翠眼の魔道士

桜乃華

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第百三話 機械人形

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 「……そう」

 話を聞き終わったセシリヤは小さく零すと瞳を閉じた。足を組みなおして思案する。彼らが出来ること、さらに安定する収入を得られる方法を。指先で羊皮紙をノックしていた手を止めて再び書きかけの紙へ視線を落とした。

 「機械人形……使ってみる?」
 「機械人形ですか?」
 「そっ、機械人形。イヤなら別にいいけど」
 「イヤじゃない! イヤじゃないです!」

 前のめりになる三人に引きながらもセシリヤは苦笑と共に彼らの返答を是と受け取った。

 「フォーアラードゥング」

 人差し指を立てて地面へ向けるとすぐに地面から一体の機械人形が出てきた。鉄の顔、むき出しの関節。もちろん表情などない。三人は突如現れた機械人形に興味を惹かれて囲んでいる。大人の男性よりも少し低めの身長の人形を頭の先から足元まで視線で往復し、セシリヤへ顔を向けた。

 「まだ動かないわよ。これを動かす術式を考えるからちょっと待ってて」

 羽ペンをインクに浸しながら言うと彼らは素直に頷き再び機械人形へと視線を戻した。ロウが眉を寄せて「うーん」と唸る。その隣でジャオも同じ表情をしていた。

 「なあ、この人形に顔はないのか?」
 「ん~? そうね、機械人形はどれもこんな感じよ? のっぺらぼう」
 「そっかぁ~」
 「顔とか作ってあげられないか?」
 「作ってあげたいなぁ~」

 三人が口々に言うのを聞いていたセシリヤが思わず顔を上げた。目を丸くして何度も瞬きを繰り返した。彼らは顔のない機械人形に顔を作ると言っているのだ。今まで機械人形を作ったことは何度かあるが、顔を気にした人などいなかった。だから彼らの事が珍しくもあり、悪い人ではないのだろうとセシリヤは小さく笑う。

 「でも俺たちじゃ材料を買う金ねーしな……」
 「だよな……」

 肩を落とした大人たちにセシリヤが麻袋を渡した。受け取ったシンが目を白黒させて麻袋とセシリヤを見比べる。相手の意図が分からないと言わんばかりの表情を見せる三人にセシリヤは口角を上げた。

 「その子に顔を作ってあげたいんでしょ? そのお金好きに使っていいから材料買ってきなさい」
 「えっと、いいのか?」
 「この金を持って逃げる……かもしれないんだぞ」
 「その時はその時。まあ、そんなことしたら蔑むだけだけど」

 鼻で笑いペンを走らせるセシリヤにジャオたちは身震いした。

 「買い物に行ってきます!」
 「借りた金はちゃんと稼いで返します姐さん!」
 「行ってきます!」

 麻袋をキュッと握りしめて駆けて行く三人を見送ったセシリヤの表情は満足そうにしていた。
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