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第五十一話 ミラの好物
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支部から少し離れたところにある酒場、その敷地面積は三十坪ほど。扉を開ければ既に客で賑わっていた。木製の床、長方形のテーブル、円形のテーブルの他にカウンターテーブルが設置してある。天井からはいくつかのランタンが下げられており、各テーブルにも小さなランタンが置かれていた。カウンターテーブルの後ろには酒樽が数樽並んでおり、店員が客と会話をしながら酒を注いでいる。店内では数名の女性店員が両手に料理を持ち、忙しなく動いていた。店の制服なのだろう、ディアンドルと呼ばれる胸元が大きく開いた白いブラウス、翡翠色のボディス、黒色のミモレ丈のスカートに若葉色のエプロンを身に纏っている女性店員がセシリヤたちに気付いて近づいてきた。
「いらっしゃいませ~。お二人様でしょうか?」
相手の問いに頷けば、空いているテーブルに案内される。ミラと向かい合わせに座ると、案内した店員がメニュー表を渡した。「ご注文が決まりましたらお呼びください」と言って女性店員は他の客の元へ向かった。受け取ったセシリヤはミラと共有するために真ん中にそれを置く。
「セシリヤさんは何を選ぶんですか?」
文字を目で追っていたセシリヤがミラの問いに一度顔を上げた。「んー」と言いながらもう一度メニュー表へと視線を落とす。
「ミラは決めたの?」
「はい。僕は決まってます」
「一応聞くけど、何?」
セシリヤからの問いにミラは瞳を輝かせながら答えた。
「洋梨のタルトです!」
「……」
無言になったセシリヤにミラが「あれ?」と疑問符を浮かべながらもう一度同じことを口にした。
「洋梨のタルトです」
「あのね、それはご飯じゃないでしょ。タルトってデザートなんだって何度言えば……」
「それでも、僕にとってはこれが一番の好物ですから」
ため息混じりに言うセシリヤにミラが被せた。そう言われてしまえばセシリヤは何も言えなくなる。
初めて出会った時に食事を摂っていなかったミラを連れて酒場を訪れた際、何が食べたいのか聞いてもぼんやりとしていて答えなかった相手にセシリヤが頼んだ料理の一つが洋梨のタルトだった。他の料理には興味を示さなかったミラにセシリヤが『これ、私が好きなタルトなの』と微笑みながら言うと、初めてミラがほんの少しだけ興味を向けた。フォークの使い方も分からなかった彼にセシリヤが自分のフォークで一切れ掬うとミラへと向けた。目をしばたたかせたミラは控えめに口を開ける。一口、口の中へ入れてタルト生地特有のクッキー生地のサクサク感とタルト生地のしっとり感。洋梨を砂糖で煮たコンポートの甘さと、洋梨の食感に目を丸くしていた。ぼんやりとしていた彼の瞳に光が宿ったように仄かに輝き、セシリヤを真似るようにフォークを握ったミラは夢中で洋梨のタルトを食べていた。
「まあ、ミラが食べたいならいいんだけどさ」
思い出したのかセシリヤは再びメニュー表へと視線を戻した。ようやく決めたセシリヤは店員に鶏の香辛料焼き、チックピーのスープ、バタール、洋梨のタルトを注文した。
「いらっしゃいませ~。お二人様でしょうか?」
相手の問いに頷けば、空いているテーブルに案内される。ミラと向かい合わせに座ると、案内した店員がメニュー表を渡した。「ご注文が決まりましたらお呼びください」と言って女性店員は他の客の元へ向かった。受け取ったセシリヤはミラと共有するために真ん中にそれを置く。
「セシリヤさんは何を選ぶんですか?」
文字を目で追っていたセシリヤがミラの問いに一度顔を上げた。「んー」と言いながらもう一度メニュー表へと視線を落とす。
「ミラは決めたの?」
「はい。僕は決まってます」
「一応聞くけど、何?」
セシリヤからの問いにミラは瞳を輝かせながら答えた。
「洋梨のタルトです!」
「……」
無言になったセシリヤにミラが「あれ?」と疑問符を浮かべながらもう一度同じことを口にした。
「洋梨のタルトです」
「あのね、それはご飯じゃないでしょ。タルトってデザートなんだって何度言えば……」
「それでも、僕にとってはこれが一番の好物ですから」
ため息混じりに言うセシリヤにミラが被せた。そう言われてしまえばセシリヤは何も言えなくなる。
初めて出会った時に食事を摂っていなかったミラを連れて酒場を訪れた際、何が食べたいのか聞いてもぼんやりとしていて答えなかった相手にセシリヤが頼んだ料理の一つが洋梨のタルトだった。他の料理には興味を示さなかったミラにセシリヤが『これ、私が好きなタルトなの』と微笑みながら言うと、初めてミラがほんの少しだけ興味を向けた。フォークの使い方も分からなかった彼にセシリヤが自分のフォークで一切れ掬うとミラへと向けた。目をしばたたかせたミラは控えめに口を開ける。一口、口の中へ入れてタルト生地特有のクッキー生地のサクサク感とタルト生地のしっとり感。洋梨を砂糖で煮たコンポートの甘さと、洋梨の食感に目を丸くしていた。ぼんやりとしていた彼の瞳に光が宿ったように仄かに輝き、セシリヤを真似るようにフォークを握ったミラは夢中で洋梨のタルトを食べていた。
「まあ、ミラが食べたいならいいんだけどさ」
思い出したのかセシリヤは再びメニュー表へと視線を戻した。ようやく決めたセシリヤは店員に鶏の香辛料焼き、チックピーのスープ、バタール、洋梨のタルトを注文した。
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