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第九章
透明な剣の力 (7)
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アレフはケテルの言葉に理解が追い付かず、すっとんきょうな声を上げてしまう。
「えっと。どういうことですか?」
アレフはケテルに質問するが、ケテルの冷たい笑みのままアレフを無視し、左手に持っているヴォ―ティガーンの魂に話しかけ始める。
「ああ、お麗しゅうございます。ヴォ―ティガーン様」
「……久しいな。……ケテル」
ケテルの声に反応して、ヴォ―ティガーンの魂からしわがれた声が発せられた。
アレフは驚くが魂という非現実な物に対して信じられず、ヴォ―ティガーンの魂を見つめた。
「先生。魂なんてもの……。……腹話術かなんかですか?」
ケテルは怯えるアレフを睨みつけると、人差し指を口元に当て「しっー」とハンドサインを送った。
「お久しぶりでございます。ヴォ―ティガーン様。七年もお待たせしました」
「……七年。それほど時を経たか」
しわがれた声の主は、時間の流れを実感するような口ぶりでケテルと話す。
そんな会話にアレフも様子を気にしながらケテルに質問する。
「すいません。ケテル先生……」
「静かにしろと言っている! 黙っていろ!」
初めて聞いたケテルの暴言に、アレフは怯えて縮こまってしまう。
「……そこにいるのは、誰だ?」
「あれは、アレフ・クロウリー。そこで寝ているのはエトナ・クロウリーです。あなたを陥れた夫妻の子どもたちです」
「……忌まわしきあの家族か」
ヴォ―ティガーンの言葉は苛立ちを示していた。
アレフはヴォ―ティガーンの魂がこちらに殺意を向けている気がして、背筋に冷たいものが走る。
「……ケテル。あやつの持っている剣はなんだ?」
「あれは透明な剣でございます。彼が今の所有者のようで」
「……なら殺し奪え。あれは厄介だ」
「了承致しました」
ケテルはポケットから柄を取りだすと、剣を現し右手で構える。
アレフはケテルの行動に度肝を抜かれ、「ちょっと待ってください!」と大声を上げた。
「待って下さい。僕を殺すって何なんですか?」
「そのまんまの意味だ。さあ、構えろ! 騎士の礼は知っているだろ? 正々堂々と戦うための基本だ。でなければ、透明の剣は私を所有者として認めないからな」
それ以上語らず、ケテルはアレフに剣先を突き付けた。
アレフは怯えながらも、なんとか頭を回転させて剣を下ろさせようと考える。
「透明な剣なら渡します! だから、僕とエトナを逃がしてください! お願いします!」
「話を聞いていたか? 渡したところで所有者として認めてられなくては意味がない。私を所有者として認識させるには……、アレフ、君の死が必要だ」
ケテルは威圧しながらアレフに説明すると、ケテルの持つ剣先はエトナへと向けられた。
鋭く尖った剣先が、エトナの額に突きつけられており、アレフはケテルに言い聞かせるように慌てて止めにかかった。
「ま、まって。止めて……。待ってくれ、お願いだから」
「なら、剣を構えろ」
アレフは懇願するように願った。
今の状況からか、あまりの怖さに涙を流してしまうアレフに、ケテルは無関心に話を進めた。
「ヴォ―ティガーン様。どうか私の左腕に憑依していてください。片手で戦えば、私へ所有権が写らない可能性があります」
「……そうだな」
ヴォ―ティガーンの魂はそう言い残すと、ケテルの左手に溶けるように跡形もなく消えていった。
その直後、ケテルは苦痛な表情を浮かべ、苦しそうに唸り声を上げるが、すぐにそれは収まり、代わりにケテルの左手は青黒く変色していた。
「居心地はどうですか?」
「……ふむ、悪くはない」
ケテルの左手の甲に口が現れると、先ほどのしわがれた声がその口から発せられた。
ケテルとヴォ―ティガーンのやり取りの最中、アレフは流れた涙を拭いて、乱れた呼吸を落ち着かせようと深呼吸していた。
全くと言っていいほど、戦う決心も、勝てるビジョンも浮かばないが、アレフはエトナを守るために剣を構えた。
「さぁ、騎士の礼を」
ケテルは邪悪な笑みをアレフに向けた。
剣を持った右手を胸元で持って行き、左手を腰に回す。
アレフは嫌々騎士の礼をした。
その途端、ケテルは剣を大きく振りかぶり、アレフに向けて強く振り切った。
アレフの視界には、いつものように赤い糸が標として漂うが、それを理解するよりも早く、ケテルの剣がアレフに襲い掛かろうとしていた。
アレフは全力の振りかぶりに耐えきれるわけもなく、その振りかぶりを透明な剣で受けると、勢い良く地面へ叩きつけられてしまう。
「アレフ。一つ教えてあげよう。君みたいな勘違いは、自分を英雄だの勇者だの何だと勘違いする。特にその歳になればなおさらそれをこじらせる」
ケテルは倒れているアレフの腹に片足を乗せ、押さえつけた。
アレフはケテルに押さえられ、苦しくなり咳込んでしまう。
「だが、実際にどうだ! 子どもが大人に勝てるわけないだろ! 俺にさえも勝てない若輩が、透明な剣を持つからこうなるのだ!」
ケテルはアレフの腹をさらに強く踏みつけ、アレフの苦痛な表情を楽しむように、にやにやしていた。
アレフは身体の中で何かが鈍い音をたて、体内を泳ぎ始める感覚に苛まれると、その気持ち悪さに、ケテルへの抗う気概が薄れていった。
「さて、もう終わりにしよう」
ケテルはそう言い放ち、持っている剣を頭よりも高く構えた。
——死ぬ。
アレフが死期を悟った時だった。
ケテルの背後から、「〝エストフラーマ(火炎よ)〟」と叫び声が聞こえた。
ケテルは飛んできた火の玉を剣で振り切ると、背後に立つ男を見た。
「高潔な決闘の場に横やりとは、随分と礼儀がなっていないようだな。貴様、何者だ?」
火の玉を放った本人は息を切らしながら、その場に立っていた。
白いローブで顔を隠し、何処かの民族意匠を施した杖を持ち、男はどこか不敵な笑みを浮かべていた。
「ヒーローは遅れて登場するって相場は決まっているからね。大丈夫かい、アレフ」
ダァトの笑みはアレフに向けてのものだったか、ちらりとアレフを見ると、すぐに視線をケテルに向けた。
「何者だと言われたら、私はこの庭の管理者と答えるよ。さぁ、友を返してもらうよ。血を流させるなんて言語道断だ」
ダァトは杖を構え、ケテルに杖先を向けた。
ケテルは鼻で笑いながら、ダァトに近寄ると、ダァトが間合いに入ったのか、素早く切りかかった。
「〝アボラレ(姿を飛ばせ)〟」
その言葉とともに、ダァトはケテルの目の前から消え、今度はアレフの目の前に現れた。
「……なるほど。……お前が最後の〝魔法使い〟か」
ヴォ―ティガーンは納得するように話した。
それを聞いたケテルは驚いた様子でダァトを見た。
「いかにも、私が魔法使い。ってどこから話してるの? 腹話術かなんかで話してる?」
自分勝手に話を広げるダァトは、アレフに聞こえるくらいの声で話し始めた。
「怪我はない、とは言えないか。大丈夫。あとは任せてくれ」
アレフの傷だらけの顔と震える両手を見て、ダァトは呟いた。
その様子に、ケテルは苛立ちを見せると大声を上げた。
「どうしてこうにも俺の邪魔をするのだ! さっさと死ね!そして透明な剣をよこせ!」
ケテルはわなわなと震えながら、一目散にダァトに向かって走ってくる。
「〝フラレ(吹き飛べ)〟」
ダァトがそう呟くと、ケテルは勢いよく後ろへ飛んでいき、背中から地面に着地する。
「今なら逃がしてあげるけど?」
「クソ! ふざけてやがって!」
ケテルは立ち上がると、すぐに剣を構えた。
「ふざけてないさ。元々逃がすつもりはない」
ダァトのおしゃべり具合は健在で、その姿にアレフは安心する。
一方、ケテルの左手に付いている口が、何か話し始めた。
ケテルにしか聞こえないその声に、ケテルは納得したように頷いた。
ケテルは剣を構え直し、先ほどと同じように一目散にダァトに向かって走り始めた。
「単調だなぁ。そぉれ、〝ペトリファイ(石化しろ)〟」
ダァトの杖先から白色の光線がケテルに向かって走り出す。
その光をケテルは剣で弾き飛ばすと、勢いを止めず走ってくる。
引き続きダァトは〝ペトリファイ(石化しろ)〟と唱えるが、全てはじき返されてしまう。
ケテルがダァトに向かって切り込む頃には、ダァトも呪文を唱え、その場から姿を消す。
ケテルはそれを待っていたのか、ダァトを切る素振りを見せた後、すかさずアレフを足で押さえつけた。
ケテルの顔は自分が一枚上手だと喜ぶように笑みを浮かべ、すかさずアレフに切りかかろうとする。
「まずい!〝アボラレ(姿を飛ばせ)〟」
ケテルと入れ替わるように場所を移動したダァトは、すかさず、アレフからケテルを遠ざけるため、ケテルの背後に魔法で飛び込んだ。
それが大きな失敗だった。
ケテルのアレフに切りかかる素振りは囮で、近寄ってきたダァトに向かって一突き、ダァトの心臓に向かって付き刺した。
ダァトは驚いた様に目を真ん丸にして、ケテルが刺した箇所を恐る恐る見た。
ダァトはケテルの行動に驚き、何かを呟いていた。
「……ダァト」
アレフは振り絞るように、ダァトを呼びかけるが、それをおしゃべりなダァトが応じることはなかった。
ケテルは愉悦な表情で、ダァトの胸から剣を引き抜いた。
ダァトは無気力にその場に倒れた。
ケテルはダァトに興味を無くし、アレフを見下ろした。
「次はお前だ」
その言葉の後に、ケテルは剣を高々と掲げるが、突然ピタリと動きを止める。
信じられないと言った表情で、自分の口から溢れてくる血液を確認する。
「……死の呪文か!」
ケテルの左手の口が叫んだ。
次々と溢れ出る吐血にケテルは言葉を失うが、ケテルの左手の口は「……何をしている! 早く殺せ!」と叫んでいた。
言われるがままケテルはアレフに向かって倒れ込むように剣を刺そうとする。
既に憔悴しきっていたアレフではあったが、何とか一矢報いろうと、精一杯力を込めて透明な剣をケテルに向かって突き出した。
手に重たいものがのしかかったが、それと同時、頭に衝撃が走る。
そのまま、アレフの意識は深い奈落の中へと落ちていった。
「えっと。どういうことですか?」
アレフはケテルに質問するが、ケテルの冷たい笑みのままアレフを無視し、左手に持っているヴォ―ティガーンの魂に話しかけ始める。
「ああ、お麗しゅうございます。ヴォ―ティガーン様」
「……久しいな。……ケテル」
ケテルの声に反応して、ヴォ―ティガーンの魂からしわがれた声が発せられた。
アレフは驚くが魂という非現実な物に対して信じられず、ヴォ―ティガーンの魂を見つめた。
「先生。魂なんてもの……。……腹話術かなんかですか?」
ケテルは怯えるアレフを睨みつけると、人差し指を口元に当て「しっー」とハンドサインを送った。
「お久しぶりでございます。ヴォ―ティガーン様。七年もお待たせしました」
「……七年。それほど時を経たか」
しわがれた声の主は、時間の流れを実感するような口ぶりでケテルと話す。
そんな会話にアレフも様子を気にしながらケテルに質問する。
「すいません。ケテル先生……」
「静かにしろと言っている! 黙っていろ!」
初めて聞いたケテルの暴言に、アレフは怯えて縮こまってしまう。
「……そこにいるのは、誰だ?」
「あれは、アレフ・クロウリー。そこで寝ているのはエトナ・クロウリーです。あなたを陥れた夫妻の子どもたちです」
「……忌まわしきあの家族か」
ヴォ―ティガーンの言葉は苛立ちを示していた。
アレフはヴォ―ティガーンの魂がこちらに殺意を向けている気がして、背筋に冷たいものが走る。
「……ケテル。あやつの持っている剣はなんだ?」
「あれは透明な剣でございます。彼が今の所有者のようで」
「……なら殺し奪え。あれは厄介だ」
「了承致しました」
ケテルはポケットから柄を取りだすと、剣を現し右手で構える。
アレフはケテルの行動に度肝を抜かれ、「ちょっと待ってください!」と大声を上げた。
「待って下さい。僕を殺すって何なんですか?」
「そのまんまの意味だ。さあ、構えろ! 騎士の礼は知っているだろ? 正々堂々と戦うための基本だ。でなければ、透明の剣は私を所有者として認めないからな」
それ以上語らず、ケテルはアレフに剣先を突き付けた。
アレフは怯えながらも、なんとか頭を回転させて剣を下ろさせようと考える。
「透明な剣なら渡します! だから、僕とエトナを逃がしてください! お願いします!」
「話を聞いていたか? 渡したところで所有者として認めてられなくては意味がない。私を所有者として認識させるには……、アレフ、君の死が必要だ」
ケテルは威圧しながらアレフに説明すると、ケテルの持つ剣先はエトナへと向けられた。
鋭く尖った剣先が、エトナの額に突きつけられており、アレフはケテルに言い聞かせるように慌てて止めにかかった。
「ま、まって。止めて……。待ってくれ、お願いだから」
「なら、剣を構えろ」
アレフは懇願するように願った。
今の状況からか、あまりの怖さに涙を流してしまうアレフに、ケテルは無関心に話を進めた。
「ヴォ―ティガーン様。どうか私の左腕に憑依していてください。片手で戦えば、私へ所有権が写らない可能性があります」
「……そうだな」
ヴォ―ティガーンの魂はそう言い残すと、ケテルの左手に溶けるように跡形もなく消えていった。
その直後、ケテルは苦痛な表情を浮かべ、苦しそうに唸り声を上げるが、すぐにそれは収まり、代わりにケテルの左手は青黒く変色していた。
「居心地はどうですか?」
「……ふむ、悪くはない」
ケテルの左手の甲に口が現れると、先ほどのしわがれた声がその口から発せられた。
ケテルとヴォ―ティガーンのやり取りの最中、アレフは流れた涙を拭いて、乱れた呼吸を落ち着かせようと深呼吸していた。
全くと言っていいほど、戦う決心も、勝てるビジョンも浮かばないが、アレフはエトナを守るために剣を構えた。
「さぁ、騎士の礼を」
ケテルは邪悪な笑みをアレフに向けた。
剣を持った右手を胸元で持って行き、左手を腰に回す。
アレフは嫌々騎士の礼をした。
その途端、ケテルは剣を大きく振りかぶり、アレフに向けて強く振り切った。
アレフの視界には、いつものように赤い糸が標として漂うが、それを理解するよりも早く、ケテルの剣がアレフに襲い掛かろうとしていた。
アレフは全力の振りかぶりに耐えきれるわけもなく、その振りかぶりを透明な剣で受けると、勢い良く地面へ叩きつけられてしまう。
「アレフ。一つ教えてあげよう。君みたいな勘違いは、自分を英雄だの勇者だの何だと勘違いする。特にその歳になればなおさらそれをこじらせる」
ケテルは倒れているアレフの腹に片足を乗せ、押さえつけた。
アレフはケテルに押さえられ、苦しくなり咳込んでしまう。
「だが、実際にどうだ! 子どもが大人に勝てるわけないだろ! 俺にさえも勝てない若輩が、透明な剣を持つからこうなるのだ!」
ケテルはアレフの腹をさらに強く踏みつけ、アレフの苦痛な表情を楽しむように、にやにやしていた。
アレフは身体の中で何かが鈍い音をたて、体内を泳ぎ始める感覚に苛まれると、その気持ち悪さに、ケテルへの抗う気概が薄れていった。
「さて、もう終わりにしよう」
ケテルはそう言い放ち、持っている剣を頭よりも高く構えた。
——死ぬ。
アレフが死期を悟った時だった。
ケテルの背後から、「〝エストフラーマ(火炎よ)〟」と叫び声が聞こえた。
ケテルは飛んできた火の玉を剣で振り切ると、背後に立つ男を見た。
「高潔な決闘の場に横やりとは、随分と礼儀がなっていないようだな。貴様、何者だ?」
火の玉を放った本人は息を切らしながら、その場に立っていた。
白いローブで顔を隠し、何処かの民族意匠を施した杖を持ち、男はどこか不敵な笑みを浮かべていた。
「ヒーローは遅れて登場するって相場は決まっているからね。大丈夫かい、アレフ」
ダァトの笑みはアレフに向けてのものだったか、ちらりとアレフを見ると、すぐに視線をケテルに向けた。
「何者だと言われたら、私はこの庭の管理者と答えるよ。さぁ、友を返してもらうよ。血を流させるなんて言語道断だ」
ダァトは杖を構え、ケテルに杖先を向けた。
ケテルは鼻で笑いながら、ダァトに近寄ると、ダァトが間合いに入ったのか、素早く切りかかった。
「〝アボラレ(姿を飛ばせ)〟」
その言葉とともに、ダァトはケテルの目の前から消え、今度はアレフの目の前に現れた。
「……なるほど。……お前が最後の〝魔法使い〟か」
ヴォ―ティガーンは納得するように話した。
それを聞いたケテルは驚いた様子でダァトを見た。
「いかにも、私が魔法使い。ってどこから話してるの? 腹話術かなんかで話してる?」
自分勝手に話を広げるダァトは、アレフに聞こえるくらいの声で話し始めた。
「怪我はない、とは言えないか。大丈夫。あとは任せてくれ」
アレフの傷だらけの顔と震える両手を見て、ダァトは呟いた。
その様子に、ケテルは苛立ちを見せると大声を上げた。
「どうしてこうにも俺の邪魔をするのだ! さっさと死ね!そして透明な剣をよこせ!」
ケテルはわなわなと震えながら、一目散にダァトに向かって走ってくる。
「〝フラレ(吹き飛べ)〟」
ダァトがそう呟くと、ケテルは勢いよく後ろへ飛んでいき、背中から地面に着地する。
「今なら逃がしてあげるけど?」
「クソ! ふざけてやがって!」
ケテルは立ち上がると、すぐに剣を構えた。
「ふざけてないさ。元々逃がすつもりはない」
ダァトのおしゃべり具合は健在で、その姿にアレフは安心する。
一方、ケテルの左手に付いている口が、何か話し始めた。
ケテルにしか聞こえないその声に、ケテルは納得したように頷いた。
ケテルは剣を構え直し、先ほどと同じように一目散にダァトに向かって走り始めた。
「単調だなぁ。そぉれ、〝ペトリファイ(石化しろ)〟」
ダァトの杖先から白色の光線がケテルに向かって走り出す。
その光をケテルは剣で弾き飛ばすと、勢いを止めず走ってくる。
引き続きダァトは〝ペトリファイ(石化しろ)〟と唱えるが、全てはじき返されてしまう。
ケテルがダァトに向かって切り込む頃には、ダァトも呪文を唱え、その場から姿を消す。
ケテルはそれを待っていたのか、ダァトを切る素振りを見せた後、すかさずアレフを足で押さえつけた。
ケテルの顔は自分が一枚上手だと喜ぶように笑みを浮かべ、すかさずアレフに切りかかろうとする。
「まずい!〝アボラレ(姿を飛ばせ)〟」
ケテルと入れ替わるように場所を移動したダァトは、すかさず、アレフからケテルを遠ざけるため、ケテルの背後に魔法で飛び込んだ。
それが大きな失敗だった。
ケテルのアレフに切りかかる素振りは囮で、近寄ってきたダァトに向かって一突き、ダァトの心臓に向かって付き刺した。
ダァトは驚いた様に目を真ん丸にして、ケテルが刺した箇所を恐る恐る見た。
ダァトはケテルの行動に驚き、何かを呟いていた。
「……ダァト」
アレフは振り絞るように、ダァトを呼びかけるが、それをおしゃべりなダァトが応じることはなかった。
ケテルは愉悦な表情で、ダァトの胸から剣を引き抜いた。
ダァトは無気力にその場に倒れた。
ケテルはダァトに興味を無くし、アレフを見下ろした。
「次はお前だ」
その言葉の後に、ケテルは剣を高々と掲げるが、突然ピタリと動きを止める。
信じられないと言った表情で、自分の口から溢れてくる血液を確認する。
「……死の呪文か!」
ケテルの左手の口が叫んだ。
次々と溢れ出る吐血にケテルは言葉を失うが、ケテルの左手の口は「……何をしている! 早く殺せ!」と叫んでいた。
言われるがままケテルはアレフに向かって倒れ込むように剣を刺そうとする。
既に憔悴しきっていたアレフではあったが、何とか一矢報いろうと、精一杯力を込めて透明な剣をケテルに向かって突き出した。
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