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第八十七話 ヴァシリー戦 3/4
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「……」
セシリヤは昔のことを思い出して乾いた笑いを零した。あれのせいでカエルとイモリがトラウマになっているのだからろくな稽古じゃなかった。
(結局何体まで増えたんだっけ……)
思い出しかけてセシリヤは首を左右に振る。斬ったら増えるトラウマのせいで魔物を斬ることに躊躇してしまう。剣同士の打ち合いならば増えることはないため、戦えるが、ブランクはもちろんある。その結果がこれだ。
「やっぱり剣は出来るだけ使いたくないというか、なんというか……」
「どうしたんだよ」
「いや、別に」
口ごもるセシリヤにヴァシリーの眉が寄せられる。稽古のことを口にすればセシリヤの弱点がバレてしまうため、迂闊に話すことが出来ない。
「いいじゃない! 魔法も使えるんだから、戦うには申し分ないでしょ!」
「そうだな」
ヴァシリーは声を上げて笑った。
「さて、呼吸も整ってきたし、ヴァシリーは動けないから今のうちに!」
セシリヤはヴァシリーへ向かって走った。相手は両足が凍っているせいで身動きが取れない。けれど、彼は口角を上げて剣を掲げた。
「っ⁉」
急にセシリヤが立ち止まり、数歩バックステップする。
「おっ! 勘が鋭いのはいいことだぞ」
言いながらヴァシリーは剣先を氷目がけて思いきり突き刺した。勢いで氷が砕け、ついでに地面が抉れていた。風圧で欠片がセシリヤの方まで飛んでくる。
「噓でしょ⁉ 氷を砕くとかどんだけバカ力なの!」
「いやぁ~そんなに褒めるなよ。照れるじゃねーか」
「どこをどう聞いたら褒め言葉に聞こえるのよ……」
セシリヤは肩を落とした。対してヴァシリーは窮屈だったのか、足首を回している。
「ホントですね、頭の中は花畑ですか?」
「おい、セシリヤさんに怪我させてみろ。ただで済むと思うなよ」
いつの間に来ていたのか、ラウラとミラがギャラリーに混じってヤジを飛ばしていた。
「お前らもう来たのか。喧嘩はいいのかー?」
「別に喧嘩をしていたわけではありません」
「はっ、こいつと喧嘩とか時間の無駄……」
「それはこちらの台詞です」
互いに睨み合う。彼らの隣にいた職員たちは巻き込まれないように目を合わせないようにしている。ヴァシリーは笑いながら屈伸をして剣を握り直した。
「セシリヤ、そろそろ決着、つけるか」
「そうね……」
んじゃ、と言うが早いか、ヴァシリーが地面を蹴って接近してきた。歯を食いしばりながら振り下ろされた剣を受け止める。擦れた金属が僅かに火花を散らした。
「くっ! ああ!」
セシリヤは一歩前に踏み込んだ。押し負けることに目を丸くしたヴァシリーはすぐに口の端を吊り上げた。
「セシリヤちゃん、まだそんな力残ってたのか……」
勢いのままヴァシリーの真横に入ったセシリヤが剣を握り替えて横一閃する。剣身が届く前に縦に持ち替えたヴァシリーに阻まれる。思わず舌打ちしたセシリヤはもう一歩踏み込んで剣を打ち込んだ。
剣の打ち合いを数回繰り返したセシリヤは視線をヴァシリーの剣へと向けた。
(そろそろか……)
「なあ、セシリヤちゃん。俺はまだ技を出しちゃいなんだ……」
「そう」
「まあ、ここは狭すぎて技なんて出せないんだけど」
「出さなくていいわよ、そんなもの」
「あれ? 負けるのが怖いのか?」
煽ってくるヴァシリーに乗ることもなく、セシリヤは数歩下がった。追いかけようとしたヴァシリーは自分の意思とは関係なく、体がついていかないことに眉を寄せた。視線を向けた先は地面に剣先を付けたまま持ち上がらない己の剣。
セシリヤは昔のことを思い出して乾いた笑いを零した。あれのせいでカエルとイモリがトラウマになっているのだからろくな稽古じゃなかった。
(結局何体まで増えたんだっけ……)
思い出しかけてセシリヤは首を左右に振る。斬ったら増えるトラウマのせいで魔物を斬ることに躊躇してしまう。剣同士の打ち合いならば増えることはないため、戦えるが、ブランクはもちろんある。その結果がこれだ。
「やっぱり剣は出来るだけ使いたくないというか、なんというか……」
「どうしたんだよ」
「いや、別に」
口ごもるセシリヤにヴァシリーの眉が寄せられる。稽古のことを口にすればセシリヤの弱点がバレてしまうため、迂闊に話すことが出来ない。
「いいじゃない! 魔法も使えるんだから、戦うには申し分ないでしょ!」
「そうだな」
ヴァシリーは声を上げて笑った。
「さて、呼吸も整ってきたし、ヴァシリーは動けないから今のうちに!」
セシリヤはヴァシリーへ向かって走った。相手は両足が凍っているせいで身動きが取れない。けれど、彼は口角を上げて剣を掲げた。
「っ⁉」
急にセシリヤが立ち止まり、数歩バックステップする。
「おっ! 勘が鋭いのはいいことだぞ」
言いながらヴァシリーは剣先を氷目がけて思いきり突き刺した。勢いで氷が砕け、ついでに地面が抉れていた。風圧で欠片がセシリヤの方まで飛んでくる。
「噓でしょ⁉ 氷を砕くとかどんだけバカ力なの!」
「いやぁ~そんなに褒めるなよ。照れるじゃねーか」
「どこをどう聞いたら褒め言葉に聞こえるのよ……」
セシリヤは肩を落とした。対してヴァシリーは窮屈だったのか、足首を回している。
「ホントですね、頭の中は花畑ですか?」
「おい、セシリヤさんに怪我させてみろ。ただで済むと思うなよ」
いつの間に来ていたのか、ラウラとミラがギャラリーに混じってヤジを飛ばしていた。
「お前らもう来たのか。喧嘩はいいのかー?」
「別に喧嘩をしていたわけではありません」
「はっ、こいつと喧嘩とか時間の無駄……」
「それはこちらの台詞です」
互いに睨み合う。彼らの隣にいた職員たちは巻き込まれないように目を合わせないようにしている。ヴァシリーは笑いながら屈伸をして剣を握り直した。
「セシリヤ、そろそろ決着、つけるか」
「そうね……」
んじゃ、と言うが早いか、ヴァシリーが地面を蹴って接近してきた。歯を食いしばりながら振り下ろされた剣を受け止める。擦れた金属が僅かに火花を散らした。
「くっ! ああ!」
セシリヤは一歩前に踏み込んだ。押し負けることに目を丸くしたヴァシリーはすぐに口の端を吊り上げた。
「セシリヤちゃん、まだそんな力残ってたのか……」
勢いのままヴァシリーの真横に入ったセシリヤが剣を握り替えて横一閃する。剣身が届く前に縦に持ち替えたヴァシリーに阻まれる。思わず舌打ちしたセシリヤはもう一歩踏み込んで剣を打ち込んだ。
剣の打ち合いを数回繰り返したセシリヤは視線をヴァシリーの剣へと向けた。
(そろそろか……)
「なあ、セシリヤちゃん。俺はまだ技を出しちゃいなんだ……」
「そう」
「まあ、ここは狭すぎて技なんて出せないんだけど」
「出さなくていいわよ、そんなもの」
「あれ? 負けるのが怖いのか?」
煽ってくるヴァシリーに乗ることもなく、セシリヤは数歩下がった。追いかけようとしたヴァシリーは自分の意思とは関係なく、体がついていかないことに眉を寄せた。視線を向けた先は地面に剣先を付けたまま持ち上がらない己の剣。
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