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第百二話 名物
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セシリヤが頷くと相手は話しはじめた。
「このコランマールは今まで名物と呼ばれるものがありませんでした。一応水が豊富な街としては知られておりましたが、それだけです。別に珍しくもありませんでした。ですが、昨日の大道芸を見て皆と話したんです。この街にも名物を作ろう、と」
「大道芸?」
「そんなことしてたんですか、姐さん……」
「誰が姐さんだ、誰が」
ロウたちが口に出しながらセシリヤを見る。いつの間にか自分たちを下したことで勝手にあだ名をつけられているらしい。翠眼の魔道士といい、姐さんといい何故勝手に呼び名を増やされるのか……セシリヤは溜息をついた。
「ところで、名物ってなに?」
「そ、それはまだだったのですが、今しがた思いついたのです。あの羊皮紙で作った水の動物を名物に出来ないでしょうか?」
「水が豊富な街だけに?」
「なるほど!」
「そこ、ちょっとうるさいから黙って」
セシリヤに一喝されて三人は黙った。
「あれを名物に?」
「はい。タダでとは言いません。店を運営している我々が羊皮紙を購入し、街に来た観光客たちが買い物をした際にそれを配ろうと思うんです。もちろん、街の人たちも対象とし、少しでも楽しめればなと……今日、娘たちの笑顔をみてこの街に来た人、住んでいる人たちが同じように笑顔になれる場所にしたいなと思ったんです」
男が視線を娘たちへ向ける。噴水の側では泣き止んだ少女たちが再び明るい笑い声を上げており、彼女たちの周囲には動物が浮遊していた。ビブリスたちはその表情を見て照れたような嬉しそうな表情を見せる。
もとからビブリスに術式を覚えさせて羊皮紙の生成を仕込んだらそれを何かしらの方法で売り、彼の収入源に出来ればと考えていたところだ。まさか何らかの方法がこちらに転がり込んでくるとは予想外だった。
「悪くないですね。是非ビブリスと提携を結んでください」
「ビブリスさん?」
「あそこでお子さんたちと遊んでいる人です。彼に必要な知識を叩き込んでおきますので」
「はい。あ、そうだ! ちょっと待っていてくださいね」
そう言うとおもむろに立ち上がり、近くでパン屋を営んでいる彼は自慢のパンを食べてほしいと店まで戻った。セシリヤが噴水へ視線を向けた先、少女たちが歓声を上げた。小さな両手を広げて喜びを表現している。その様子に目元を緩めていると、シンたちが控えめに声を発した。
「あの~、姐さん。俺たちは?」
「ん? そうね……三人はなにが得意なの?」
「はい! 体力には自信があります!」
三人が声を揃える。
「……それだけ?」
「はい!」
再び息の合った返事をする三人にセシリヤは深く息を吐きだした。
「それで用心棒をするようになったの?」
セシリヤの問いに三人は苦笑を見せた。用心棒になる前は工事現場や大工等をしていたのだが、魔術の普及により人手を必要としなくなってきた。必要なのは魔術を使用できる人とほんの少しの人手。魔術や魔法に頼らない仕事はあるが、資金、知識や資格が求められるためシンたちのように魔力もなく、教養も十分でない人たちは職を失っていった。それでも働かなければ生きていけない。それは魔力を持っていたビブリスも同じなのだろう。クエスト管理協会に所属するという手もあるが、街の雑用の他に魔物討伐があるため断念する人も少なくない。
「このコランマールは今まで名物と呼ばれるものがありませんでした。一応水が豊富な街としては知られておりましたが、それだけです。別に珍しくもありませんでした。ですが、昨日の大道芸を見て皆と話したんです。この街にも名物を作ろう、と」
「大道芸?」
「そんなことしてたんですか、姐さん……」
「誰が姐さんだ、誰が」
ロウたちが口に出しながらセシリヤを見る。いつの間にか自分たちを下したことで勝手にあだ名をつけられているらしい。翠眼の魔道士といい、姐さんといい何故勝手に呼び名を増やされるのか……セシリヤは溜息をついた。
「ところで、名物ってなに?」
「そ、それはまだだったのですが、今しがた思いついたのです。あの羊皮紙で作った水の動物を名物に出来ないでしょうか?」
「水が豊富な街だけに?」
「なるほど!」
「そこ、ちょっとうるさいから黙って」
セシリヤに一喝されて三人は黙った。
「あれを名物に?」
「はい。タダでとは言いません。店を運営している我々が羊皮紙を購入し、街に来た観光客たちが買い物をした際にそれを配ろうと思うんです。もちろん、街の人たちも対象とし、少しでも楽しめればなと……今日、娘たちの笑顔をみてこの街に来た人、住んでいる人たちが同じように笑顔になれる場所にしたいなと思ったんです」
男が視線を娘たちへ向ける。噴水の側では泣き止んだ少女たちが再び明るい笑い声を上げており、彼女たちの周囲には動物が浮遊していた。ビブリスたちはその表情を見て照れたような嬉しそうな表情を見せる。
もとからビブリスに術式を覚えさせて羊皮紙の生成を仕込んだらそれを何かしらの方法で売り、彼の収入源に出来ればと考えていたところだ。まさか何らかの方法がこちらに転がり込んでくるとは予想外だった。
「悪くないですね。是非ビブリスと提携を結んでください」
「ビブリスさん?」
「あそこでお子さんたちと遊んでいる人です。彼に必要な知識を叩き込んでおきますので」
「はい。あ、そうだ! ちょっと待っていてくださいね」
そう言うとおもむろに立ち上がり、近くでパン屋を営んでいる彼は自慢のパンを食べてほしいと店まで戻った。セシリヤが噴水へ視線を向けた先、少女たちが歓声を上げた。小さな両手を広げて喜びを表現している。その様子に目元を緩めていると、シンたちが控えめに声を発した。
「あの~、姐さん。俺たちは?」
「ん? そうね……三人はなにが得意なの?」
「はい! 体力には自信があります!」
三人が声を揃える。
「……それだけ?」
「はい!」
再び息の合った返事をする三人にセシリヤは深く息を吐きだした。
「それで用心棒をするようになったの?」
セシリヤの問いに三人は苦笑を見せた。用心棒になる前は工事現場や大工等をしていたのだが、魔術の普及により人手を必要としなくなってきた。必要なのは魔術を使用できる人とほんの少しの人手。魔術や魔法に頼らない仕事はあるが、資金、知識や資格が求められるためシンたちのように魔力もなく、教養も十分でない人たちは職を失っていった。それでも働かなければ生きていけない。それは魔力を持っていたビブリスも同じなのだろう。クエスト管理協会に所属するという手もあるが、街の雑用の他に魔物討伐があるため断念する人も少なくない。
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