翠眼の魔道士

桜乃華

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第六十四話 ミラの正体 2/3

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 分身と聞いてミラは立てた膝の上に肘を乗せて頬杖をつきながら再び外へと視線を送った。自分が生み出された時のことを思い出しているのか、ルビー色の双眸を細めている。

 「地下深くに幽閉される寸前で僕を創って地上へ放り出したこと言ってるの?」

 声音がさらに低くなる。

 「そのせいで僕がどんな目に遭ったのか知らないわけないだろ」

 そう言われてヴィンスは黙った。分身であるミラを通してヴィンスは様々なものを見ている。けれどそれはただ見ているだけだ。ミラの身に危険が及んでも助けることは出来ない。今のように直接話しかける事くらいしかヴィンスには出来ないのだ。それも、監視の目がない時に限られている。

 ――まあ……、そうだな

 それ以上は何も告げなくなる。沈黙してしまったヴィンスへミラが口を開いた。

 「僕はあんたに創られた分身で魔族だ。僕の役割はあんたを幽閉したやつの動向を探ることだろ。ちゃんとわかってるよ」

 ――ミラビリス……

 遠くを見つめながら言うミラへヴィンスは気を遣うように名前を呼んだ。

 ――でも、お前はそれ以外自由だよな

 「……」

 ミラの眉間に皺が深く刻まれる。

 「一言多いんだよ、あんた。別にいいだろ、ちゃんと役割は果たしてるんだから」

 ――そうだが……

 セシリヤへのアプローチを思い出しながらヴィンスは口ごもった。確かにミラはクエスト管理協会の本部に所属しながらクエスト達成したと報告を受けたところへ赴き大地の記憶を読み、魔族たちに関する噂話を冒険者たちから集めていた。ふと、今日の出来事を思い起こしていたヴァンスは「そう言えば」と零した。返事をせずともミラは続きを待っている。

 ――女神ティルラの浄化の光にあてられていたな……

 「仕方ないだろ、まさか魔石に封じられていた女神が浄化の力を使うなんて普通予測できるか? あんただって予想してなかったくせに」

 ――うっ……。お前がダメージを受けるってことは、やはりあの女神は本物ということだ。だが、気になるのはあの娘だな……

 「なに? セシリヤさんに惚れたとか言ったら僕怒るよ」

 ええ⁉ 今の会話の流れで何故惚れる話になるんだ? とヴィンスはツッコミを入れそうになるのを堪えた。ここで指摘すればミラは不機嫌になるだろう、ただでさえ今も不機嫌なのにこれ以上機嫌を損なえば強制的に意識を遮断されることは目に見えている。
 ヴィンスは咳払いをして「違う」ときっぱり否定した。それを聞いて「ならいいけど」とミラは少しだけ機嫌を直す。自分の分身ながら、扱いやすいが面倒くさいとヴィンスはこっそりと息を吐いた。

 ――私が気にしているのはあの娘の魔力だ。一時的にとは言え、女神に浄化の力を与えられるほどの魔力を有している

 「セシリヤさんだからね。あんたも覚えてるだろ、あの人が一人でドラゴンと渡り合った時のこと」

 ――お前とあの娘が初めて会った時のことか?
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