目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ

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第三章

6 重心が云々

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 ヒイロが確認した通り高危険度の魔物は出現しなかったようで、この日二度目の呼び出しは来なかった。

 アラクネを倒した一撃、威力は十分だったものの、溜めるのに時間がかかりすぎだ。
 練習してみようと家の裏手の運動場へ出る。ヒイロもついてきた。

 そしておやっさんに作ってもらった弓の魔道具に魔力を流すと、バキンと音を立てて縦に割れた。

「……ええっ!?」
「あれだけ負荷をかけたんだからね。今までよく保ってたよ」
「そんな……参ったな……」
 おやっさんからこの魔道具を貰った時、だいぶ前に作って使える人がおらず長い間仕舞っていた、というようなことを言っていた。
 同じものを作っている可能性は低い。
 こんなことなら、事前に予備を注文しておけばよかった。
「とりあえず聞いてみるか」
「ヨイチー、どうしたの?」
 家の裏口から、ツキコが顔を出した。
 僕がここにいる間は危ないのでなるべく近づかないように言ってある。
 なのに、何もせず独り言していたから気にしてくれたのだろう。
「丁度いいところに。明日おやっさんの店に行くよ」
 ツキコに壊れた弓の魔道具を見せると、「うわっ」と声を上げて引いた。
「これがこうなるって、何したの?」
「全力出してみたくて……」
 魔力を四分の一ほど注ぎ込んだ矢を放ったと正直に白状した。
「それはさすがのおやっさんも想定外だっただろうね……。うん、おやっさんの宣言通り、ウチが直すよ」
「直せるの!?」
 素人目には、直せるような壊れ方にはとても見えない。
「魔道具だからね。普通の武器だったら炉や道具が必要なんだけど……」
 ツキコは壊れた弓の魔道具を両手で捧げるように持って、目を閉じ、長く息を吐いた。
「へぇ、魔力でいいのか」
 僕の眼には、ツキコの魔力が武器に流れ込むのが見える。
 ツキコの魔力は器用に破片を繋ぎ、埋め合わせ、形を作った。
 しばらくすると、ツキコの手には新品同然の弓の魔道具が乗っていた。
「……ふぅ。どうかな、ちょっと触ってみて」
「後でやるよ。それよりツキコ、魔力殆ど使ったな?」
 ツキコの額には前髪が汗で張り付いていて、顔は青ざめている。身体もフラフラで、かなり無理をしているのが丸わかりだ。
 弓を奪うように受け取り、そのままツキコの手を握った。細くて少しカサついた指が冷え切っている。すぐに僕の魔力を渡した。
「ふぁっ!? すご、一瞬で……」
「びっくりしたのはこっちだよ。無茶して」
 ツキコは時折無鉄砲なことをする。木材を一度に運ぼうとして擦り傷を作るのは日常茶飯事だし、職場でもよく重たい鉱石を一人で運ぼうとして身体のどこかを痛めて帰ってくる。
「えへへ。慣れてないから、加減がわからなくてさ」
「ほら、休もう。ヒスイー! ツキコを部屋に押し込んで!」
「押し込むって、そこまでしなくても! ちょ、ヒスイの圧が怖い! えっ、怖っ! ごめんって! もう無理しないからっ!」
 我が家には無理をした人、疲労困憊した人は自室に最低三日間監禁するという鋼の掟がある。これは誰一人例外はないのだ。

「ヨイチに魔力貰ったから全快してるのにぃー」
 ベッドで上半身だけ起こしたツキコが、しょんぼりとしながらお粥代わりのきのこリゾットを口に運ぶ。
「体力も減ってるでしょ。魔法じゃなくても魔力を使えば消耗する」
「うう……ヨイチが厳しい」
「ヨイチくんは心配してるのよ。おかわりは?」
「ん、もうお腹いっぱい」
「よし。じゃあもう寝て」
「でもまだ、武器の具合見てない……」
「明日おやっさんに、ツキコが暫く休むことを伝えがてら聞いてくる」
「や、それだけはっ!」
 おやっさんはツキコを自分の娘のように可愛がっている。無茶をしたと知れば、雷が落ちることは間違いない。
「はい、もう寝ましょうねツキコ」
「まだ眠くないっ! ヒスイなんでそんな力強いの!? まってヨイチ! 後生だからー!!」
 女の子の部屋に長居するのは良くないので、僕はツキコの悲鳴にスルーをきめて部屋から出た。


「只今戻りました、ご主人さま」
 ローズが仕事から帰ってきた。
「おかえり」
 ツキコを寝かしつけたヒスイも一緒に、ツキコ以外の皆で夕食にした。
「ツキコは?」
「僕の弓を修理するときに無茶をしたから、監禁」
「把握」
 監禁なんていう不穏ワードで通じるようになってしまった食卓は、いいのだろうか。

「そうだ、ローズのポーションすごいよ。僕の魔力四分の一がポーション一本で全快したんだ」
 夕食後のリビングで、ローズにポーションの効果を伝えた。
「ヨイチの四分の一? それは、すごい?」
 首をかしげるローズ。
「すごいよ。……多分」
 改めて言われると、自信がなくなってきた。これまで飲んだことのある魔力回復ポーションといえば、泉を浄化した後でイネアルさんに貰ったものや、魔物の巣のボス部屋前くらいだ。あのときのことを思い出して比較してみた。
 ボス部屋前の時は、魔力は殆ど減っておらず、念の為に飲んだものだから今回は参考にしないとして。
「イネアルさんのポーションの時は、今回の更に半分の魔力も使ってなかった。なのに全快とはいかなかったんだ」
「なるほど、それは確かにすごいのかも」
 ローズは納得してくれた。
「でもどうして、ローズが作ると効果が上がるのかな」
 しかし今度は別の悩みを抱えてしまった。
「困ること? 僕としてはありがたいよ」
「売り物にできない。ポーションは同じ効能だから、同じ値段で売れる。効能が違ったら、値段を変えないといけない」
「僕が買い取ろうか」
「ヨイチは自分で使わずに、パーティの人や困ってる人にあげちゃう。それも困る」
 一度品質の良いものを使ったら、人はそればかり欲すようになる。ローズにしか作れないと知られれば、ローズに注文が殺到する。ローズの作業量や材料には限界があるし、悪い人に目をつけられたら身の危険を考慮する必要が出てくる……というような話をした。
「確かに困るね」
「イネアルさんとよく相談してから決める」
「それが良い。それと、やっぱり僕には売ってくれないかな。自分でしか使わないって約束するから」
 僕の魔力をあれだけ回復してくれるポーションだから、もしものときのために持っておきたい。
「うん」
 ローズは力強く頷いた。

「ところで、ツキコが直した武器ってどれ?」
「これだよ」
 家の中では冒険者用の装備は全部脱ぐのだが、この弓の魔道具だけは別だ。常に腰の専用ケースに入れっぱなしで、寝るときも枕元に置いている。これがないと落ち着かない身体になってしまった。
 いつもの動作で取り出して……。
「あれ?」
 妙に軽く感じる。腰につけている間はいつもの重量があったのに、手にとった途端、今まで以上にしっくりと手に馴染んだ。
「ヨイチ?」
「ちょっと、離れて」
 立ち上がって部屋の隅で、魔道具を起動する。いつもより一回り大きな弓が出現した。
 矢を出さずに取り回してみる。全く問題にならないばかりか、以前より格段に使いやすい。
「ヨイチ、これ……」
 ヒイロが足元に寄ってきて、弓を見上げる。
「うん。ツキコは一体何をしたんだろう」
 直接話を聞きたいが、今は夜で、絶対安静中だ。



「え? おやっさんが作った魔道具をそのまま直しただけだよ」
「でも違う形状にグレードアップしてるんだよ。ほら」
「本当だ、前より大きい?」
 翌朝、ツキコが目覚めたとヒスイに聞き、すぐに部屋に入れてもらった。
 そして問いただして、返ってきたのがこの内容だ。
「うーん。じゃあ、おやっさんに聞いてくるよ」
「あ、その件についてなんだけどっ」
「いってきまーす」
「いってらっしゃいませ、ご主人さま」
「待ってぇぇえー!」
 行動は早いに越したことはない。いつリートグルクに呼ばれるかわからないからね。



「ごめんなさい、僕の責任です」
 おやっさんの鍛冶屋で、僕はツキコが休む理由を話した。
 ツキコが無茶をしたのは、僕が武器を壊したせいであって、ツキコは悪くない。
 最初から謝るつもりだったが、ツキコが何か勘違いしていたのは敢えて放置した。
 こうしておかないと、また無茶やらかすだろうからね。
 家を出る前に聞こえたツキコの悲鳴から、少々やりすぎたかもしれないと反省もしている。
「話はわかったが、お前さんのせいでもない。元が軟弱すぎたんだ。俺も修行が足りねぇなぁ」
 おやっさんはツキコが直した弓の魔道具を手に、色んな角度から眺めたり、道具で触れたり叩いたりしている。
「……むぅ。ツキコが魔力を制御しきれなかったかと思ったが、そうでもなさそうだ」
 おやっさんは魔道具を手にしたまま、僕を見つめる。
「ちゃあんと直ってる。それは解るな?」
「はい」
 ここへ来る前に運動場で試射してきた。
 引きは軽いのに、精度と威力は上がっているという謎現象が起きた。
 十分の一ほど魔力を注ぎ込んだ矢を射ても、弓にダメージが入った様子はない。ヒイロにも確認済みだ。
「俺が魔力を流すと、こうだ」
 弓は、ツキコに修理される以前の姿より少しだけ大きな形で出現した。
「あれっ? 直したんですか?」
 元に戻したにしては、中途半端だ。
「いじっちゃいねぇよ。ほれ」
 魔道具を手渡され、自分でも魔力を流す。……修理後の姿で出現した。
「一体どういう……」
「ツキコが調子を取り戻したら、別の武器を作らせてみる。それでもういっぺん検証だ」
「はい。あ、えっと、それとお願いが」
「スペアだろう? 俺が作ったもんだが、念の為持っとけ」
 新しい魔道具を、無造作に投げ渡された。
「お代は」
「それは貸すだけのモンだ。本当のスペアはツキコに作らせよう。どっちにしろ、こないだのキツネで十分だ」
「ありがとうございます」

 お礼を言ったところで、リートグルクから呼び出しが入った。
「すみません、また改めて」
「おう、気ぃつけろよ」



 本当に魔物が多い。
 待機状態になってひと月ほど経つ。
 呼び出される頻度は一向に減らないどころか、一度呼び出されたら一回のクエストで終わることすら稀になってきた。
 リートグルクには他のランクSが二人いるものの、一日に複数回クエストをこなせる体力があるのは僕のみだ。
 待機手当とは何だったのかというくらい、クエスト報酬で稼げているのはいいとして。

 三ヶ月で済むのかな、という疑念は常に僕の心を重くしている。
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