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第一章 始まりの板橋宿
第四話 安心できる寝床
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岸田屋から少し離れたところに庄五郎が持つ空き家があるそうだ。今日からしばらくの間その家を貸してもらうことになっている。
それから、岸田屋の従業員を一人引き取った。名前は七之助と言って同い年の働き者だ。これからは俺の従者として付き添ってもらう。
「ここが殿のお屋敷になります。」
「えっ!?これが!?」
七之助に紹介をされた建物は表通りから少し離れた場所に建っているが、かなりの広さを有していた。このように実物を見てみるとやはり岸田屋の噂は本当なのかもしれない。
家の戸をくぐると、この家の使用人たちだろうか。男女合わせて3人が出迎えてくれた
「殿。私が紹介させていただきます。左からきぬ、末吉、四郎でございます。」
七之助の紹介の声に合わせて三人がそれぞれ会釈をしてくる。下男の二人は中年辺りだろうか。一人女性のきぬは二人に比べて一回り若い。少し妖艶な仕草を織り交ぜながらこちらに視線を投げてきた。
俺は4人に周りを囲まれながら建物の中へと入っていく。気分は偉い人間になったようでとても良いものだった。まあヤンキーのダチに囲まれてたから慣れてはいるが。
俺たち5人は縦に広い部屋へと向かった。ここは大広間に当たるのだろうか。
「こちらが大広間になります。殿はここで様々なお仕事をしていただきます。それから、その隣のお部屋が殿のご自室になられます。お暇な時間やお寝になられる場合にお使いください。」
「しょ、承知した。」
七之助は武家に入ることが長年の夢だったようで、俺の従者にならないかという誘いに二つ返事で返してきた。そのためか先程から心配になるくらいに張り切っている。
働き者なのはいいことなのだが、こうも細かく面倒を見られるとこちらも疲れてしまう。そう心の中で苦笑しながら七之助の説明を聞いて回った。
結局あのあと30分ほどかけて屋敷中の一通りの設備その他の説明を受けた。体中に疲労が回りきった頃、ようやく一人で足を伸ばすことができた。
こうして考えてみると怒涛の二日間だった。昨日は強盗犯とぶつかって江戸時代にタイムスリップして、強盗を殺し、金塊や宝石を奪って廃寺で一夜を越した。
今日はあくどい両替商と取引をして、初めての従者を手に入れた。そしてようやく安心できる寝床が手に入った。
ここまで来るのにかなりの時間がかかった気がする。実際は2日も経っていないのだが気苦労が留めなく溢れ出てくる。
2つの千両箱に入った1500両は全て俺の物だ。廃寺に置いてある金塊も全て通貨に変えるとこれまた想像のつかない金額に到着する。
そんな金額俺の小さな頭の中で見たこともない。これからどんな時間が流れていくのか。まだ少し金色の髪が見える処理装置では5分先のことでさえ予想できなかった。
それから大分の間俺の中に久方ぶりの暖気が吹きしきっていた。安心できる寝床がこれほど貴重で有難いものだと初めて知った。何故人間がふつう、親子共に成長するのか初めて理解した。安心というものを得るための方法を教える為なのだ。「人」というものを教えるためだと。
「殿。失礼いたします。」
日が橙色の幕を広げながら沈み、月が静かに現れ始める頃だった。七之助が部屋の戸を叩いた。
「殿。夕餉でございます。広間にて召し上がられますか?それともこちらにお運びしましょうか?」
「では、家のもの全て広間に集めてくれ。それから、彼らの分の膳も用意せよ。」
「しかし…」
「よい。支度が済んだら再び参れ。」
俺は江戸時代にそれほど詳しくない。もしかしたら変な行動をしだすかも知れない。万一のときのために保険をかけておくことにした。
もともと多めに用意していたのか俺が思っていたよりも随分早く七之助は戻ってきた。広間へと向い一番上座に座る。その隣にきぬがやって来た。
左側に七之助が座り正対して下男の二人が座った。しっかり皆の分の膳が用意されている。
「それでは、軽く挨拶をしたいと思う。俺は宇都宮和人。岸田屋の主殿のご厚意に甘えてこの屋敷をしばらく借りる事となった。よろしく頼む。」
頭を下げてそう言う姿は誠実さを表現したつもりだったが周りのみんなが急に慌てだした。
「そんなことで頭を下げないでくだだい。殿はこの屋敷の主です。」
七之助があんまりに慌てるので俺も加減を考えてしなければと胸に刻む。
「旦那様。それよりお酒をどうぞ。」
隣のきぬが徳利を持って言う。俺は未成年だが、大分酒には強いほうだ。ヤンキー同士の飲み勝負では負けたことがない。
「うむ。そうだ。七之助たちも飲んでくれ。今夜は無礼講だ。」
三人は最初無礼講に戸惑っていたが俺が率先して飲んでいくうちに彼らも緊張の帯を解いていった。
そして、深夜遅くまで酒宴を繰り広げた俺達は大広間をグチャグチャにして雑魚寝していた……
それから、岸田屋の従業員を一人引き取った。名前は七之助と言って同い年の働き者だ。これからは俺の従者として付き添ってもらう。
「ここが殿のお屋敷になります。」
「えっ!?これが!?」
七之助に紹介をされた建物は表通りから少し離れた場所に建っているが、かなりの広さを有していた。このように実物を見てみるとやはり岸田屋の噂は本当なのかもしれない。
家の戸をくぐると、この家の使用人たちだろうか。男女合わせて3人が出迎えてくれた
「殿。私が紹介させていただきます。左からきぬ、末吉、四郎でございます。」
七之助の紹介の声に合わせて三人がそれぞれ会釈をしてくる。下男の二人は中年辺りだろうか。一人女性のきぬは二人に比べて一回り若い。少し妖艶な仕草を織り交ぜながらこちらに視線を投げてきた。
俺は4人に周りを囲まれながら建物の中へと入っていく。気分は偉い人間になったようでとても良いものだった。まあヤンキーのダチに囲まれてたから慣れてはいるが。
俺たち5人は縦に広い部屋へと向かった。ここは大広間に当たるのだろうか。
「こちらが大広間になります。殿はここで様々なお仕事をしていただきます。それから、その隣のお部屋が殿のご自室になられます。お暇な時間やお寝になられる場合にお使いください。」
「しょ、承知した。」
七之助は武家に入ることが長年の夢だったようで、俺の従者にならないかという誘いに二つ返事で返してきた。そのためか先程から心配になるくらいに張り切っている。
働き者なのはいいことなのだが、こうも細かく面倒を見られるとこちらも疲れてしまう。そう心の中で苦笑しながら七之助の説明を聞いて回った。
結局あのあと30分ほどかけて屋敷中の一通りの設備その他の説明を受けた。体中に疲労が回りきった頃、ようやく一人で足を伸ばすことができた。
こうして考えてみると怒涛の二日間だった。昨日は強盗犯とぶつかって江戸時代にタイムスリップして、強盗を殺し、金塊や宝石を奪って廃寺で一夜を越した。
今日はあくどい両替商と取引をして、初めての従者を手に入れた。そしてようやく安心できる寝床が手に入った。
ここまで来るのにかなりの時間がかかった気がする。実際は2日も経っていないのだが気苦労が留めなく溢れ出てくる。
2つの千両箱に入った1500両は全て俺の物だ。廃寺に置いてある金塊も全て通貨に変えるとこれまた想像のつかない金額に到着する。
そんな金額俺の小さな頭の中で見たこともない。これからどんな時間が流れていくのか。まだ少し金色の髪が見える処理装置では5分先のことでさえ予想できなかった。
それから大分の間俺の中に久方ぶりの暖気が吹きしきっていた。安心できる寝床がこれほど貴重で有難いものだと初めて知った。何故人間がふつう、親子共に成長するのか初めて理解した。安心というものを得るための方法を教える為なのだ。「人」というものを教えるためだと。
「殿。失礼いたします。」
日が橙色の幕を広げながら沈み、月が静かに現れ始める頃だった。七之助が部屋の戸を叩いた。
「殿。夕餉でございます。広間にて召し上がられますか?それともこちらにお運びしましょうか?」
「では、家のもの全て広間に集めてくれ。それから、彼らの分の膳も用意せよ。」
「しかし…」
「よい。支度が済んだら再び参れ。」
俺は江戸時代にそれほど詳しくない。もしかしたら変な行動をしだすかも知れない。万一のときのために保険をかけておくことにした。
もともと多めに用意していたのか俺が思っていたよりも随分早く七之助は戻ってきた。広間へと向い一番上座に座る。その隣にきぬがやって来た。
左側に七之助が座り正対して下男の二人が座った。しっかり皆の分の膳が用意されている。
「それでは、軽く挨拶をしたいと思う。俺は宇都宮和人。岸田屋の主殿のご厚意に甘えてこの屋敷をしばらく借りる事となった。よろしく頼む。」
頭を下げてそう言う姿は誠実さを表現したつもりだったが周りのみんなが急に慌てだした。
「そんなことで頭を下げないでくだだい。殿はこの屋敷の主です。」
七之助があんまりに慌てるので俺も加減を考えてしなければと胸に刻む。
「旦那様。それよりお酒をどうぞ。」
隣のきぬが徳利を持って言う。俺は未成年だが、大分酒には強いほうだ。ヤンキー同士の飲み勝負では負けたことがない。
「うむ。そうだ。七之助たちも飲んでくれ。今夜は無礼講だ。」
三人は最初無礼講に戸惑っていたが俺が率先して飲んでいくうちに彼らも緊張の帯を解いていった。
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