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第八十六話 セシリヤのトラウマ
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ある程度剣筋を叩き込んだブレーズは『さて』と言うなり、セシリヤを外へと連れだした。剣を抱えたままセシリヤは彼の後を追う。
『いいか、セシリヤ。剣筋は叩き込んだ通りだ。あとは実践、あるのみだ』
『実践、ですか?』
『ああ。んじゃ、終わるまで帰ってくんじゃねーぞ。ま、帰って来れねーけどな』
笑いながらブレーズは家の中へと入った。一人残されたセシリヤは顔を強張らせたまま剣をギュッと抱きしめる。背後からなにやら気配を感じたセシリヤは嫌な予感を抱いたまま恐る恐る後ろを向いた。
『……っ⁉』
そこにはでかいカエルとイモリの姿を模した魔物が二匹ずついた。四匹とも舌を出し入れしてセシリヤを見下ろしている。
『ええーと、もしかしなくてもこれを斬れってことだよね?』
問うたところで返事はない。セシリヤは鞘から剣を引き抜いて二匹を見据えた。
『よし、斬れば終わる。斬れば終わる……大丈夫、敵は四体……』
自分に言い聞かせていたセシリヤの耳に扉を開ける音が届いた。
『ああ、言い忘れていたけど……』
ブレーズが言いかけたのと同時にセシリヤがカエルへ剣を振り下ろしていた。真っ二つになったカエルに背を向けて『なんですか? 師匠』と問うセシリヤの背後で何かが動く気配を感じた。
『遅かったか。まあ、頑張れ』
そう言って扉を閉めようとする。
『ちょっと待ってください! 気になるんですけど⁉』
セシリヤの背後から影が差す。それも複数体。恐る恐るそちらへ顔を向けたセシリヤは『ひぇ』と小さな悲鳴を零した。冷汗が滝のように流れていく。
先ほど斬ったはずのカエルが再生しており、おまけに一体増えていた。合計五体になったカエルとイモリの魔物が舌を出し入れしながら近づいてくる。
『どういうことですか⁉ これ⁉ 増えてる、増えてるんですけど!』
涙目で訴えるセシリヤにブレーズは頭を掻きながら『こいつらは本体以外を斬ると増えるように魔法を掛けてあるから気を付けろ! 以上!』と言うと扉を閉めた。カチャリ、と施錠音が聞こえた時点でセシリヤは天を仰いだ。絶対に鍵を掛けたな、あの師匠と心の中で悪態を吐く。
背後から視線を感じて振り向いたセシリヤは剣を構えた。
『うぅ……、本体以外を斬ったら増えるとか最悪じゃん。あ、待って。さっき増えたカエルがどれか分からなくなった!』
震える手に力を込めたセシリヤは『そう言えば魔法は効くのかな』と疑問を口にする。物は試しだ。セシリヤは火の玉を出現させるとカエルへと放った。炎に包まれたカエルを片腕で鼻を塞ぎながら凝視する。黒く炭のようになったカエルに手ごたえを感じたセシリヤが表情を明るくして
『よしっ……』
ガッツポーズをしかけた。が、
『え、ええ……と』
黒い影の中からもう一体増えた。焼けたと思ったが、敵は無傷。むしろなぜかツヤツヤしている気がしないでもない。
『ああ! いやぁー!』
魔法は効かないと悟ったセシリヤは涙目になりながら飛びかかってくるカエルとイモリに叫びながら剣を振り回した。
『いいか、セシリヤ。剣筋は叩き込んだ通りだ。あとは実践、あるのみだ』
『実践、ですか?』
『ああ。んじゃ、終わるまで帰ってくんじゃねーぞ。ま、帰って来れねーけどな』
笑いながらブレーズは家の中へと入った。一人残されたセシリヤは顔を強張らせたまま剣をギュッと抱きしめる。背後からなにやら気配を感じたセシリヤは嫌な予感を抱いたまま恐る恐る後ろを向いた。
『……っ⁉』
そこにはでかいカエルとイモリの姿を模した魔物が二匹ずついた。四匹とも舌を出し入れしてセシリヤを見下ろしている。
『ええーと、もしかしなくてもこれを斬れってことだよね?』
問うたところで返事はない。セシリヤは鞘から剣を引き抜いて二匹を見据えた。
『よし、斬れば終わる。斬れば終わる……大丈夫、敵は四体……』
自分に言い聞かせていたセシリヤの耳に扉を開ける音が届いた。
『ああ、言い忘れていたけど……』
ブレーズが言いかけたのと同時にセシリヤがカエルへ剣を振り下ろしていた。真っ二つになったカエルに背を向けて『なんですか? 師匠』と問うセシリヤの背後で何かが動く気配を感じた。
『遅かったか。まあ、頑張れ』
そう言って扉を閉めようとする。
『ちょっと待ってください! 気になるんですけど⁉』
セシリヤの背後から影が差す。それも複数体。恐る恐るそちらへ顔を向けたセシリヤは『ひぇ』と小さな悲鳴を零した。冷汗が滝のように流れていく。
先ほど斬ったはずのカエルが再生しており、おまけに一体増えていた。合計五体になったカエルとイモリの魔物が舌を出し入れしながら近づいてくる。
『どういうことですか⁉ これ⁉ 増えてる、増えてるんですけど!』
涙目で訴えるセシリヤにブレーズは頭を掻きながら『こいつらは本体以外を斬ると増えるように魔法を掛けてあるから気を付けろ! 以上!』と言うと扉を閉めた。カチャリ、と施錠音が聞こえた時点でセシリヤは天を仰いだ。絶対に鍵を掛けたな、あの師匠と心の中で悪態を吐く。
背後から視線を感じて振り向いたセシリヤは剣を構えた。
『うぅ……、本体以外を斬ったら増えるとか最悪じゃん。あ、待って。さっき増えたカエルがどれか分からなくなった!』
震える手に力を込めたセシリヤは『そう言えば魔法は効くのかな』と疑問を口にする。物は試しだ。セシリヤは火の玉を出現させるとカエルへと放った。炎に包まれたカエルを片腕で鼻を塞ぎながら凝視する。黒く炭のようになったカエルに手ごたえを感じたセシリヤが表情を明るくして
『よしっ……』
ガッツポーズをしかけた。が、
『え、ええ……と』
黒い影の中からもう一体増えた。焼けたと思ったが、敵は無傷。むしろなぜかツヤツヤしている気がしないでもない。
『ああ! いやぁー!』
魔法は効かないと悟ったセシリヤは涙目になりながら飛びかかってくるカエルとイモリに叫びながら剣を振り回した。
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