翠眼の魔道士

桜乃華

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第百一話 霧散

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 魔術師はスー、ナイフの男はシン、殴りかかってきた男はジャオ、背後を取った男はロウと名乗った。彼らとカフェテラスに移動したセシリヤの元にビブリスが憤慨しながら近づいてきた。

 「翠……いや、セシリヤ何して……って、お前ら」
 「ビブリス、術式は書き終えたの?」
 「……まだ、です」
 「術式は覚えた?」

 セシリヤの問いにビブリスは胸を張る。術式を自分のものに出来たようだ。目的は大量の羊皮紙に術式を刻むことではなく、彼が術式を会得するためなので目的は達成出来ている。ビブリスの呑み込みの早さに素直に感心した。
 次はどうしようかと考えているセシリヤたちの耳が少女たちの声を拾った。

 「お姉ちゃん! おじちゃん!」

 駆け寄ってくる少女たちが一人の男性を引っ張っている。男性は三十代前半、背は高く優しそうな顔立ちに前掛けエプロンをしていた。

 「誰⁉」

 ビブリスが思わず声を上げる。

 「あのね、お父さん!」
 「娘たちの相手をして頂き、ありがとうございます」

 礼を述べて頭を下げる男性にビブリスとセシリヤも会釈で返した。少女たちの周りでは水の動物たちが浮遊しており、それを興味深くスーたちが観察している。最初に作ったネコとイヌ、それから増えて今はトリ、ネコが二匹、イヌが三匹になっていた。ビブリスが術式を正しく刻んでいる証拠だ。けれど、水の動物たちは永遠に存在出来るわけではない。魔力で作られた羊皮紙を使っているため、魔力が尽きれば動物たちは消滅してしまう。そろそろかと思っていたところで、水の動物たちが次々と霧散していった。

 「あ……」
 「消えちゃった……」

 涙目になる少女たちの頭に父親が大きな手を乗せた。それでも泣き出しそうな二人にビブリスまでもオロオロし始める。

 「やっぱり課題はこれよね……」

 泣き出してしまった少女たちを父親が抱き上げて慰めている様子を見ながらセシリヤは唸り声を上げる。その隣でスーが恐る恐る手を挙げた。

 「案がある?」
 「いや、案というか……試してみたい事があるんだけど」
 「よし! 好きにやってみて。ビブリスも一緒に!」

 促されてスーとビブリスは少女たちを連れて噴水まで近づいた。その様子を見ていた父親が口を開く。

 「あの、娘たちのワガママに付き合ってくださりありがとうございます。昨日見た大道芸が忘れられず、寝るまで魔法が使いたい、水で動物が作りたいと言っていたので……まさか昨日の今日で願いが叶うなんて」

 そう言った男の表情は柔らかい。彼の娘だけでなく、他の子供たちも興味を惹かれていたらしい。

 「提案があるんですが、聞いていただけますか?」
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