翠眼の魔道士

桜乃華

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百十話 同行

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 自室に戻ったセシリヤはベッドに腰かけた。今日一日が長く感じたが、とても充実していたように思える。ビブリスたちの今後の心配はなさそうだ。セシリヤはベッドに寝転がった。

 「セシリヤはやっぱりお人好しだと思う」
 「そうですね……でも、彼らの今後を案じて色々な策を打ち出されているセシリヤ様は素敵でした」

 今まで黙っていたアンディーンとティルラが話しかけた。

 「だから、そんなんじゃないって」
 「じゃあなんで?」

 否定する相手にティルラが問う。セシリヤは寝転がったまま少し考え込むと口を開いた。

 「魔法や魔力は潜在的なもの。それを何かしらの方法で誰でも扱えるようにしたのが魔術。それは使い手次第で善にも悪にもなる。でも、せっかく持って生まれた力で誰かを不幸にするよりかは幸せになってほしいと思っただけよ……」
 「……ヴァシリーには遠慮なくぶっ放してたけど?」
 「っ……! あれはいいの! あの人はあれくらいじゃ倒れないし、魔法使わないと勝てな……勝て……くっ!」

 言葉を詰まらせた。魔法を使っても彼には勝てなかったのが悔しかったのだ。ベッドの上でゴロゴロしながらのたうち回っている。

 「まあでも、ビブリスたちや子供たちの表情見てたら誰かが幸せになる魔術っていいわよね……」
 「はい! あの笑顔は一生忘れません」
 「あぁー! もう、二人とも黙って! 明日早いんだから寝るわよ!」
 「あの、セシリヤ様……。明日出発されるんですよね?」

 アンディーンが控えめに声を上げる。

 「セシリヤ様がお許しくださるなら、私も旅に同行してもいいですか?」
 「え……? それは構わないけど、大丈夫なの?」

 思ってもいない精霊からの申し出にセシリヤは目を丸くする。旅についてきてくれるのは有り難いが、可能なのだろうか。セシリヤの疑問を感じ取ったのか、アンディーンは説明を始めた。

 「はい。本体は洞窟に残りますが、ブレスレットを身につけていらっしゃればパスが繋がっておりますのでいつでも顕現出来ます。あ、その代わりセシリヤ様の魔力を拝借しますがそこはご容赦ください」
 「……そんなこと出来るんだ。精霊って不思議ね、どっかの女神様もだけど」
 「ちょっと、聞こえてるんですけど!」

 抗議の声が女神から上がるが、聞こえないフリをする。

 「うん。分かった! アンディーン、これからもよろしくね。頼りにしてるから」
 「はい! よろしくお願いします!」

 ティルラの抗議が続く中、セシリヤは頷くと今度こそ寝るわよと、電気を消した。
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