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第七十五話 至近距離
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「って、いつの間にセシリヤさんペンダントを⁉ だ、誰からのプレゼントですか? 男ですか⁉ 密かにセシリヤさんへ想いを寄せている相手からですか⁉」
一気に距離を詰めてきたミラにセシリヤは近づかれた分だけ後ろに下がりながら「違うわよ!」と否定する。けれど、自分の世界に入り込んでいるミラには聞こえていないのか一人で「昨日まで男の影なんてなかったのに……くそっ! やっぱり別の宿に泊まるんじゃなかった……」とぼやいている。
「おーい、ミラー? ミラくーん? 聞いてる?」
セシリヤが目の前で手をかざしても気付いていない。
「あのね、言っておくけどこれティルラが封じられてる魔石よ。それをクルバさんがペンダントにアレンジしてくれたの!」
声量を上げて説明すれば、しっかりと届いたのかミラはきょとん、としている。ジッと魔石を見つめるとティルラと目が合った。なんだ、と安心したのも束の間。今度はセシリヤの耳に下がっているイヤリングへと視線が注がれた。
「そのイヤリングは?」
問えばセシリヤは「ああ、これ?」とイヤリングに触れた。アメジスト色の石が光りに反射する。
「これもクルバさんが加工してくれたのよ。ほら、元から持ってたペンダント。あれをイヤリングにしてもらったの。ペンダントを二つも下げるのも変かなと思っ……」
「セシリヤさん!」
言い終わる前にミラが顔を寄せてきてあまりの近さに目をしばたたかせた。
(近っ! 近い! 近い!)
後ろに下がろうとしても、背中に壁が当たりこれ以上下がることが出来ない。両肩に手を置いて力を入れながら押しても相手はびくともしなかった。
(くっ! こういう時だけ男なのかって思い出すわ!)
「セシリヤさん」
「な、なによ……」
いつになく真剣な表情と声音で名前を呼ばれてセシリヤは緊張した。次に何と言われるのか予測が出来ずゴクリ、と喉が鳴る。
ミラは手を伸ばした。伸ばされた先はセシリヤの白銀の髪。肩を少し過ぎたくらいの長さの髪に触れて掬う。さらり、とした髪はミラの手をすり抜けた。
「……」
「ミラ?」
黙っているミラにセシリヤが首を傾けた。
「今度、僕も何か贈りますので、その時は身に着けてくれますか?」
真剣な表情で、緊張を滲ませる相手にセシリヤは何度も瞬きを繰り返す。
(え? なに、なに⁉ ドキドキの展開の予感!)
ティルラが両手を頬に当てて行く末を見守っている。三人は床でいびきをかいているツノゴマとローブ男の事はすっかり忘れていた。特にミラはセシリヤからの返事待ちで頭がいっぱいだ。
「え? ああーうん? 分かった」
贈られるものによるけど、とは口に出さずとりあえず返事をすれば、相手は頬を緩ませた。
(なんだかんだでミラのこの表情には弱いのよね……)
返事をしたのにも関わらず、未だにミラは距離を詰めたままだ。まだ何か言いたいことがあるのだろうか、早いところツノゴマを移動させて朝食が食べたいんだけど……。そう思いながらセシリヤは自分よりも身長の高い相手を見上げた。
相手もセシリヤを見つめており互いの視線が交差する。
(ちょっと、ちょっと! え、この先は私は見てはいけない気が……!)
思いとは裏腹にティルラはちゃっかりと見ている。両手で顔を覆っている指の隙間からしっかりと見ている。ローブ男は気まずいのか、フードを深く被りそっぽを向いていた。ここで咳払いなんてした暁にはミラから本当に呪われかねない。ローブ男は壁と友達になることに徹していた。
周囲の行動に興味のないミラが顔を近づけた。セシリヤは脳の処理が追い付かず硬直している。アンディーンのいる洞窟でのテンパりようはどこへ行ったのだろうかとか、抵抗とか、全く頭が働かない状態のセシリヤは思いつかない。ただ、相手を見上げるだけ。僅かに鼓動が早鐘を打っているが、気にしている余裕なんてなかった。
もう一度セシリヤの髪を掬ったミラはそこへ口付けを落とした。
相手の行動が理解できていないセシリヤは目を白黒させている。そうしている間にもミラは手を離した。セシリヤの絹糸の様な白銀の髪がさらり、と流れる。
セシリヤが何か言わなければ、と言葉を探していたところに
「ふがっ!」
一際大きなツノゴマのいびきが部屋に響いた。
一気に距離を詰めてきたミラにセシリヤは近づかれた分だけ後ろに下がりながら「違うわよ!」と否定する。けれど、自分の世界に入り込んでいるミラには聞こえていないのか一人で「昨日まで男の影なんてなかったのに……くそっ! やっぱり別の宿に泊まるんじゃなかった……」とぼやいている。
「おーい、ミラー? ミラくーん? 聞いてる?」
セシリヤが目の前で手をかざしても気付いていない。
「あのね、言っておくけどこれティルラが封じられてる魔石よ。それをクルバさんがペンダントにアレンジしてくれたの!」
声量を上げて説明すれば、しっかりと届いたのかミラはきょとん、としている。ジッと魔石を見つめるとティルラと目が合った。なんだ、と安心したのも束の間。今度はセシリヤの耳に下がっているイヤリングへと視線が注がれた。
「そのイヤリングは?」
問えばセシリヤは「ああ、これ?」とイヤリングに触れた。アメジスト色の石が光りに反射する。
「これもクルバさんが加工してくれたのよ。ほら、元から持ってたペンダント。あれをイヤリングにしてもらったの。ペンダントを二つも下げるのも変かなと思っ……」
「セシリヤさん!」
言い終わる前にミラが顔を寄せてきてあまりの近さに目をしばたたかせた。
(近っ! 近い! 近い!)
後ろに下がろうとしても、背中に壁が当たりこれ以上下がることが出来ない。両肩に手を置いて力を入れながら押しても相手はびくともしなかった。
(くっ! こういう時だけ男なのかって思い出すわ!)
「セシリヤさん」
「な、なによ……」
いつになく真剣な表情と声音で名前を呼ばれてセシリヤは緊張した。次に何と言われるのか予測が出来ずゴクリ、と喉が鳴る。
ミラは手を伸ばした。伸ばされた先はセシリヤの白銀の髪。肩を少し過ぎたくらいの長さの髪に触れて掬う。さらり、とした髪はミラの手をすり抜けた。
「……」
「ミラ?」
黙っているミラにセシリヤが首を傾けた。
「今度、僕も何か贈りますので、その時は身に着けてくれますか?」
真剣な表情で、緊張を滲ませる相手にセシリヤは何度も瞬きを繰り返す。
(え? なに、なに⁉ ドキドキの展開の予感!)
ティルラが両手を頬に当てて行く末を見守っている。三人は床でいびきをかいているツノゴマとローブ男の事はすっかり忘れていた。特にミラはセシリヤからの返事待ちで頭がいっぱいだ。
「え? ああーうん? 分かった」
贈られるものによるけど、とは口に出さずとりあえず返事をすれば、相手は頬を緩ませた。
(なんだかんだでミラのこの表情には弱いのよね……)
返事をしたのにも関わらず、未だにミラは距離を詰めたままだ。まだ何か言いたいことがあるのだろうか、早いところツノゴマを移動させて朝食が食べたいんだけど……。そう思いながらセシリヤは自分よりも身長の高い相手を見上げた。
相手もセシリヤを見つめており互いの視線が交差する。
(ちょっと、ちょっと! え、この先は私は見てはいけない気が……!)
思いとは裏腹にティルラはちゃっかりと見ている。両手で顔を覆っている指の隙間からしっかりと見ている。ローブ男は気まずいのか、フードを深く被りそっぽを向いていた。ここで咳払いなんてした暁にはミラから本当に呪われかねない。ローブ男は壁と友達になることに徹していた。
周囲の行動に興味のないミラが顔を近づけた。セシリヤは脳の処理が追い付かず硬直している。アンディーンのいる洞窟でのテンパりようはどこへ行ったのだろうかとか、抵抗とか、全く頭が働かない状態のセシリヤは思いつかない。ただ、相手を見上げるだけ。僅かに鼓動が早鐘を打っているが、気にしている余裕なんてなかった。
もう一度セシリヤの髪を掬ったミラはそこへ口付けを落とした。
相手の行動が理解できていないセシリヤは目を白黒させている。そうしている間にもミラは手を離した。セシリヤの絹糸の様な白銀の髪がさらり、と流れる。
セシリヤが何か言わなければ、と言葉を探していたところに
「ふがっ!」
一際大きなツノゴマのいびきが部屋に響いた。
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