翠眼の魔道士

桜乃華

文字の大きさ
上 下
111 / 114

第百八話 夕食

しおりを挟む
 モンタナへ着くと食堂から美味しそうな香りが漂って来た。扉の開いた音に気付いて顔を覗かせたのは娘のペレシア。続いてシン、ロウだ。

 「セシリヤさん、おかえりなさい! お二方、いらっしゃい」

 誘われるままに食堂へ向かうとテーブルにはローストチキン、ボウルに入った色とりどりの野菜、人数分のスープにブロートから貰ったパンが並んでいた。

 「わぁ! 美味しそうですね」

 率直な感想を述べると、厨房から顔を出したクルバが「そう言ってもらえると作った甲斐があるってもんさ」と満足そうに笑う。同じく厨房からはジャオも顔を出す。彼も料理の手伝いをしていたらしい。意外とエプロン姿が様になっている。

 「あ、ちゃんとあの子は遂行できたのね?」
 「はい! ここに着いたら待機モード? になって今はここに」

 視線を向けた先では機械人形が直立していた。次の命令があるまでは動けない。それが機械人形だ。彼らの働きっぷりを見てセシリヤは自分が刻んだ術式で間違いはないと確信する。

 「そう。もし、この子をあと二人召喚するって言ったらどうする?」
 「!」
 「姐さん、それは……」
 「悪いことに使わない、誰かを傷つけることをしないと誓えるならだけど」

 セシリヤの言葉にシンとロウは勢いよく首を縦に振る。何度も頷いて二人は声を揃えて「ぜひ!」と言った。彼らの返答に満足そうにしていると、

 「ほら、あんたたち! 席に着きな! せっかくの料理が冷めちまうよ!」

 大皿を持ったクルバの声に全員が姿勢を正すとすぐに各々席に着いた。テーブルに並んだ料理を囲んで昨日まで考えられなかった人数での食事が始まる。賑やかな食事の中、ペレシアがクルバの隣に移動した。

 「お母さん、こんなに賑やかな食堂って何年振りかな?」
 「そうだね、あの人が生きていた時以来だね……」

 懐かしさに目を細めるクルバの表情を盗み見てペレシアは「うん」と小さく返す。父が生きていた頃は客もそれなりに多く、今のように笑いが飛び交うくらい食堂は賑わっていた。数年はほとんど客も入らず心なしか食堂は灯りが点いているにも関わらず暗い雰囲気だった。

 「続けていて良かった?」

 娘の問いにクルバは目を瞑るとすぐに開けて柔らかく微笑んだ。

 「聞かなくてもわかるだろ?」
 「あははっ、そうだね。うん!」

 笑い声を上げてペレシアは自分の席に戻ると食事を再開し、セシリヤたちと談笑を始めた。





 食事を初めて数時間後、テーブルに並んでいた料理はすべて平らげられて満足そうにしていたクルバが食器を下げた。ジャオも手伝いをと厨房へ向かう。

 「さて、さっき言っていた機械人形をあと二体召喚しようかしらね」

 セシリヤは席を立ち食堂から移動する。

 「フォーアラードゥング」

 呪文を唱えると、床から二体の機械人形が出現した。「おぉ!」と感嘆の声を上げたのはシンとロウだけではなかった。ペレシアも初めて目にする召喚に感動している。

 「そんなに純粋な反応されるとなんか照れるわね……」

 セシリヤは照れくさそうに笑った。最初に召喚した時と同じで顔などない。ペレシアは荷物を運んできた機械人形との違いに首を傾げた。

 「あの、今召喚された二体はどうして顔がないんですか? 顔だけじゃなくて色々と足りないですけど」
 「ああ。それは、ロウたちがこの子に顔を作ってくれたのよ。素敵な才能よね」

 小さな笑みを零しながら言うと、ペレシアは感心したようにシンとロウを見た。

 「はい。素敵ですね、私には出来ないですし、街の人だって出来る人は少ないと思います」
 「そうか……?」
 「そうかなぁ? へへっ、照れるな」

 頬を掻く二人にセシリヤはポシェットから数枚の羊皮紙を取り出した。それをシンとロウへと渡す。受け取った二人は羊皮紙とセシリヤを交互に見て意味が分からず頭上に疑問符をいくつも浮かべた。

 「これは機械人形を動かすためのコマンドが刻まれた羊皮紙。それで、こっちが取扱説明書みたいなもの。この子たちの核は私の魔力で作られているからよっぽどのことが無い限り停止することはないわ。命令はそこに書かれているコマンド通りよ」

 視線を落とすと、羊皮紙には箇条書きでコマンドが書かれていた。
しおりを挟む

処理中です...