃のエピソードってことか……あー瑞樹みずきに連絡しなきゃよね。」

「ノックせずに突撃してきてマシンガントーク……すみません辰也さん、驚いたでしょ。」

辰也さんを凝視して妄想を垂れ流す姉に驚き、どうすればいいのか分からず僕にしがみついている辰也さん。

とりあえず、辰也さんをよしよししながら姉さんが落ち着くまで待つ。

「で?紹介してくれるの環。」

髪をかきあげ、いい妄想ができたのか和かな笑顔を僕たちに向けて聞いてくる。

紹介はするつもりだったが、その前に勝手に話し始めたのはそっちだろうと思うが、気持ちはわかるから言葉を飲み込む。

「僕の恋人、西條辰也さんです。姉さん、ノックせずにドア開けたことだけは謝って。」

「何よ、ちゃんと中の様子を確認してから開けたわ。ヤってる音はなかったから開けた。文句ある?」

一拍置いてたのはそのためか…
真っ赤になっている辰也さんは可愛いが、ヤってる音とか言わないで欲しい。

気を取り直して、姉から辰也さんに対して自己紹介が始まる。

「どうも~環の姉、佐織さおりです。よろしく。」

「西條辰也です。こちらこそよろしくお願いします。」

しがみついていたのをやめ、姿勢を正して挨拶を返す辰也さん。
離れたことに不満はあるが、こういう律儀なところも好きだし、相手は姉だから我慢しよう。

「真面目かっ!チャラそうに見えて礼儀正しいなんて…ギャップ萌え?あんたこれにやられたのね!」

感極まった様子で口元を手で隠す姉に、視線を向けらたため解釈一致のため頷く。

「よくやった環!協力は惜しまないから、手伝えることがあればなんでも言って!」

親指をグッと立てて頼もしい顔を向けてくれる姉に、早速1つ頼みたいことがある。

離れていた辰也さんを腕の中に引き戻し、後ろから抱きしめた状態で姉と向き合う。
女性に慣れていないのか、少しあわあわしてる辰也さんに萌えている僕ら姉弟は、目と目を合わせて互いに頷く。

「今度辰也さんと夢の国に行くんですが、姉さんカチューシャ持ってましたよね。その中のを借りたいんだけど。」

「オッケー、ね。任せな、すぐ持ってくるわ。」

本当は買ってあげたいけど、期間限定商品だから今は販売されていない。誰が使ったかわからない中古は拒否。
姉のならいいだろう。あのカチューシャは絶対辰也さんに似合う。

なんの話だと、はてなマークを頭に浮かべている辰也さんに、僕の我儘ですと告げていると数秒で自室からカチューシャを持ってきてくれた姉が現れる。

「コレでしょ環。ハロウィン限定ゴースト花嫁のカチューシャ。」

「それです。流石姉さん!」

カップルコーデの時につけて欲しいと思っていたカチューシャ。
薄紫のカチューシャは今の髪色にぴったりで、且つ僕のお嫁さんだって一目瞭然だろう。

「ついでに、環用に耳付きシルクハットね。コレでカップルコーデになるでしょ。」

ぼすっと被せられた柔らかい生地のシルクハット。辰也さんもカチューシャを被らされ、思わず見つめ合ってしまう。

「お似合いです辰也さん。僕の我儘、コレつけてパークを回りませんか?」

「環ちゃんカッコいい…我儘なんかじゃないじゃん。俺だけデート浮かれてたんじゃないって知れて嬉しい!コレ使ってコーデ考えるね。」

「僕だって浮かれてますよ。こんなにかっこよくて可愛い人がデート中ナンパされないためにどうすればいいのかずっと考えてます。」

僕に見惚れてくれてるのか、ぽーっとした顔の辰也さん。悪い気はしない。

「……姉さん?それ動画ですか写真ですか。」

気配を消して僕たちに携帯を向けていた姉さんにわかりきった質問をする。

「写真。瑞樹に参考資料として送っていい?」

「いいですけど、ちゃんとギャラ下さいねデート代の足しにしますから。」

姉さんの親友、遠野とおの瑞樹さん。
彼女はBL漫画家、遠野ミズキとして名を馳せており、気さくな性格で話も合う。もう1人の姉といって過言はないだろう。

「分かってるって。そうだ辰也くん、アレルギーとか嫌いな食べ物ある?母さんから聞いて来いって言われてたんだ。」

写真を送信して画面からぱっと顔をあげて辰也さんに問いかける姉。

「えっと…特にないと思います。」

姉に慣れたのか、さっきより親しみを持って接している辰也さんがそう答えるが、そこに僕が一言添える。

「辰也さんは肉より魚の方が好きだから、寿司の出前でも取ろうよ。」

「いいね、私も食べたい気分だったの。母さんに言ってくるね。ごゆっくり~。」

にやにやしながら部屋を出て行った姉。
嵐が去ったような静けさだ。

「えっと…お寿司良かったの?出前って高いんじゃ……」

「気にしなくていいですよ。うちの家、母が料理下手でよく出前頼むのでお得意様なんです。
 近所のお寿司屋さんに頼むので美味しいですよ。辰也さんにもぜひ食べてほしいです。」

不安そうな顔をしていた辰也さんにそう言うと、それなら…といって納得してくれた。

美味しいものだけを食べて欲しい。
これも僕の我儘です。
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