73 / 114
第七十話 通り名
しおりを挟む
「ちょっと見てきます!」
「見なくていい!」
セシリヤは一歩踏み出しかけたミラのローブを引っ張った。それでも、ミラは進もうとする。
「はーなーしーてーくーだーさーい! ……報酬」
「え?」
ポツリと零された言葉に反応してセシリヤが手を離した。進もうとしていたミラは離された反動でつんのめり「わっ、とと!」と言いながら転んだ。
「あ……。ごめんミラ」
顔面から地面にダイブしたミラに向かって謝罪する。
「痛た……。いえ、それよりも!」
(いや、顔面の擦り傷よりも優先したいものって何⁉ あ、セシリヤの戦闘か……)
一人でツッコミをしていたティルラは自己完結して黙り込む。ミラの中では優先事項は自分の事よりもセシリヤなのだと改めて実感する。
「セシリヤさんが報酬は後で払うと言ってましたので、その報酬は土人形戦の記憶にします! それでは、行ってきます!」
そう言い残して止める暇もなくミラは転移魔法を使った。
「あ……。はあ……、恥ずかしいからほんとやめてほしいんだけど!」
行き場を無くした手を腰に当てたセシリヤは盛大に溜息を吐いた。さきほどから置いてけぼりをくらっていた男はポカンと口を開けたままだ。
「まあいいわ。記憶を読むならこの男の雇い主に関してなにか手掛かり掴んでくるかもしれないし……。あなたが喋ってくれたら楽なんだけど?」
ねえ? と言いながら男の顎に人差し指を添えて上を向かせた。
「セシリヤ様、あまり近づくのは危険です。離れてください」
警戒心を解こうとしないアンディーンに男は目をしばたたかせていた。
「そういえば、お前の名前」
「え? ああ。名前がどうしたのよ」
「セシリヤ……。聞き覚えがあるんだが」
男は記憶を探った。セシリヤと言う名の女性。どこかで耳にした気がする……。
白銀の髪に翡翠色の瞳。一人で行動をする魔道士。
「セシリヤ=クルサット」
「そうだけど?」
男は双眸を大きく見開いた。
「翠眼の魔道士」
「なにそれ」
聞き覚えのない呼び名にセシリヤの眉が上がる。男は気付いていないのかさらに続けた。
「基本的に一人で行動し、上級クエストをこなす化け物……じみた力を持つと言われ、ドラゴンをたった一人で倒した化け物。その姿を見た者はこの世から葬られ……」
(化け物って二回も言った! この命知らず!)
「ちょっと待って。化け物と二回言ったことよりも、何? この世から葬られるって?」
セシリヤが制止を掛けた。どうしても聞き逃せない言葉があったようだ。
(やっぱり化け物呼ばわりされたこと気になるのね……それにしても物騒な噂流されてるのねセシリヤって)
「翠眼の魔道士の姿を見た者はほとんどおらず、噂話の多さに見た者はもれなく消されたんだろうって言われてるんだ。噂じゃ、クエスト管理協会の総帥と一戦交えて無傷。その容姿は筋肉隆々、高身長、目つきは悪く、睨んだものを石に変えるとか……! くそっ! 全然違うじゃないか!」
「……誰が流してるの? その噂」
ツートーンほど声を落としながらも笑顔を貼り付けているセシリヤに男が「ひっ」と小さな悲鳴を上げる。
「し、知らない! 勝手に流れてくる噂だ。俺だってお前があの翠眼の魔道士だなんて今まで気付かなかったくらいだ、噂なんてそんなもんだろ⁉」
「……噂を流したヤツを見つけ次第その口を塞ぐわ」
セシリヤの額に青筋が浮かんでいる。彼女の周囲の気温が下がっていく。
「セシリヤ様、とても人様にお見せ出来ないほどのお顔をされておられますので、どうかお怒りを鎮めてください」
「そ、そうよ! 噂でしょ? そんなのあてにならないわよ! ほら、クルバとか他の人から見たらあなたはとてもいい子よ。うん! ほら、機嫌直して~」
アンディーンとティルラに説得されたセシリヤは何度か深呼吸を繰り返して怒りを鎮めた。
「まあいいわ。改めて聞くわね、雇い主は誰?」
今度は通り名の影響もあってか、男は簡単に口を割った。
「ツ……ツノゴマ様で、す」
「はあ……。やっぱりね、あのおじさん最初に会った時から怪しいと思ってたのよね。教えてくれてありがとう。ついでにミラが戻ってきたらツノゴマの所まで案内してちょうだい」
「は、はいぃ!」
声を裏返しながら男は震えていた。
「別にあなたを葬ろうとか考えてないし、興味もないわ。まったく、変な噂信じないでくれる? ……あなたのあの魔術障壁も土人形の出来も凄いんだからもっと有益なことに役立てないと勿体ないわよ」
ため息混じりに言うセシリヤに男は奥歯を噛みしめた。
「見なくていい!」
セシリヤは一歩踏み出しかけたミラのローブを引っ張った。それでも、ミラは進もうとする。
「はーなーしーてーくーだーさーい! ……報酬」
「え?」
ポツリと零された言葉に反応してセシリヤが手を離した。進もうとしていたミラは離された反動でつんのめり「わっ、とと!」と言いながら転んだ。
「あ……。ごめんミラ」
顔面から地面にダイブしたミラに向かって謝罪する。
「痛た……。いえ、それよりも!」
(いや、顔面の擦り傷よりも優先したいものって何⁉ あ、セシリヤの戦闘か……)
一人でツッコミをしていたティルラは自己完結して黙り込む。ミラの中では優先事項は自分の事よりもセシリヤなのだと改めて実感する。
「セシリヤさんが報酬は後で払うと言ってましたので、その報酬は土人形戦の記憶にします! それでは、行ってきます!」
そう言い残して止める暇もなくミラは転移魔法を使った。
「あ……。はあ……、恥ずかしいからほんとやめてほしいんだけど!」
行き場を無くした手を腰に当てたセシリヤは盛大に溜息を吐いた。さきほどから置いてけぼりをくらっていた男はポカンと口を開けたままだ。
「まあいいわ。記憶を読むならこの男の雇い主に関してなにか手掛かり掴んでくるかもしれないし……。あなたが喋ってくれたら楽なんだけど?」
ねえ? と言いながら男の顎に人差し指を添えて上を向かせた。
「セシリヤ様、あまり近づくのは危険です。離れてください」
警戒心を解こうとしないアンディーンに男は目をしばたたかせていた。
「そういえば、お前の名前」
「え? ああ。名前がどうしたのよ」
「セシリヤ……。聞き覚えがあるんだが」
男は記憶を探った。セシリヤと言う名の女性。どこかで耳にした気がする……。
白銀の髪に翡翠色の瞳。一人で行動をする魔道士。
「セシリヤ=クルサット」
「そうだけど?」
男は双眸を大きく見開いた。
「翠眼の魔道士」
「なにそれ」
聞き覚えのない呼び名にセシリヤの眉が上がる。男は気付いていないのかさらに続けた。
「基本的に一人で行動し、上級クエストをこなす化け物……じみた力を持つと言われ、ドラゴンをたった一人で倒した化け物。その姿を見た者はこの世から葬られ……」
(化け物って二回も言った! この命知らず!)
「ちょっと待って。化け物と二回言ったことよりも、何? この世から葬られるって?」
セシリヤが制止を掛けた。どうしても聞き逃せない言葉があったようだ。
(やっぱり化け物呼ばわりされたこと気になるのね……それにしても物騒な噂流されてるのねセシリヤって)
「翠眼の魔道士の姿を見た者はほとんどおらず、噂話の多さに見た者はもれなく消されたんだろうって言われてるんだ。噂じゃ、クエスト管理協会の総帥と一戦交えて無傷。その容姿は筋肉隆々、高身長、目つきは悪く、睨んだものを石に変えるとか……! くそっ! 全然違うじゃないか!」
「……誰が流してるの? その噂」
ツートーンほど声を落としながらも笑顔を貼り付けているセシリヤに男が「ひっ」と小さな悲鳴を上げる。
「し、知らない! 勝手に流れてくる噂だ。俺だってお前があの翠眼の魔道士だなんて今まで気付かなかったくらいだ、噂なんてそんなもんだろ⁉」
「……噂を流したヤツを見つけ次第その口を塞ぐわ」
セシリヤの額に青筋が浮かんでいる。彼女の周囲の気温が下がっていく。
「セシリヤ様、とても人様にお見せ出来ないほどのお顔をされておられますので、どうかお怒りを鎮めてください」
「そ、そうよ! 噂でしょ? そんなのあてにならないわよ! ほら、クルバとか他の人から見たらあなたはとてもいい子よ。うん! ほら、機嫌直して~」
アンディーンとティルラに説得されたセシリヤは何度か深呼吸を繰り返して怒りを鎮めた。
「まあいいわ。改めて聞くわね、雇い主は誰?」
今度は通り名の影響もあってか、男は簡単に口を割った。
「ツ……ツノゴマ様で、す」
「はあ……。やっぱりね、あのおじさん最初に会った時から怪しいと思ってたのよね。教えてくれてありがとう。ついでにミラが戻ってきたらツノゴマの所まで案内してちょうだい」
「は、はいぃ!」
声を裏返しながら男は震えていた。
「別にあなたを葬ろうとか考えてないし、興味もないわ。まったく、変な噂信じないでくれる? ……あなたのあの魔術障壁も土人形の出来も凄いんだからもっと有益なことに役立てないと勿体ないわよ」
ため息混じりに言うセシリヤに男は奥歯を噛みしめた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる