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第九十五話 帰還
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「セシリヤ、俺の剣に掛けた重力魔法を解け」
「……」
微笑んで誤魔化そうとする妹弟子にヴァシリーは笑みを返した。
「俺の腰がそろそろ限界なんだよ。なんの嫌がらせだ⁉ あれか、噂を笑ったことを怒ってんのか⁉」
「……私、筋肉隆々じゃない」
零された言葉にヴァシリーが頭を掻いた。目の前ではセシリヤが珍しく拗ねているようで頬を膨らませていた。
「あー、笑って悪かったな。言ったのは俺じゃないが……」
最後の言葉は小さな声で付け足しておく。それでも機嫌を直さないセシリヤはそっぽを向いた。
「分かってるよ、どうせ剣に重力魔法を掛けて軽くしてたんだろ?」
「そう、だけど。……分かったわよ! 解けばいいんでしょ、解けば!」
指を鳴らした途端、腰に下げていた剣が軽くなった。正確には元の重量に戻っていた。今まで重かった分、軽く感じている。ヴァシリーは満足そうに頷くとラウラへもう一度魔法陣を展開するように頼んだ。
「セシリヤ、ミッティアで会いましょ」
淡い光に包まれながら手を伸ばしたラウラがセシリヤの頬へと触れる。指先で輪郭を撫でて離したタイミングでミラがその手を叩いた。一瞬だけ、呆けたラウラはすぐに笑い声を上げる。
「ふふっ、まあ、怖い顔。嫉妬深い男は嫌われるわよ」
お前がそれを言うの⁉ 言いかけてヴァシリーは口に出す前に呑み込んだ。巻き込まれるのだけはごめんだ。それにせっかく彼女が転移魔法を使う気になったのだから機嫌を損ねるのだけは避けたい。故に、傍観者に徹することにした。
「うるさいな。その言葉そのまま返すよ、先輩」
満面の笑みで返すミラにラウラも同じく笑みで返すが、互いに火花が散っている。セシリヤは巻き込まれたくないのか窓へ視線を向けている。
(現実逃避!)
ティルラが一人でツッコミを入れる。けれど、声に出していないせいか、やはり誰からも返事はない。
そうしている間に廊下が騒がしくなる。複数の足音と話声。四人が視線を向けた。ノック音の後、ヴァシリーが返事をすると扉が開いた。
「総帥様がいらっしゃっているとお聞きしたのですが……って、もうお帰りに⁉」
中年の男が目を丸くした。彼の視線の先では魔法陣の中にいるヴァシリーとラウラ。ヴァシリーは緩い表情で男に向かって軽く手を振っている。
「朝から会議で忙しかったのに悪かった! 邪魔したな」
「い、いえ……。えっと、ええ?」
状況がさっぱり呑み込めない男が困惑しながら言葉を探る。
「局長……」
職員の一人が男をそう呼んだ。見た目は四十代半ば。その年でここの局長を任されている時点で力量があるのだと分かる。ヴァシリーは口角を上げた。
「なかなかいい支部(ところ)だな。頑張れよ、局長!」
「……っ! お褒めにあずかり光栄です! 我々、職員一同これからも職務に励みます!」
総帥からの思わぬ激励に言葉を詰まらせた局長は両足を揃えて敬礼した。後ろの職員たちも彼に倣う。
「ははっ! そんなに畏まらなくてもいいぞ。今日のは別に視察でもなんでもないから肩の力を抜け。俺はそこの部下と妹弟子に個人的に用があって来ただけだからな」
「は、はあ……」
局長がセシリヤとミラを見た。二人は巻き込むなと首を勢いよく左右に振っている最中だ。
「と、言う事で用が終わったから俺は帰る。じゃあな、セシリヤもミラもまた五日後な」
そう言い残してヴァシリーとラウラは姿を消した。
局長は瞬きを数回繰り返すと脱力したように息を吐きだした。相当緊張していたらしい。
「局長、少しお休みになられますか?」
問われて力なく頷くと職員に付き添われて彼は部屋を出て行った。
「……」
微笑んで誤魔化そうとする妹弟子にヴァシリーは笑みを返した。
「俺の腰がそろそろ限界なんだよ。なんの嫌がらせだ⁉ あれか、噂を笑ったことを怒ってんのか⁉」
「……私、筋肉隆々じゃない」
零された言葉にヴァシリーが頭を掻いた。目の前ではセシリヤが珍しく拗ねているようで頬を膨らませていた。
「あー、笑って悪かったな。言ったのは俺じゃないが……」
最後の言葉は小さな声で付け足しておく。それでも機嫌を直さないセシリヤはそっぽを向いた。
「分かってるよ、どうせ剣に重力魔法を掛けて軽くしてたんだろ?」
「そう、だけど。……分かったわよ! 解けばいいんでしょ、解けば!」
指を鳴らした途端、腰に下げていた剣が軽くなった。正確には元の重量に戻っていた。今まで重かった分、軽く感じている。ヴァシリーは満足そうに頷くとラウラへもう一度魔法陣を展開するように頼んだ。
「セシリヤ、ミッティアで会いましょ」
淡い光に包まれながら手を伸ばしたラウラがセシリヤの頬へと触れる。指先で輪郭を撫でて離したタイミングでミラがその手を叩いた。一瞬だけ、呆けたラウラはすぐに笑い声を上げる。
「ふふっ、まあ、怖い顔。嫉妬深い男は嫌われるわよ」
お前がそれを言うの⁉ 言いかけてヴァシリーは口に出す前に呑み込んだ。巻き込まれるのだけはごめんだ。それにせっかく彼女が転移魔法を使う気になったのだから機嫌を損ねるのだけは避けたい。故に、傍観者に徹することにした。
「うるさいな。その言葉そのまま返すよ、先輩」
満面の笑みで返すミラにラウラも同じく笑みで返すが、互いに火花が散っている。セシリヤは巻き込まれたくないのか窓へ視線を向けている。
(現実逃避!)
ティルラが一人でツッコミを入れる。けれど、声に出していないせいか、やはり誰からも返事はない。
そうしている間に廊下が騒がしくなる。複数の足音と話声。四人が視線を向けた。ノック音の後、ヴァシリーが返事をすると扉が開いた。
「総帥様がいらっしゃっているとお聞きしたのですが……って、もうお帰りに⁉」
中年の男が目を丸くした。彼の視線の先では魔法陣の中にいるヴァシリーとラウラ。ヴァシリーは緩い表情で男に向かって軽く手を振っている。
「朝から会議で忙しかったのに悪かった! 邪魔したな」
「い、いえ……。えっと、ええ?」
状況がさっぱり呑み込めない男が困惑しながら言葉を探る。
「局長……」
職員の一人が男をそう呼んだ。見た目は四十代半ば。その年でここの局長を任されている時点で力量があるのだと分かる。ヴァシリーは口角を上げた。
「なかなかいい支部(ところ)だな。頑張れよ、局長!」
「……っ! お褒めにあずかり光栄です! 我々、職員一同これからも職務に励みます!」
総帥からの思わぬ激励に言葉を詰まらせた局長は両足を揃えて敬礼した。後ろの職員たちも彼に倣う。
「ははっ! そんなに畏まらなくてもいいぞ。今日のは別に視察でもなんでもないから肩の力を抜け。俺はそこの部下と妹弟子に個人的に用があって来ただけだからな」
「は、はあ……」
局長がセシリヤとミラを見た。二人は巻き込むなと首を勢いよく左右に振っている最中だ。
「と、言う事で用が終わったから俺は帰る。じゃあな、セシリヤもミラもまた五日後な」
そう言い残してヴァシリーとラウラは姿を消した。
局長は瞬きを数回繰り返すと脱力したように息を吐きだした。相当緊張していたらしい。
「局長、少しお休みになられますか?」
問われて力なく頷くと職員に付き添われて彼は部屋を出て行った。
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