第二王子の僕は総受けってやつらしい

もずく

文字の大きさ
37 / 38
魔界内乱編

狐の従者は怯える

しおりを挟む
僕はさっきまでいたサヴァンの部屋の前に立っていた。

ゴクリ…と唾を飲み込む。

サヴァンもイカルドも僕のこと嫌いになっちゃったかな…。

前の魔王のこと嫌いだって言ってたし、それが僕だって知って嫌いにならないわけがない。

溢れそうになる涙を堪えながら、そっとドアに手の甲を当てた。

コンコンッ…。


「はい…。」


ドアの隙間から眉を下げたイカルドが顔を覗かせた。


「あ、あのね…イカルド…」


僕が声をかけようとすると、周りをキョロキョロしたあと、ゆっくりと僕の手を引き中へと入れてくれた。


「イカルド…?」


僕が不思議な顔で見つめると耳打ちをするように顔を近づけてきた。


「ネムさ…魔王様はあまりご存知ないのかもしれませんが、サヴァン派の魔族は前魔王を殺したいほど憎んでいるのです。」

「こ、ころ…」

「だから魔王様が復活されたと知らされた今、他の者達にも伝えるのかは分かりませんが、伝えたら最後、貴方の命は…。」

「僕、殺されちゃうの…?魔王の生まれ変わりだから…っ…?」


ポロポロと溢れる涙は止まることを知らず、拭っても拭っても溢れてくる。


「そんなに擦ると赤く腫れてしまいますよ…?」


イカルドが指で優しく拭ってくれる。

でも…。


「イカルドは僕を殺さないの…?」


イカルドもサヴァン派の魔族でしょ…?

そう言った僕の言葉にイカルドは手を止めて眉を下げた。


「そうですね、私は前魔王を殺したいほど憎んでいます。」

「…ぅ…っ…」


イカルドの両手が僕の首に掛かる。

ギリギリと力が強くなり、息が苦しくなる。


「いい、よ…イカルド…僕を…殺して…?」


イカルドの話を聞いて僕は思い出したことがある。

気づかなかっただけで、僕はなぜ彼らサヴァン派が僕を嫌っているのか知っていた。

サヴァンには父親がいる。

それがどうしたって話なんだろうけど、今回に関しては重要な話だ…。

それはサヴァンの父親、サーヴェローが僕が魔王になる前は魔王をしていたからだ。

…この世界では魔王を倒した者が魔王になる。

強いものが一番。

そんな簡単なようで複雑なルールは長年引き継がれてきた。

つまり、僕はサーヴェローを倒した。

大多数は倒した僕を褒めたが、サーヴェローの側近たちやそれこそ家族は僕を心底憎んでいた。

サーヴェローの息子であるサヴァン…。

サーヴェロー派の魔族が皆、サーヴェロー亡き今、サヴァン派になっているんだろう。

僕はそんなことを考えながらイカルドに身を任せるように体の力を抜く。

僕は能力は魔王だが、体自体は人間のままだ。

力を使いさえしなければ簡単に死ぬ。


「サヴァンと…仲良くね…?」


ふわりとイカルドに微笑むとイカルドは酷く傷ついた顔をする。

なんで、そんな苦しそうなの…?

僕っていう復讐相手を殺せるのに…。

意識が遠のく中、イカルドの涙が僕の頬へ落ち、床へと滑り落ちていった。


「ゴホッ…ゲホッ…」


ぷつりと切れる寸前だろうか、急に手を離され空気が一気に喉から入り込んでくる。


「なんっで…どうして…ゴホッ…!」


手を離したのであろうイカルドを見上げると顔を手で覆ってボロボロと泣いている。


「ぅ…っ…だって、殺せませんよ…最愛の人をっ…どうして、私が殺せるんです…!か、簡単に良いよなんて…ぅぐ、言わないでっぐだざいぃ…!」


イカルドは僕の体を抱きしめると耳元で大きな声で泣いている。

どうすればいいのかわからない僕はイカルドの背中に手を回してあやすように背中を擦る。


「イカルド、泣き止んで?僕はイカルドが笑顔のほうが好きだよ…?」


ほっぺをすりすりとイカルドの首元に擦りつけると、イカルドはビシッと固まる。


「ぅう、忌々しい魔王のはずなのに…どうして…そんなに可愛いんですか…!」

「か、かわっ…!?」


ボンッと僕の顔が赤くなる。

ムスッと怒ったような顔をしたイカルドは僕の後頭部を支えるように持つと勢い良く僕の口に噛み付いた。


「ぁ、んぅ…んっ…んちゅ…んぅう…!」


唇が食べられるんじゃないかというぐらい吸われて舐められ噛みつかれる。

思わず少し開いた口にイカルドの舌が入り込んでくる。


「んぁ…や、らめ…あぅん…んぅ…!」


くちゅ、くちゅ…と僕達のキスの音が響き、僕の口の端から飲み込みきれなかった唾液がポタポタと垂れていく。


「魔王様、いや、ネム様…。」


真剣な顔で見つめられる。


「なぁ…にっ…?」


息が切れ、ぐったりと真っ赤な顔で涙目になりながらも僕はイカルドをぼんやりと見つめ、涎が垂れた口を拭うことなく言葉を紡いだ。


「私にとってネム様は最愛の人です。たとえ、私の主であるサヴァン様が貴方を殺すと判断しても、私はあなたの味方です。サヴァン様が貴方を殺すと判断したとき、私はサヴァン様の敵になります。」


えっ、イカルドは僕の味方でサヴァンの敵になる…?

もし、サヴァンが僕を殺すと判断したら…?

そ、そんなの…


「そんなの駄目!!!」


僕は起き上がり、まだ上手く入らない力を振り絞ってイカルドを押し倒した。


「イカルドとサヴァンは仲良くいなきゃだめ…!サヴァンにはずっとイカルドがいたの…いたから今があるの…!そのイカルドが僕を選んだりなんかしちゃ駄目!!」


そうだよ、だめだよ。

サヴァンと出会ったときには気づかなかったが、今なら分かる。

こんな重大な話をなんで忘れていたんだろうか。

僕は思い出したのだ。

サヴァンがサーヴェローを亡くしたとき、魔王である僕の前に姿を現していたことを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

処理中です...