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第五十三話 今後の予定と現状 2/2
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ミラの口から告げられた現状にセシリヤは目を大きく見開いた。
「な、」
「何ですって⁉」
セシリヤの声に被さるようにティルラが大声を上げた。反射的にセシリヤは周囲を確認する。幸い、彼女の声は他の人には聞こえていなかったようで、誰もこちらには注目していない。そっと息を吐いたセシリヤはポケットから魔石を取り出すとテーブルの上に置いた。
魔石にへばりつきながらミラへ「どういうことよ!」と食いついている。
「僕にも詳細は分からないんですけど、ティルラさんが魔石に封じられてから加護を失った神殿に乗り込んだ魔族たちがそこを拠点としてしまったようです。おかげで神殿周囲は常に薄暗く、負のオーラが充満しているので近づく者はほとんどいません」
ミラが話し終えたタイミングでセシリヤはティルラへと視線を落とした。
「なによ、それ……」
絞り出すような声を出したティルラは魔石から手を離して俯いた。自分が魔石に封じられている間にこのようなことになっているとは思わなかったのだろう。セシリヤはなんと声を掛けていいのか迷っていた。
「だから、その神殿には行かない方がいいと思いますよ。実際、魔族討伐を掲げて乗り込んだ冒険者たちは誰も戻ってきていません」
さらり、と言うミラをセシリヤとティルラが勢いよく見た。
「誰も戻ってないってどういうこと?」
「さあ。それが魔族たちに返り討ちにあったのか、途中で逃げ出したのかは分からないですから。分かることは、魔族討伐を掲げた人たちはクエスト管理協会に所属していて、現在連絡が取れなくなってしまっているという事だけですね」
落ち着いた声音で語ったミラはふぅ、と息を吐くともう一度ティーカップを手に取りミルクティーを飲んだ。セシリヤも落ち着こうとコーヒーを飲む。
「……も、……」
「ティルラ?」
小さな声でぶつぶつと零していたティルラが顔を上げた。
「それでも、私はあの土地に行かないといけないの! 例え魔族の巣窟になっていても」
「行くのは勝手ですけど、ご自分で動けない貴女はどうやってそこに向かうんです?」
「……っ、それは……」
冷静に突きつけられた言葉にティルラが口ごもる。自分で動くことが出来ないティルラは“誰かに”そこまで連れて行ってもらわなければならない。それがどういうことなのか察したティルラは唇を噛んだ。自分の体を元に戻してほしくてセシリヤの旅に同行することを申し出たけれど、危険な目に合わせたいわけではない。彼女の戦闘能力の高さは分かっているが、魔族との戦いは別だ。何度も戦ってきたティルラは魔族の強さを理解している。稀に人間の中にも魔族と渡り合える者がいるが、それでも絶対に無事とは限らないのだ。
「まあ、魔族の巣窟に行きたくはないけどさ」
セシリヤの声にティルラが顔を上げた。ミラもセシリヤの次の言葉を待つ。
「ティルラを連れて旅をしながら元に戻す方法を探せばいいじゃない。その中でどうしてもティエール……だっけ? そこに行かないといけないなら行くだけよ。……嫌だけど」
「最後に本音が漏れてるわよ……」
苦笑したティルラは安堵の息をそっと零した。動けない自分は結局セシリヤに連れて行ってもらわなければ目的地へたどり着くことも、元の姿に戻る方法を探ることもできない。今のところミラとセシリヤとの会話は可能だが、他の人間と会話が出来るかは不明だ。先ほどティルラが大声を出した時に反応した人はいなかった。
「そう、ですか……。僕としては大反対ですけど、セシリヤさんの意思は尊重したいのでこれ以上は何も言いません。でも、セシリヤさんの身になにかあったら僕は例え女神でも許しませんので」
にこり、と微笑んだミラの圧力に押されてティルラは「はい……」と小さく返事をした。
(……ミラは私のオカンか!)
ツッコミを入れそうになるのをグッと堪えてセシリヤはコーヒーを飲んだ。
「な、」
「何ですって⁉」
セシリヤの声に被さるようにティルラが大声を上げた。反射的にセシリヤは周囲を確認する。幸い、彼女の声は他の人には聞こえていなかったようで、誰もこちらには注目していない。そっと息を吐いたセシリヤはポケットから魔石を取り出すとテーブルの上に置いた。
魔石にへばりつきながらミラへ「どういうことよ!」と食いついている。
「僕にも詳細は分からないんですけど、ティルラさんが魔石に封じられてから加護を失った神殿に乗り込んだ魔族たちがそこを拠点としてしまったようです。おかげで神殿周囲は常に薄暗く、負のオーラが充満しているので近づく者はほとんどいません」
ミラが話し終えたタイミングでセシリヤはティルラへと視線を落とした。
「なによ、それ……」
絞り出すような声を出したティルラは魔石から手を離して俯いた。自分が魔石に封じられている間にこのようなことになっているとは思わなかったのだろう。セシリヤはなんと声を掛けていいのか迷っていた。
「だから、その神殿には行かない方がいいと思いますよ。実際、魔族討伐を掲げて乗り込んだ冒険者たちは誰も戻ってきていません」
さらり、と言うミラをセシリヤとティルラが勢いよく見た。
「誰も戻ってないってどういうこと?」
「さあ。それが魔族たちに返り討ちにあったのか、途中で逃げ出したのかは分からないですから。分かることは、魔族討伐を掲げた人たちはクエスト管理協会に所属していて、現在連絡が取れなくなってしまっているという事だけですね」
落ち着いた声音で語ったミラはふぅ、と息を吐くともう一度ティーカップを手に取りミルクティーを飲んだ。セシリヤも落ち着こうとコーヒーを飲む。
「……も、……」
「ティルラ?」
小さな声でぶつぶつと零していたティルラが顔を上げた。
「それでも、私はあの土地に行かないといけないの! 例え魔族の巣窟になっていても」
「行くのは勝手ですけど、ご自分で動けない貴女はどうやってそこに向かうんです?」
「……っ、それは……」
冷静に突きつけられた言葉にティルラが口ごもる。自分で動くことが出来ないティルラは“誰かに”そこまで連れて行ってもらわなければならない。それがどういうことなのか察したティルラは唇を噛んだ。自分の体を元に戻してほしくてセシリヤの旅に同行することを申し出たけれど、危険な目に合わせたいわけではない。彼女の戦闘能力の高さは分かっているが、魔族との戦いは別だ。何度も戦ってきたティルラは魔族の強さを理解している。稀に人間の中にも魔族と渡り合える者がいるが、それでも絶対に無事とは限らないのだ。
「まあ、魔族の巣窟に行きたくはないけどさ」
セシリヤの声にティルラが顔を上げた。ミラもセシリヤの次の言葉を待つ。
「ティルラを連れて旅をしながら元に戻す方法を探せばいいじゃない。その中でどうしてもティエール……だっけ? そこに行かないといけないなら行くだけよ。……嫌だけど」
「最後に本音が漏れてるわよ……」
苦笑したティルラは安堵の息をそっと零した。動けない自分は結局セシリヤに連れて行ってもらわなければ目的地へたどり着くことも、元の姿に戻る方法を探ることもできない。今のところミラとセシリヤとの会話は可能だが、他の人間と会話が出来るかは不明だ。先ほどティルラが大声を出した時に反応した人はいなかった。
「そう、ですか……。僕としては大反対ですけど、セシリヤさんの意思は尊重したいのでこれ以上は何も言いません。でも、セシリヤさんの身になにかあったら僕は例え女神でも許しませんので」
にこり、と微笑んだミラの圧力に押されてティルラは「はい……」と小さく返事をした。
(……ミラは私のオカンか!)
ツッコミを入れそうになるのをグッと堪えてセシリヤはコーヒーを飲んだ。
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