105 / 114
第百二話 名物
しおりを挟む
セシリヤが頷くと相手は話しはじめた。
「このコランマールは今まで名物と呼ばれるものがありませんでした。一応水が豊富な街としては知られておりましたが、それだけです。別に珍しくもありませんでした。ですが、昨日の大道芸を見て皆と話したんです。この街にも名物を作ろう、と」
「大道芸?」
「そんなことしてたんですか、姐さん……」
「誰が姐さんだ、誰が」
ロウたちが口に出しながらセシリヤを見る。いつの間にか自分たちを下したことで勝手にあだ名をつけられているらしい。翠眼の魔道士といい、姐さんといい何故勝手に呼び名を増やされるのか……セシリヤは溜息をついた。
「ところで、名物ってなに?」
「そ、それはまだだったのですが、今しがた思いついたのです。あの羊皮紙で作った水の動物を名物に出来ないでしょうか?」
「水が豊富な街だけに?」
「なるほど!」
「そこ、ちょっとうるさいから黙って」
セシリヤに一喝されて三人は黙った。
「あれを名物に?」
「はい。タダでとは言いません。店を運営している我々が羊皮紙を購入し、街に来た観光客たちが買い物をした際にそれを配ろうと思うんです。もちろん、街の人たちも対象とし、少しでも楽しめればなと……今日、娘たちの笑顔をみてこの街に来た人、住んでいる人たちが同じように笑顔になれる場所にしたいなと思ったんです」
男が視線を娘たちへ向ける。噴水の側では泣き止んだ少女たちが再び明るい笑い声を上げており、彼女たちの周囲には動物が浮遊していた。ビブリスたちはその表情を見て照れたような嬉しそうな表情を見せる。
もとからビブリスに術式を覚えさせて羊皮紙の生成を仕込んだらそれを何かしらの方法で売り、彼の収入源に出来ればと考えていたところだ。まさか何らかの方法がこちらに転がり込んでくるとは予想外だった。
「悪くないですね。是非ビブリスと提携を結んでください」
「ビブリスさん?」
「あそこでお子さんたちと遊んでいる人です。彼に必要な知識を叩き込んでおきますので」
「はい。あ、そうだ! ちょっと待っていてくださいね」
そう言うとおもむろに立ち上がり、近くでパン屋を営んでいる彼は自慢のパンを食べてほしいと店まで戻った。セシリヤが噴水へ視線を向けた先、少女たちが歓声を上げた。小さな両手を広げて喜びを表現している。その様子に目元を緩めていると、シンたちが控えめに声を発した。
「あの~、姐さん。俺たちは?」
「ん? そうね……三人はなにが得意なの?」
「はい! 体力には自信があります!」
三人が声を揃える。
「……それだけ?」
「はい!」
再び息の合った返事をする三人にセシリヤは深く息を吐きだした。
「それで用心棒をするようになったの?」
セシリヤの問いに三人は苦笑を見せた。用心棒になる前は工事現場や大工等をしていたのだが、魔術の普及により人手を必要としなくなってきた。必要なのは魔術を使用できる人とほんの少しの人手。魔術や魔法に頼らない仕事はあるが、資金、知識や資格が求められるためシンたちのように魔力もなく、教養も十分でない人たちは職を失っていった。それでも働かなければ生きていけない。それは魔力を持っていたビブリスも同じなのだろう。クエスト管理協会に所属するという手もあるが、街の雑用の他に魔物討伐があるため断念する人も少なくない。
「このコランマールは今まで名物と呼ばれるものがありませんでした。一応水が豊富な街としては知られておりましたが、それだけです。別に珍しくもありませんでした。ですが、昨日の大道芸を見て皆と話したんです。この街にも名物を作ろう、と」
「大道芸?」
「そんなことしてたんですか、姐さん……」
「誰が姐さんだ、誰が」
ロウたちが口に出しながらセシリヤを見る。いつの間にか自分たちを下したことで勝手にあだ名をつけられているらしい。翠眼の魔道士といい、姐さんといい何故勝手に呼び名を増やされるのか……セシリヤは溜息をついた。
「ところで、名物ってなに?」
「そ、それはまだだったのですが、今しがた思いついたのです。あの羊皮紙で作った水の動物を名物に出来ないでしょうか?」
「水が豊富な街だけに?」
「なるほど!」
「そこ、ちょっとうるさいから黙って」
セシリヤに一喝されて三人は黙った。
「あれを名物に?」
「はい。タダでとは言いません。店を運営している我々が羊皮紙を購入し、街に来た観光客たちが買い物をした際にそれを配ろうと思うんです。もちろん、街の人たちも対象とし、少しでも楽しめればなと……今日、娘たちの笑顔をみてこの街に来た人、住んでいる人たちが同じように笑顔になれる場所にしたいなと思ったんです」
男が視線を娘たちへ向ける。噴水の側では泣き止んだ少女たちが再び明るい笑い声を上げており、彼女たちの周囲には動物が浮遊していた。ビブリスたちはその表情を見て照れたような嬉しそうな表情を見せる。
もとからビブリスに術式を覚えさせて羊皮紙の生成を仕込んだらそれを何かしらの方法で売り、彼の収入源に出来ればと考えていたところだ。まさか何らかの方法がこちらに転がり込んでくるとは予想外だった。
「悪くないですね。是非ビブリスと提携を結んでください」
「ビブリスさん?」
「あそこでお子さんたちと遊んでいる人です。彼に必要な知識を叩き込んでおきますので」
「はい。あ、そうだ! ちょっと待っていてくださいね」
そう言うとおもむろに立ち上がり、近くでパン屋を営んでいる彼は自慢のパンを食べてほしいと店まで戻った。セシリヤが噴水へ視線を向けた先、少女たちが歓声を上げた。小さな両手を広げて喜びを表現している。その様子に目元を緩めていると、シンたちが控えめに声を発した。
「あの~、姐さん。俺たちは?」
「ん? そうね……三人はなにが得意なの?」
「はい! 体力には自信があります!」
三人が声を揃える。
「……それだけ?」
「はい!」
再び息の合った返事をする三人にセシリヤは深く息を吐きだした。
「それで用心棒をするようになったの?」
セシリヤの問いに三人は苦笑を見せた。用心棒になる前は工事現場や大工等をしていたのだが、魔術の普及により人手を必要としなくなってきた。必要なのは魔術を使用できる人とほんの少しの人手。魔術や魔法に頼らない仕事はあるが、資金、知識や資格が求められるためシンたちのように魔力もなく、教養も十分でない人たちは職を失っていった。それでも働かなければ生きていけない。それは魔力を持っていたビブリスも同じなのだろう。クエスト管理協会に所属するという手もあるが、街の雑用の他に魔物討伐があるため断念する人も少なくない。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる