翠眼の魔道士

桜乃華

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第三十五話 回想ー神と魔王の争い 1/4

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 「ああー。もう、しんみりするのやめてよ。アンディーンを汚染した魔族の正体が分かって良かったじゃない。ミラ、目的は分からないの?」

 「え、ああ。目的、ですか……」

 読んだ記憶を辿っているのだろう。ミラは考えるような仕草をしている。

 「この土地を汚染して人間たちを殺そうとかそういう意図はなさそうでした」

 「そうですね。湖を汚染しても近くの街へ直接的な被害はありません。植物や生物たちには影響がありましたが……」

 アンディーンが表情を曇らせる。

 「魔族の力の源は何か知ってる?」

 ティルラからの問いにセシリヤが首を左右に振った。ブレーズから渡された書物にも詳しくは記載されていなかった。

 「神族は人の信仰心や正の感情を源にするけれど、魔族はその逆よ。人間の負の感情、憎しみや悲しみ、嫉妬とかそんなものね」

 「……つまり、ここを汚染することで人間たちの不安を煽りエネルギーを得るのが目的だったってこと?」

 首を傾けるセシリヤにティルラとアンディーンも「うーん」と同じく首を傾けた。何故か釈然としない。やるなら他にもやり方があるだろうに。

 「なんか違う気がする……」

 「そうですね、僕もそう思います。僕が魔族なら王宮とかに身を置きますね」

 「なんで?」

 会話に参加したミラにセシリヤが眉を寄せながら首を傾ける。王宮と魔族の関連性が分からない、と言いたげな表情にミラが苦笑を零す。

 「僕も王宮に住んだことはないのでわかりませんが、本部は王宮の近くにあります。自ずと人々からの噂話は舞い込んでくるんですが、あまりいい話は聞きませんね。魔族ならいいエネルギーになりそうです」

 「でも、城の中に魔族が紛れ込んでいたらなんか怖くない?」

 「たしかに……」

 イヤよ、と言うセシリヤにミラも「僕も嫌ですね」とニコリ、と笑った。

 「ミラ、読み取った記憶から他に手掛かりは見つかった?」

 話を戻すと「そうでした」とミラは続けた。

 「フラビィが手にしていた小瓶の中身は恐らく魔王の血だと思います」

 「なんでそんなことが分かるのよ」

 間髪入れずに突っ込むセシリヤにミラは困ったように眉を下げた。「まあいいわ、続けて」と言われたミラは「これは僕の憶測ですが」と前置きをして話す。

 魔王の血液の色は紫色であり、それは魔族以外には毒でしかない。地上に出れば気化した血液は瘴気となり吸い込んだものを死へと至らしめると言われている。
 フラビィの持っていた小瓶の中に入っていた液体の色は紫。蓋を開ければ中から漏れだした霧状のものは瘴気と仮定し、さらに彼女が魔王の幹部であることを考慮すれば魔王の血である可能性は高い。

 「それは分かったけど、魔王の血を流し込んでここを汚染する意味は分からないわ」

 「……もしかしたらだけど」

 ティルラが口を挟む。三人が彼女の次の言葉を待った。

 「その魔族の目的は人間の負の感情ではなくて、魔王復活のための足場を作るためじゃないかしら」

 「足場?」

 疑問符を浮かべたセシリヤにティルラが頷く。

 「魔王は主上である神によって生み出されて地下深くへと落とされたんだけど、魔王は地下でなければ生きていけない体なの」

 そう言ってティルラは話しはじめた。
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