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第二十九話 再び洞窟へ 1/3
しおりを挟む『あなた、名前は? どうしてこんなところに一人でいるの?』
何を問いかけても首を傾けたままジッとセシリヤを見つめているだけだった。アメジスト色の瞳がセシリヤを映していたが、彼が何を考えていたのかは全く分からなかった。
記憶を思い起こしていたセシリヤの耳にティルラの声が届いた。
「そうは言うけど、貴方とセシリヤのやり取りも聞いていて楽しかったわよ?」
疑問符を浮かべているミラにティルラが小さく笑う。彼は気付いていないのだろうか。
「恋仲かどうかは置いておいて、二人の会話は楽しそうに聞こえたわ」
羨ましいくらい、と付け加えた女神にミラとセシリヤは目を丸くして顔を見合わせる。先に口を開いたのはセシリヤ。
「だってさ、ミラ」
ニッ、と笑うセシリヤにミラはくすぐったそうに唇を引くと一度俯いた。次に顔を上げたミラは頬を緩める。その表情は嬉しそうだ。
「つまり、僕はセシリヤさんともっと仲を深めるために積極的になってもいいんですね」
「……」
違う方向に向かいそうなミラに二人は同時に思った。違う、そうじゃないと。
♦♦♦
怪鳥討伐の確認を終えて洞窟から出ようと提案したセシリヤにミラがストップを掛けた。
「支部に戻る前に、もう一か所寄り道してもいいですか?」
「なんでよ! 最初に言ったでしょ、用事があるって」
行かないわよ、と言うセシリヤにミラがにこり、と笑みを浮かべた。
「でも、転移魔法を使うのは僕ですし。行先は僕次第ってことで」
いけしゃあしゃあと言う相手にセシリヤは溜息を吐く。だったら聞かずに最初から有無を言わさず転移魔法で寄り道する場所へ移動すればいいだけの話だ。わざわざ聞いてくるのは彼の性格故か、ただセシリヤの反応を楽しんでいるだけか。飛行魔法で帰るのと寄り道をして転移魔法で帰るのも掛かる時間はあまり変わらなそうだ、と判断したセシリヤは諦めたように息を吐いた。
「聞くけど、行き先は?」
変な場所だったら容赦なく彼に回し蹴りの一つでもお見舞いしようと心に決めて続きを待った。
「フラバの森の奥にある洞窟です」
「あ……」
「……ああ」
行き先を告げた瞬間、セシリヤとティルラが同時に声を上げた。二人の反応にミラがアメジスト色の瞳を何度もしばたたかせて首を傾ける。
「何しに行くのか聞いても?」
「え、あ、はい。実は支部にクエスト依頼が届いていたんです」
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