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魔界内乱編
魔王の誕生
しおりを挟む幼かったサヴァンは魔王だった頃の我を兄のように慕っていて、よく部屋に遊びに来ていた。
「パパはね、魔王だから忙しくて遊べないんだって。」
サヴァンは悲しそうにそう言って我の部屋でよく絵を描いていた。
サヴァンの父である魔王の絵。
「…サヴァンはサーヴェローと遊びたいか?」
我は当時、魔王なんてものには興味はなかった。
部屋でダラダラしては最低限の仕事だけするそんな男だった。
そう、サヴァンが遊びに来て話の相手を出来るぐらいには暇な暮らしをしていたのだ。
そんな我はある日、遊びたいか?などと特に意味もなくサヴァンにそんなことを聞いたのだ。
「そりゃ、遊びたいよ。」
サヴァンは絵を描くのをやめて俯いた。
「じゃあ、おねだりでも何でもして遊ばせるように仕向ければいいだろう。」
ニヤリ、そんな微笑みとともにサヴァンに我は笑いかけた。
サヴァンは我にとってお気に入りであった。
我は種族というものがはっきりしておらず、吸血鬼でも狼男でもない我は周りの魔族から雑種などと呼ばれ遠巻きにされていた。
そんな中、サヴァンは数少ない我に話しかけてくれる存在だった。
彼は子供だからまだ分かっていないだけなのかもしれない。
そう思いつつも、父親と遊べない寂しさから良く部屋に訪ねてくるサヴァンを少なからず愛おしく思っていたのだろう。
当時の我はその感情がなんなのか自分自身で気づいてなかった。
人間に生まれ変わった後の我ならその時の気持ちが分かったのだろうか。
我には弟おろか家族などという存在はいなかったが、サヴァンのことを弟のように感じて、愛していたのだろう。
だから、そんな助けるような提案をした。
しかし、その言葉でサヴァンの悩みは解決されなかったらしい。
「駄目だよ、それじゃその時だけになっちゃう…。」
余計に顔を暗くさせてしまった。
「…そうか。」
我は何も言うこともできず、サヴァンと同じようにうつむいてしまう。
二人してしばらく絵を見ながら俯いてしまっていた。
…そこで話が終われば良かったのだが、そのときにサヴァンは思いついてしまったのだ。
「…そうだ、パパが魔王じゃなくなれば遊べるじゃん。」
ねぇ、協力してよ!
その言葉に思わず我は頷いてしまっていて。
魔王は倒されなければ魔王じゃなくなるなんてことはない。
誰かが、倒さなければいけない。
しかし、このルールには実は抜け穴があった。
例えば魔王が相手に対し、「参った」そう言えば相手が勝ったことになる。
つまり、相手の命を奪わなくても倒すことが可能だ。
ここまで言えばわかると思うが、我はサヴァンと遊ばせるために彼を倒すといっても、命まで奪おうとはしていなかったのだ。
しかし、結局、我は命を奪う形になってしまった。
…サーヴェローは戦いの末、我の目の前で自身の胸を貫いたのだ。
「…負けた魔王が生き続けられる訳がないだろう。」
サーヴェローの胸に赤い花が、咲いた。
「待て!サーヴェロー!!貴様には息子がいるだろうっ!?」
…サヴァンは紛い物の兄ではなく本当の父親を求めているのだ。
その父親が亡くなったらサヴァンが悲しむのではないか?
慌てて駆け寄るが、我が近くについたときにはもう遅かった。
サーヴェローの顔色は青白く、口からは血を流し、胸からは出血が止まらない。
何故、我の胸も痛むのだろう。
我の胸には剣など刺さっていないのに。
サヴァンのことを思い出し、ズキズキと痛む胸を抑える。
我は困惑した表情でサーヴェローを見つめた。
サーヴェローは我の顔を見て青白い顔のまま笑った。
「息子…?あぁ、サヴァンのことか…。アイツは駄目だ、魔王には向いていない…。」
吐血しながら笑って呟いたサーヴェローはさらに驚くことを言った。
あんな息子より、お前の方が魔王に相応しい。
魔王になるべくして産まれた男だ。
いつもサヴァンと遊んでいると蔑んだような顔をする男は、どうやら我のことを蔑んでいた訳ではなかった。
我ではなく、サヴァンを見てあの顔をしていたのだ。
雑種だと蔑まれ続けていた我はその瞬間、ズキズキと痛む胸に加え、踊るような高揚感を覚えた。
あぁ、なんて滑稽なんだろう。
我を雑種だと蔑むやつらは魔王を崇拝していたが、その魔王は雑種に魔王の座を譲りたかったようだ。
蔑んでいたやつらではなく我に。
あぁ、そうか、我は復讐したかったのか。
自分を蔑み嘲笑したやつらに復讐をしたかったのか。
笑みが溢れる。
…その時から我は完全なる魔王となった。
「…あぁ、心地いい。」
どうやら我は自分自身を過小評価していたらしい。
魔王であるサーヴェローを簡単に倒した我は雑種などではない。
魔王という種族だ。
サーヴェローの言うとおり、最初から魔王になるべくしてなったのだ。
…裏切る者には拷問し、従順なものには褒美を与える。
我はアメとムチを使い分け、歴代最強の魔王と言われるまでに至った。
「どうして、パパは帰ってこないの。」
「ねぇ、」
「どうしてよ、」
「ねぇ!!!」
少年の悲痛な叫びに痛む胸には目を背けたまま。
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