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第一章 始まりの板橋宿
第八話 お話
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俺、宇都宮和人が江戸時代にタイムスリップしてから早くも4週間が経とうとしていた。
俺自身この時代の生活に、殿、旦那様と呼ばれる日々にも少しずつだが慣れてきた気がする。
今日までに岸田屋との間で金塊8個のやり取りをしている。流石に大金を一度に扱うわけには行かないのだろう。これからは一週間に一つの取引にしようと取り決めをしてある。
そして今日がその日である。俺は岸田屋の主の部屋に七之助を従えてやってきていた。
「本日も、良いお取引をありがとうございました。」
「こちらこそ。ありがとうございました。」
俺と岸田屋が互いに頭を下げる。七之助は外で待機させてある。いつもだったらここで解散になるのだが、今日は別に話があるらしい。
「今日は宇都宮様にご紹介させて頂きたいお方が来ておられます。お会いになって頂けますか?」
「はい。分かりました。」
では呼んでくる。と岸田屋はどこかへ行ってしまった。はてさて会わせたい相手とはどんな人物なのだろうか。まさか、役人を連れてきて捕らえさせる気では………なんて思いもしたが、そんなことをして岸田屋になんの利益が出るというのだ。
「失礼します。」
「御免。」
岸田屋が連れてきた男は、俺の隣に座った。
「和人様。こちらは宇都宮秀和様でございます。御公儀の書庫番頭を務められておられます。」
「宇都宮秀和と申す。以後よろしく。」
「秀和様。こちら宇都宮和人様です。」
「宇都宮和人で御座います。」
まさか宇都宮家の者が現れるとは全く想像していなかった。何時だったか無理やり覚えさせられた家系図に書庫番、秀和の字列を見たような気がする。
秀和は50代後半だろうか。白髪頭をキレイに整えてある姿から威厳を感じられる。
「宇都宮殿、今日は…」
「和人殿。お互い宇都宮でござる。互いが互いを名字で呼んではややこしいではないか。」
「そうですな。では名前でお呼びしましょう。」
秀和も頷いて賛同してくれた。威厳は感じるが中身はとても優しそうな人だ。
「岸田屋から話は伺っておりますぞ。なかなかのお力だとか。」
俺がきぬを助けた話や七之助をボコボコにした話などは既に岸田屋の耳に入っている。そのことを秀和に伝えたのだろうか。
「そこで和人殿にお願いがござる。」
「なんでしょうか。」
「実は、私と家内の間に子供が出来なかったのです。このままではお家は断絶。親戚も少なく頼りもござらん。」
江戸時代の武家において一番避けなければ行けないのは「御家の断絶」だ。だから子供を何人も作る。そのために多数の側室を設けて行為に及ぶのだ。
しかし、そのように様々な対策をしても子供を授からない場合も無くはない。この時代、子供の死亡率も現代と比べて遥かに高い数値が出ている。
そのような場合、武家の当主は養子を迎えて家を継がせるのだ。このような事はこの時代まあまあ起こっていたことだ。
「そこでだ。和人殿を我が宇都宮家にお迎えして宇都宮家を継がせたい。そう考えておるのだが。いかがだろうか。」
まさかの出来事だった。江戸時代にタイムスリップしてしまったがそれから起こったことすべて「運がいい」としか説明が付かなかった。この流れを掴むしかない。
「分かりました。お引き受け致しましょう。」
「そうですか!!引き受けていただけますか!!それでは一週間後の27日までに屋敷にいらして下さい。道案内は外に控えております仁田大隅介が行います。」
「分かりました。義父上。」
俺が義父上と呼ぶと、秀和は満面の笑みを浮かべた。秀和は明日の仕事の為に今日のうちに江戸へと戻った。
俺は大隅介とかんたんに挨拶を済ませたあと、七之助にその旨を伝えた。すると七之助は自分のことでもないのに泣いて喜んでくれた。
きぬたちにもその旨と今までの感謝を伝えた。板橋の地から離れるのは少し、いやかなり寂しさを感じるが、このチャンスを掴む以外の選択肢は無かった。
俺は3日で支度を整えて思い出の地である板橋宿を旅立った。
俺自身この時代の生活に、殿、旦那様と呼ばれる日々にも少しずつだが慣れてきた気がする。
今日までに岸田屋との間で金塊8個のやり取りをしている。流石に大金を一度に扱うわけには行かないのだろう。これからは一週間に一つの取引にしようと取り決めをしてある。
そして今日がその日である。俺は岸田屋の主の部屋に七之助を従えてやってきていた。
「本日も、良いお取引をありがとうございました。」
「こちらこそ。ありがとうございました。」
俺と岸田屋が互いに頭を下げる。七之助は外で待機させてある。いつもだったらここで解散になるのだが、今日は別に話があるらしい。
「今日は宇都宮様にご紹介させて頂きたいお方が来ておられます。お会いになって頂けますか?」
「はい。分かりました。」
では呼んでくる。と岸田屋はどこかへ行ってしまった。はてさて会わせたい相手とはどんな人物なのだろうか。まさか、役人を連れてきて捕らえさせる気では………なんて思いもしたが、そんなことをして岸田屋になんの利益が出るというのだ。
「失礼します。」
「御免。」
岸田屋が連れてきた男は、俺の隣に座った。
「和人様。こちらは宇都宮秀和様でございます。御公儀の書庫番頭を務められておられます。」
「宇都宮秀和と申す。以後よろしく。」
「秀和様。こちら宇都宮和人様です。」
「宇都宮和人で御座います。」
まさか宇都宮家の者が現れるとは全く想像していなかった。何時だったか無理やり覚えさせられた家系図に書庫番、秀和の字列を見たような気がする。
秀和は50代後半だろうか。白髪頭をキレイに整えてある姿から威厳を感じられる。
「宇都宮殿、今日は…」
「和人殿。お互い宇都宮でござる。互いが互いを名字で呼んではややこしいではないか。」
「そうですな。では名前でお呼びしましょう。」
秀和も頷いて賛同してくれた。威厳は感じるが中身はとても優しそうな人だ。
「岸田屋から話は伺っておりますぞ。なかなかのお力だとか。」
俺がきぬを助けた話や七之助をボコボコにした話などは既に岸田屋の耳に入っている。そのことを秀和に伝えたのだろうか。
「そこで和人殿にお願いがござる。」
「なんでしょうか。」
「実は、私と家内の間に子供が出来なかったのです。このままではお家は断絶。親戚も少なく頼りもござらん。」
江戸時代の武家において一番避けなければ行けないのは「御家の断絶」だ。だから子供を何人も作る。そのために多数の側室を設けて行為に及ぶのだ。
しかし、そのように様々な対策をしても子供を授からない場合も無くはない。この時代、子供の死亡率も現代と比べて遥かに高い数値が出ている。
そのような場合、武家の当主は養子を迎えて家を継がせるのだ。このような事はこの時代まあまあ起こっていたことだ。
「そこでだ。和人殿を我が宇都宮家にお迎えして宇都宮家を継がせたい。そう考えておるのだが。いかがだろうか。」
まさかの出来事だった。江戸時代にタイムスリップしてしまったがそれから起こったことすべて「運がいい」としか説明が付かなかった。この流れを掴むしかない。
「分かりました。お引き受け致しましょう。」
「そうですか!!引き受けていただけますか!!それでは一週間後の27日までに屋敷にいらして下さい。道案内は外に控えております仁田大隅介が行います。」
「分かりました。義父上。」
俺が義父上と呼ぶと、秀和は満面の笑みを浮かべた。秀和は明日の仕事の為に今日のうちに江戸へと戻った。
俺は大隅介とかんたんに挨拶を済ませたあと、七之助にその旨を伝えた。すると七之助は自分のことでもないのに泣いて喜んでくれた。
きぬたちにもその旨と今までの感謝を伝えた。板橋の地から離れるのは少し、いやかなり寂しさを感じるが、このチャンスを掴む以外の選択肢は無かった。
俺は3日で支度を整えて思い出の地である板橋宿を旅立った。
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