せっかく異世界から帰ってきたのに、これじゃあ意味がない

乙藤 詩

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二十一話

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「クソックソックソッ!」

狭い路地で、誰も追ってきていない事を確認するや否や、尊は壁を叩きながら悪態をつく。

「終わった!傷害事件を起こしちまった。クソッ!あいつが悪いんだ。俺を挑発するような事を言いやがって。そうだ、俺は悪くない。悪くないのに、なんで俺が全てを失わなきゃならないんだ。」

尊は後悔や反省をする事もなく、只々冬馬を憎んでいた。
冬馬のせいで自分は職や地位を失ったと自分のした事を棚に上げていらぬ怒りを冬馬に向けた。

「何で俺だけ全てを失わなきゃならないんだ。折角ここまでの地位を築いたというのに。」

尊の悪態は止まらない。

「クソっ!マジであいつだけは許さねー。」

尊は暗い路地で冬馬を落とし入れる方法を考えるが、取り巻きも仲間もいない状態で、冬馬に手を出すのは不可能なように思えた。
何故かいきなり腕っぷしがよくなった冬馬は自分一人じゃ到底太刀打ち出来そうにない。
次の一手が見つからずイライラしていると、路地の奥から声がした。

「僕たちが協力してあげようか?」

「誰だ?」

その声に尊が警戒心を滲ませる。

「矢野冬馬だろ?僕もあいつ嫌いなんだ。冬馬を傷つける一番いい方法を僕は知ってるよ。」

徐々に近づいて来た人物はどうやら二人のようだった。
一人は尊に話しかけて来た男で、小柄で目が大きく、一見女性と間違えるくらい可愛い見た目だ。
もう一人は全身黒ずくめの背が高い男だ。
彫が深い端正な顔だが、ニヤッと笑う姿は軽薄に見えた。

「お前たち何者だ?」

「僕たちが何者かなんて、君には関係ないだろ。僕たちも君が誰かなんて、興味がないよ。でも、共通しているのは冬馬が嫌いってこと。違う⁇」 

可愛い見た目とは裏腹に棘のある物言いで尊に詰め寄る。
次の手がない尊にとってもこれは悪くない話だった。
しかし、相手の意図が見えない。
直ぐにでも頷きたいところだったがそれをグッと堪え、尊は二人に聞いた。

「お前たち二人が俺に協力するメリットは何だ?」

「意外と警戒心が強いんだな。うーん、そうだな。簡単に痛い目見てもらうと言っても、冬馬は一筋縄ではいかないと思うんだ。君もそれはよく分かってると思うけど。」

まるで、さっきまでの出来事を見ていたような口ぶりに尊は驚きを隠せなかった。
尚も男は続ける。

「僕たちは冬馬にまずは警戒心なく近づきたいんだよね。その方が行動を起こしやすいからね。だから、君には職場の事や冬馬の交友関係とかをできるだけ細かく教えてほしい。それが君を僕たちの仲間に引き入れる一番の理由かな。どうかな?」

尊は考え込む仕草を見せる。だが、この機会を逃す手はなかった。一通り逡巡して見せた尊は渋々を装って答えた。

「そういう事なら、仕方ないから協力してやってもいい。」

その見え見えな尊の態度にクスッと男たちは笑う。

「ありがとう。助かるよ。でも、取り敢えず君は身を隠した方がいいね。今は僕たちが用意した場所で大人しくしてて。捕まってしまっては計画が台無しになってしまうだろ。」

「まぁまだ冬馬もあの様子じゃどうなるかわからないしな。」

「こんな簡単に居なくなられちゃ楽しくないよ。もっともっと僕たちを楽しませてくれなきゃ、ねぇ。」

キラキラとした笑顔でそう言う男に尊はこの時初めて恐怖を感じた。
得体のしれない黒い感情がこの男を支配している。
きっとここに来るまでに、多少なりとも自分の事も調べられている。
だが今となってはいく当てもない尊はその二人に従うしかなかった。
闇夜に包まれた路地で三人が結託した。
またしても冬馬に恐ろしい魔の手が襲い掛かろうとしていた。
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