翠眼の魔道士

桜乃華

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第百七話 夕刻

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 「よし、術式決まった」
 「え⁉ あれでか⁉」

 残ったビブリスの声に片眉を上げてジッと見つめれば相手は肩を揺らして口を閉ざした。コマンドを数種類用意しそれを機械人形へ施した後、シンたちがコマンドコードを指示するだけで動けるようにすることで機械人形は今よりも動きが良くなるだろう。

 「ビブリスは羊皮紙の作成続行。スーも同様ね、それと凝縮、氷結、反復の術式を構築。よろしく」

 言うだけ言って羽ペンを走らせ始めた。ビブリスは文句を言うことなく羊皮紙の作成に取り掛かる。スーは少女たちから水の動物を借りて予め術式を刻んでおいた瓶の中に凝縮し、凍らせた。ここまでは先ほどと同じ。息を吐きだし意識を集中して反復の術式を試みる。けれど、上手くいかず氷が溶けた中に残っているのは魔力が込められた水のみだ。肩を落とすスーにセシリヤがいくつか指摘とアドバイスを送る。素直に受け取ったスーはアドバイス通りに術式を構築し、何度かの失敗の後ようやく成功した。それを受け取った少女たちは満面の笑みで礼を述べるとそれぞれ貰った瓶を大事そうに抱える。彼女たちの反応につられてスーも「どういたしまして」と柔らかく微笑んだ。

 「この子たちの相手をしてくださり、ありがとうございました。もう日も暮れますし、私たちはこれで失礼します。また明日以降よろしくお願いしますね」

 ブロートが頭を下げると娘たちも真似て頭を下げた。

 「またね、おねーちゃん、おにーちゃん、おじちゃん!」
 「おじ……、またね」
 「ふっ」
 「笑うな! 翠眼の!」

 吹き出したセシリヤをビブリスが睨んだ。それでも相手は気にせず声を殺して笑い続けていた。
 ブロート親子が帰ってからほどなくして日が傾き朱色が石畳を照らし始める。街に夕刻を告げる鐘の音が鳴り始めた。

 「ふぅ……。なんとか終わった」

 テーブルには何枚もの羊皮紙。途中まで書いていた術式を黒インクで塗りつぶしているものばかりだ。完成したのは三枚。他の数枚は機械人形の取扱説明書といったところだ。ビブリスもセシリヤから言い渡されたノルマはクリアしており、スーも試行錯誤の末に凝縮から反復までの術式を構築し終えていた。

 「なんだかんだ言いつつ二人ともやれば出来るじゃない。元の素質はやっぱりいいのね」
 「……褒め言葉として受け取っておこう」

 不服そうに言うビブリスの頭上から鳴き声が聞こえてきて顔を上げると、ピー助が飛んできた。ピー助は彼の頭に止まると羽を納めてもう一鳴きした。

 「ピー助、おかえり。あの子は無事に宿まで行けたのね。よかった」

 安堵の息を吐いて席を立つ。

 「こっちもやる事終わったし、クルバさんのところに行こうか。ご飯楽しみだなぁ~」

 鼻歌を歌いそうな勢いでセシリヤが宿の方へ足を向ける。ビブリスとスーは少し躊躇っていた。誘われてはいるが本当に行っていいものなのか、と。

 「ほら、クルバさんが待っているんだから行くわよ!」

 声を張り上げるセシリヤに遅れて二人は頷くと彼女の後を追った。
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