江戸時代にタイムスリップしたのでヤりたい放題ヤッてみます。

今宵叫ぶ

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第一章 始まりの板橋宿

第三話 両替商・岸田屋

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 俺は眩しい夜明けの光とともに目覚めた。昨夜は気づかないうちに寝落ちしてしまったようだ。慌てて身の回りのものを見回すが、前日と変わったところは何一つない。

 今日は、近くにある宿場町・板橋宿に向かって両替商の店に行くことにしていた。軽く着物を整えると金塊を3つほど懐に忍ばせて廃寺を出た。

 板橋宿とは、江戸時代に成立した中山道なかせんどう(江戸と京都を結ぶ街道)の第一の宿場町だ。現代の東京都板橋区内に位置する。

 板橋宿は江戸からの距離が短いこともありかなりの繁栄をしていたようだ。俺が真っ先に江戸に向かわなかった理由がそれだ。

 俺は今大量の金塊を手にしている。しかしこれをそのまま店などで使おうとすると怪しまれてしまう。そこで両替商で通貨に替えてもらおうと考えたのだ。だがあまりにも人が多すぎると目立つかもしれない。逆に少なすぎると両替商があるかも分からない。

 そんなことを考えながら歩いていると、遠くに建物がたくさん見えてきた。街道沿いにズラーッと並んだ建物街は圧巻の景色である。

 宿に近づくにつれてすれ違う人の数がだんだんと増えて行く。見た感じ、理想通りの繁栄具合で胸をなでおろした。

 宿に入りすぐ。俺は茶屋の前を掃除している中年女性に声をかけた。

「そこの方。少しいいかな?」

 浪人の喋り口はこんなふうで良いのだろうか。落ち着いて聞こうとしても胸の底が揺れて仕方がない。

「はい。なんでござぁしょう。」

 女性の応じが違和感のないものだったので俺は度合いの過ぎた緊張を解くことができた。

「この宿に両替商はあるかい?」

「えぇ。岸田屋さんっていう店と山木屋さんがありますよ。」

「お姉さんのおすすめはどっちですか?」

「あらやだ。おべっかがお上手ね。そうね~私だったら山木屋さんがよろしいかと思いますよ。」

 そうね~と言って入るものの全く考える様子もなく続けた様子から、山木屋がよっぽどいい店なのだろうか。もしくは岸田屋が酷いのだろうか。

「なんで山木屋なんだい?」

「それはね。あんまり大きな声じゃ言えないんだけどさ、結構偉いお役人さんとつるんでるって噂なのよ。」

「暗い意味でかい?」

 俺がそう聞くと、女は静かに頷いた。かなり有名な噂なのかもしれない。

「よくわかったよ。ありがとうございます。」

「いいえぇ。お気をつけて旅してください。」

 いい人に出会ったと思いながら俺は岸田屋へと足へを進めた。



 岸田屋の主、岸田屋庄五郎は帳簿をつけるためにそろばんを弾いていた。この帳簿に記される金の流れは表には一切でない。庄五郎と勘定奉行・土田淡路守広益との闇の流通の記録であった。

 土田淡路守は庄五郎から献上された金で豪遊し、庄五郎は見返りに大名への金貸しを優先して斡旋してもらうのだ。

 それによって岸田屋はかなりの利益を出していた。逆を言えば土田淡路守とのつながりは岸田屋だけでなく全国各地の岸田屋から金を借りている藩の運命をも左右するのである。

 そんなこととは露知らず、和人は岸田屋の暖簾をくぐった。

「番頭さん。少しいいかな。」

「なんでしょう。」

 俺が手招きするのに答えて番頭が近寄ってきたので、俺は懐の金塊をチラッっと見せてから言う。

「主と話をさせてくれるかな?」

「しょ、少々お待ちください!!」

 慌てた番頭が主がいる店の奥へと走ってゆく。名前も聞かれていないがしっかりと取り次いでくれるだろうか……


 なんていう心配は微塵も必要なかった。あくどい奴ほどこういった事には敏感で、主はすぐに表に現れた。

「いらっしゃいませ。どうぞ奥の部屋までお上がりください。」

 主は満面のビジネススマイルを俺に捧げてくる。これは引き込まれ過ぎないように注意しなくてはならない。

 6条程の部屋に対面して座る。和やかなのか冷たいのかよく分からない笑顔が少し背中をくすぐってくる。

「申し遅れました。私この店の主、岸田屋庄五郎と申します。以後お見知りおきを。」

「拙者は宇都宮和人と申すもの。以後よろしく頼みます。」

 人と対面するとき、特別の敬意を払わなくてもいい場合は15度の角度で礼をする。小さいときに使用人からしつけられたのが今更こんな風に役に立つとは全く思っていなかった。

「それで宇都宮様。本日はどのようなご用件で。」

「これを見てほしい。」

 俺は懐から3つの金塊をゆっくりと取り出して目の前に並べた。岸田屋の目の色が急変し、少し怪しくなった。

「金塊ですか。3つあって全て最上級以上の練度。」

「コイツラを買い取ってほしいのだ。ちなみに、これと同じものはまだまだ残っている。」

「このような金塊をうちでですか?」

「嫌か?それなら別の店に持っていくまでだが。」

「いえ。そういう訳ではございません。」

 どうしてもこの金塊が欲しいのだろう。言葉にこもる熱量が少しずつ上がってゆく。

「1つ500両で如何でしょうか。」

「よし。一つ500両で売ろう。」

「では。すぐにご用意いたします。」

「どこから手に入れたものか聞かぬのだな。」

「どこからであろうと、儲ければよいのです。」

 やはりどの時代も商売人ほど恐ろしいものは無いのだろうか。

 そう思いながら俺は金が到着するのを待っていた。
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