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第六十五話 ミラの正体 3/3
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「そう。地上に放り出されて右も左も分からない僕に優しく接するフリをして近づいてきた人間から転移魔法で逃げた先がドラゴンの巣で、殺されそうになったところにドラゴン討伐のクエストを受けていたセシリヤさんに助けられた時のこと」
――彼女の事になると本当に生き生きと喋るな……
「……」
こほん、と咳払いをするミラの頬に少しだけ赤みが差していた。
「僕は人間が好きじゃない」
――ああ。知っている
創られたばかりで記憶も、人間という存在もほとんど知らないミラに近づいてきた人間はミラから持ち物を奪い、用済みと口封じのためにナイフで刺そうとした。あの時の鈍く光る鋭利な刃の切先と人間の濁った瞳はミラの記憶に深く根付いている。
「でも、セシリヤさんだけは別。命の恩人ってだけじゃなくて、初めて人間の温かさを教えてくれたから……たぶん、今の僕は人間と接することが出来るんだと思う」
――……、そう、だな……
彼女へのアプローチ方法を変えればもう少し意識してくれるんじゃないかなぁ~、とヴィンスは思ったが口に出さない。たぶん、彼女を前にすると出る彼の面も素なのだろう。
「そういえば、あの女神のことは知ってるの?」
ミラの問いにヴィンスは「ああ」と頷く。一度だけ、神と魔族との争いの時に見たきりだが、彼女の戦いは地下から見ていた。他の女神たちも強かったが、一番の戦闘力を持っていたのは彼女だった。剣を片手に大地を駆け、向かってくる魔族を次から次へと切り捨てていく姿に怯んだ魔族も多かった。剣を振り払い、血を払いながら腰まである長いエメラルド色の髪をなびかせた彼女の愁いを帯びた表情は記憶に残っている。まあ、口を開くと余計な一言が飛び出すのは昔も今も変わらないのだが……。
――女神の強さはよく知っている。あれの強さを知っている魔族ならまず封じようと考えるのも分かる
「そんなに強いんだ……(全然見えないけど)」
小声で呟いたミラにヴィンスは「はは」と乾いた笑いを零す。実際に目にしなければ彼女の強さは説明したところで理解されないだろう。今はただの魔石で、喋るだけの存在なのだから。
「……もう一つ。フラビィについてはどう思ってるの?」
フラビィと聞いてヴィンスは片眉を上げた。双眸を閉じて記憶を辿る。彼女は自分が創った魔族の一人だ。ヴィンスの事を慕っていた。その感情の中には本来芽生えないはずの“親”に対する感情が見えていた気がする。強い力を与えられていたフラビィは幹部として、時に娘としてヴィンスの側に寄り添っていた。けれど、ミラが読み取った記憶で見た彼女は以前の彼女とは違っていた。姿は変わっていないのに、性格が変わってしまったように思える。
――……
黙り込んでしまったヴィンスにミラが「ちょっと、黙らないでほしんだけど」と頬杖をついたまま言う。
――あ、ああ。いや、あの子がどうしてあんなことをしているのか分からなくてな……
「……。洗脳されている可能性は?」
――それは否定できない。私をここへ閉じ込めたヤツの能力かもしれないからな
「そう。そのフラビィがセシリヤさんと知り合いみたいなんだけど」
――……ん?
もしかしなくても、彼がフラビィの事を聞きたかったのはセシリヤと接点があるからか? ヴィンスは浮上した疑問を払拭するように首を左右に振った。いやいや、そんなまさか、同じ魔族の事を知りたいから聞いたに決まっている。絶対にそうだ、あの娘と関係があるから気になったとかそう言うことではない。うん、とヴィンスは頭の中で自己完結しようとした。が、
「子供の頃に接点があったみたいで……」
――ああ、うん。見ていたから知っている
「もしもフラビィが再びセシリヤさんに近づくなら色々と考えないと……」
ぶつぶつと対策を挙げているのを聞いているヴィンスは溜息を吐いた。まあ、フラビィの動向を探ることで敵の動きも掴めるかもしれないと思い直してヴィンスは遠い目をした。地下深く岩以外何も見えていないが……。
――好きにしたらいいんじゃないかな
「そうする」
こういう時だけ素直になるのか、こいつ……と内心思いながらもヴィンスはやはり口に出さない。
ミラは窓際から降りると両手を組んで伸びをした。
「聞きたいことも聞けたし、あんたへの報告とやらも十分だろ?」
(ほとんど報告じゃなかったと思う私が変なのか?)
――え? あ、ああ。うん……
曖昧な返事をするヴィンスにミラは「じゃあ」と一言添えて意識を遮断した。
♦♦♦
「はあ……、大丈夫だろうか」
会話が途切れた途端、ヴィンスは重い溜息をついた。情報を集めるように指示はしてあるものの、それ以外は自由にしていいと言った手前何も言えない。なんとか地上へ送り出し、人間の中へ溶け込んで数年。少しずつ情報が集まってきたのはいいが、セシリヤが絡むとどうしてもミラビリスは彼女を優先にして動く傾向にある。ヴィンスは再び深いため息をついて零した。
「……不安だ」
岩に囲まれた地下深く、ヴィンスの呟きは闇の中へと溶け込んだ。
――彼女の事になると本当に生き生きと喋るな……
「……」
こほん、と咳払いをするミラの頬に少しだけ赤みが差していた。
「僕は人間が好きじゃない」
――ああ。知っている
創られたばかりで記憶も、人間という存在もほとんど知らないミラに近づいてきた人間はミラから持ち物を奪い、用済みと口封じのためにナイフで刺そうとした。あの時の鈍く光る鋭利な刃の切先と人間の濁った瞳はミラの記憶に深く根付いている。
「でも、セシリヤさんだけは別。命の恩人ってだけじゃなくて、初めて人間の温かさを教えてくれたから……たぶん、今の僕は人間と接することが出来るんだと思う」
――……、そう、だな……
彼女へのアプローチ方法を変えればもう少し意識してくれるんじゃないかなぁ~、とヴィンスは思ったが口に出さない。たぶん、彼女を前にすると出る彼の面も素なのだろう。
「そういえば、あの女神のことは知ってるの?」
ミラの問いにヴィンスは「ああ」と頷く。一度だけ、神と魔族との争いの時に見たきりだが、彼女の戦いは地下から見ていた。他の女神たちも強かったが、一番の戦闘力を持っていたのは彼女だった。剣を片手に大地を駆け、向かってくる魔族を次から次へと切り捨てていく姿に怯んだ魔族も多かった。剣を振り払い、血を払いながら腰まである長いエメラルド色の髪をなびかせた彼女の愁いを帯びた表情は記憶に残っている。まあ、口を開くと余計な一言が飛び出すのは昔も今も変わらないのだが……。
――女神の強さはよく知っている。あれの強さを知っている魔族ならまず封じようと考えるのも分かる
「そんなに強いんだ……(全然見えないけど)」
小声で呟いたミラにヴィンスは「はは」と乾いた笑いを零す。実際に目にしなければ彼女の強さは説明したところで理解されないだろう。今はただの魔石で、喋るだけの存在なのだから。
「……もう一つ。フラビィについてはどう思ってるの?」
フラビィと聞いてヴィンスは片眉を上げた。双眸を閉じて記憶を辿る。彼女は自分が創った魔族の一人だ。ヴィンスの事を慕っていた。その感情の中には本来芽生えないはずの“親”に対する感情が見えていた気がする。強い力を与えられていたフラビィは幹部として、時に娘としてヴィンスの側に寄り添っていた。けれど、ミラが読み取った記憶で見た彼女は以前の彼女とは違っていた。姿は変わっていないのに、性格が変わってしまったように思える。
――……
黙り込んでしまったヴィンスにミラが「ちょっと、黙らないでほしんだけど」と頬杖をついたまま言う。
――あ、ああ。いや、あの子がどうしてあんなことをしているのか分からなくてな……
「……。洗脳されている可能性は?」
――それは否定できない。私をここへ閉じ込めたヤツの能力かもしれないからな
「そう。そのフラビィがセシリヤさんと知り合いみたいなんだけど」
――……ん?
もしかしなくても、彼がフラビィの事を聞きたかったのはセシリヤと接点があるからか? ヴィンスは浮上した疑問を払拭するように首を左右に振った。いやいや、そんなまさか、同じ魔族の事を知りたいから聞いたに決まっている。絶対にそうだ、あの娘と関係があるから気になったとかそう言うことではない。うん、とヴィンスは頭の中で自己完結しようとした。が、
「子供の頃に接点があったみたいで……」
――ああ、うん。見ていたから知っている
「もしもフラビィが再びセシリヤさんに近づくなら色々と考えないと……」
ぶつぶつと対策を挙げているのを聞いているヴィンスは溜息を吐いた。まあ、フラビィの動向を探ることで敵の動きも掴めるかもしれないと思い直してヴィンスは遠い目をした。地下深く岩以外何も見えていないが……。
――好きにしたらいいんじゃないかな
「そうする」
こういう時だけ素直になるのか、こいつ……と内心思いながらもヴィンスはやはり口に出さない。
ミラは窓際から降りると両手を組んで伸びをした。
「聞きたいことも聞けたし、あんたへの報告とやらも十分だろ?」
(ほとんど報告じゃなかったと思う私が変なのか?)
――え? あ、ああ。うん……
曖昧な返事をするヴィンスにミラは「じゃあ」と一言添えて意識を遮断した。
♦♦♦
「はあ……、大丈夫だろうか」
会話が途切れた途端、ヴィンスは重い溜息をついた。情報を集めるように指示はしてあるものの、それ以外は自由にしていいと言った手前何も言えない。なんとか地上へ送り出し、人間の中へ溶け込んで数年。少しずつ情報が集まってきたのはいいが、セシリヤが絡むとどうしてもミラビリスは彼女を優先にして動く傾向にある。ヴィンスは再び深いため息をついて零した。
「……不安だ」
岩に囲まれた地下深く、ヴィンスの呟きは闇の中へと溶け込んだ。
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