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強面騎士団長の憂鬱⑥
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討伐遠征に出てから数日が経過していた。
心配していたフィリスの初陣も、数日も経てば板につき、持ち前の剣術で華麗に魔物達を討伐できるようになっていた。
此処までに中型の魔物3体と、大型魔物を1体討伐していた。小型のものは害も少なければ希少価値も殆どないので、端から討伐しない。
なので成果としては上々であると言っても問題なかった。
しかし、流石に大型の魔物を討伐する時にはジャスもフィリスの横に付き一緒に戦った。
そして討伐班で連携を取りながら追い込み討伐に成功した。
思った以上の成果と、フィリスの活躍にこの分だと少し早めに遠征を切り上げても問題はなさそうだとジャスは胸を撫で下ろすのだった。
本日の討伐を終えたジャス達は、野営のためテントを張っていた。
少し開けた場所の中心にフィリスのテント、それを囲うようにして他の騎士たちもテントを張っていく。
フィリスはその間用意した腰掛けに座りその様子を眺めていた。
そこへたまたま近くで野営をしていた別の班の者が姿を現した。
そしてジャスたちの姿を認めると、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ブライトさん!今日は此処で野営ですか?俺たちもこの近くにテントを張っているんですよ。」
人懐こい笑顔を振り撒きながら、ミズリーがジャスに話しかける。その様をフィリスが静かに眺めていた。
そんなフィリスに気づいたミズリーが慌てて敬礼をする。するとフィリスは興味がなさそうに顔を横に逸らした。
「あれっ、王太子様どうされたんですか?いつもは笑顔で物腰の柔らかい方なのに。」
そんなフィリスの態度にミズリーが首を傾げる。
ジャスに対しては酷い態度のフィリスも他の者には分け隔てなく優しく愛想が良いのでいつもと違う態度に少なからず戸惑いを見せたのだ。
「きっと慣れない討伐遠征でお疲れなんだ。」
そうジャスが直ぐにフォローをするとミズリーも特に気にした様子もなく頷いた。
「そうですよね。野外で数日過ごすだけでも、大変ですもんね。」
そんなミズリーの態度にジャスもホッと顔を綻ばせた。
「討伐の成果はどうですか?俺たちも何頭か魔物を討伐しましたよ。」
「あぁ、うちもフィリス様が活躍されているよ。互いに怪我もなく順調でよかった。」
「じゃあ、この討伐が終わったら一回飲みにでも行きませんか?ブライトさん、殆ど城から出ないから、なかなか会える機会もないですしたまには羽を伸ばすのはどうですか?」
「うーん、でもこの討伐遠征で帰ってからの仕事も溜まっているだろうしな・・・」
ジャスが誘いに消極的な様子を見るや否や、断らせるものかとミズリーが言葉を畳み掛ける。
「もう、なんでそんなに堅物なんですか!そんなに仕事ばっかりしてると体に悪いですよ!いいですか?人は息抜きというものも大事なんですよ。たまには可愛い後輩と外で飲んで、仕事をお休みするのもいいでしょう?」
そんな必死の後輩にジャスも思わず破顔する。いつも無表情で威厳のある顔が途端に柔らかく優しいものに変わる。
それを嬉しそうにミズリーが見ていた。
「ははっ、可愛い後輩って自分で言うなんてお前は本当に仕様がないな。分かった。この討伐遠征が終わったら時間を作ろう。たまにはミズリーのおすすめの店で飲むのも悪くないかもな。」
そう言ってジャスがミズリーの頭をポンポンと撫でると目を輝かせて自分の野営地へと戻っていった。
「絶対に約束ですからね!」
手がちぎれそうなほど勢いよく手を振るミズリーにククっとジャスが思わず笑い声を上げた。
そんな2人のやり取りを暗い瞳でじーっと見ている人物がいる事にジャスは気づいていなかった。
「ねぇ、ちょっと話があるんだけど。」
テントも張り終えこれから他の騎士と護衛を交代しながら休憩をとろうとしていたジャスのところへフィリスがやってきてそう言った。
「では、フィリス様のテントの方へ向かいます。」
ジャスが無表情のままそう返すと、フィリスは鋭い双眸でジャスを睨みながら、
「こんな護衛のいる所では話せないよ。ちょっとこっちにきて!」
と強引にジャスの腕を引っ張り、森の方へと連れて行こうとする。
「フィリス様、お待ちください。森の方は危険なので、ここでお話をっ!」
「うるさい!いいから黙って来て!」
有無を言わせぬ口調でそう言い放つとどんどん森の奥へと進んでいくフィリスにジャスは小さく溜息を吐いた。
俺は今度は何をしてしまったのだろう。
フィリスが怒っていることは態度と口調で理解できたが、どうして怒っているのかは全く理解ができずジャスは困惑した。
フィリスの怒りをあまり目の当たりにしたことのない騎士たちはそんな2人を止めることも忘れ、ただ呆然とするばかりだった。
「フィリス様、お願いですからこれ以上森へ行くのはおやめください。いくら私がついているとはいえ危険です。」
もしフィリスの身に何かあったらと考えただけで、ジャスは生きた心地がしなかった。
そんな思いを知ってか知らずかフィリスは野営地からある程度離れたところまで来ると歩みを止めた。
そして、振り返りざまにジャスを鋭い眼差しで睨みつけた。
「さっきは随分楽しそうに別の部隊の騎士と話してたね。」
フィリスにそう言われて、ジャスは先程のミズリーとの会話を思い出していた。
「テントが張れるまでの間こっちはずっと待っているというのに、手を止めて楽しそうに会話するなんてどういうつもり?」
普段騎士同士の言葉のやり取りくらいで目くじらを立てたりしないフィリスがそんな些細な理由でここまで怒ることにジャスは流石に面食らう。
しかしそれは自分が相手であるからだと直ぐに理解することができた。
やはり俺はかなり嫌われているんだな・・・
ジャスはそう思うと何故か胸がツキンと痛んだ。
最近では夜伽の時、憎悪だけではない優しさや慈しみをフィリスの瞳に見出していたジャスは、それが全部自分の思い違いだったと改めて実感し、頭を垂れた。
「騎士の仕事に集中せず、フィリス様の気分を害してしまい誠に申し訳ございません。」
心配していたフィリスの初陣も、数日も経てば板につき、持ち前の剣術で華麗に魔物達を討伐できるようになっていた。
此処までに中型の魔物3体と、大型魔物を1体討伐していた。小型のものは害も少なければ希少価値も殆どないので、端から討伐しない。
なので成果としては上々であると言っても問題なかった。
しかし、流石に大型の魔物を討伐する時にはジャスもフィリスの横に付き一緒に戦った。
そして討伐班で連携を取りながら追い込み討伐に成功した。
思った以上の成果と、フィリスの活躍にこの分だと少し早めに遠征を切り上げても問題はなさそうだとジャスは胸を撫で下ろすのだった。
本日の討伐を終えたジャス達は、野営のためテントを張っていた。
少し開けた場所の中心にフィリスのテント、それを囲うようにして他の騎士たちもテントを張っていく。
フィリスはその間用意した腰掛けに座りその様子を眺めていた。
そこへたまたま近くで野営をしていた別の班の者が姿を現した。
そしてジャスたちの姿を認めると、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ブライトさん!今日は此処で野営ですか?俺たちもこの近くにテントを張っているんですよ。」
人懐こい笑顔を振り撒きながら、ミズリーがジャスに話しかける。その様をフィリスが静かに眺めていた。
そんなフィリスに気づいたミズリーが慌てて敬礼をする。するとフィリスは興味がなさそうに顔を横に逸らした。
「あれっ、王太子様どうされたんですか?いつもは笑顔で物腰の柔らかい方なのに。」
そんなフィリスの態度にミズリーが首を傾げる。
ジャスに対しては酷い態度のフィリスも他の者には分け隔てなく優しく愛想が良いのでいつもと違う態度に少なからず戸惑いを見せたのだ。
「きっと慣れない討伐遠征でお疲れなんだ。」
そうジャスが直ぐにフォローをするとミズリーも特に気にした様子もなく頷いた。
「そうですよね。野外で数日過ごすだけでも、大変ですもんね。」
そんなミズリーの態度にジャスもホッと顔を綻ばせた。
「討伐の成果はどうですか?俺たちも何頭か魔物を討伐しましたよ。」
「あぁ、うちもフィリス様が活躍されているよ。互いに怪我もなく順調でよかった。」
「じゃあ、この討伐が終わったら一回飲みにでも行きませんか?ブライトさん、殆ど城から出ないから、なかなか会える機会もないですしたまには羽を伸ばすのはどうですか?」
「うーん、でもこの討伐遠征で帰ってからの仕事も溜まっているだろうしな・・・」
ジャスが誘いに消極的な様子を見るや否や、断らせるものかとミズリーが言葉を畳み掛ける。
「もう、なんでそんなに堅物なんですか!そんなに仕事ばっかりしてると体に悪いですよ!いいですか?人は息抜きというものも大事なんですよ。たまには可愛い後輩と外で飲んで、仕事をお休みするのもいいでしょう?」
そんな必死の後輩にジャスも思わず破顔する。いつも無表情で威厳のある顔が途端に柔らかく優しいものに変わる。
それを嬉しそうにミズリーが見ていた。
「ははっ、可愛い後輩って自分で言うなんてお前は本当に仕様がないな。分かった。この討伐遠征が終わったら時間を作ろう。たまにはミズリーのおすすめの店で飲むのも悪くないかもな。」
そう言ってジャスがミズリーの頭をポンポンと撫でると目を輝かせて自分の野営地へと戻っていった。
「絶対に約束ですからね!」
手がちぎれそうなほど勢いよく手を振るミズリーにククっとジャスが思わず笑い声を上げた。
そんな2人のやり取りを暗い瞳でじーっと見ている人物がいる事にジャスは気づいていなかった。
「ねぇ、ちょっと話があるんだけど。」
テントも張り終えこれから他の騎士と護衛を交代しながら休憩をとろうとしていたジャスのところへフィリスがやってきてそう言った。
「では、フィリス様のテントの方へ向かいます。」
ジャスが無表情のままそう返すと、フィリスは鋭い双眸でジャスを睨みながら、
「こんな護衛のいる所では話せないよ。ちょっとこっちにきて!」
と強引にジャスの腕を引っ張り、森の方へと連れて行こうとする。
「フィリス様、お待ちください。森の方は危険なので、ここでお話をっ!」
「うるさい!いいから黙って来て!」
有無を言わせぬ口調でそう言い放つとどんどん森の奥へと進んでいくフィリスにジャスは小さく溜息を吐いた。
俺は今度は何をしてしまったのだろう。
フィリスが怒っていることは態度と口調で理解できたが、どうして怒っているのかは全く理解ができずジャスは困惑した。
フィリスの怒りをあまり目の当たりにしたことのない騎士たちはそんな2人を止めることも忘れ、ただ呆然とするばかりだった。
「フィリス様、お願いですからこれ以上森へ行くのはおやめください。いくら私がついているとはいえ危険です。」
もしフィリスの身に何かあったらと考えただけで、ジャスは生きた心地がしなかった。
そんな思いを知ってか知らずかフィリスは野営地からある程度離れたところまで来ると歩みを止めた。
そして、振り返りざまにジャスを鋭い眼差しで睨みつけた。
「さっきは随分楽しそうに別の部隊の騎士と話してたね。」
フィリスにそう言われて、ジャスは先程のミズリーとの会話を思い出していた。
「テントが張れるまでの間こっちはずっと待っているというのに、手を止めて楽しそうに会話するなんてどういうつもり?」
普段騎士同士の言葉のやり取りくらいで目くじらを立てたりしないフィリスがそんな些細な理由でここまで怒ることにジャスは流石に面食らう。
しかしそれは自分が相手であるからだと直ぐに理解することができた。
やはり俺はかなり嫌われているんだな・・・
ジャスはそう思うと何故か胸がツキンと痛んだ。
最近では夜伽の時、憎悪だけではない優しさや慈しみをフィリスの瞳に見出していたジャスは、それが全部自分の思い違いだったと改めて実感し、頭を垂れた。
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